怪異奇譚
きさらぎ駅から帰ってきて、それ以来ずっと夢を見る
最初は何処かで見た景色だった誰かと行った遊園地、賑やかなだったそこは気づけば無人の駅のホームで、また電車か…とその時は思ってた
近くにあったベンチに座り、ここはどこだろうと見渡してもホーム以外は暗くて何も見えない、はぁ…と溜め息をつけば後ろから幼い子供の声がした
「今から来る電車に乗ると酷い目にあうよ」
「誰?」
「ダレカ」
「…はぁ…またか…」
また、怪異か…連続は疲れるなぁ…
ベンチで座って夢、覚めないかなぁて思ってればホームにまるで遊園地にあるアトラクションのような電車がとまる
…乗らないほうがいいよなぁとは思うんだけど、さっきの声の主が気になるんだよなぁ乗せようとする気がする
「ねぇ、乗らないの?」
「酷い目にあうんでしょ」
「あうよ」
「なら、乗りたくないなぁ」
「はやく、のりなよ」
「嫌だよ」
「のれよ」
「あーあ、本性でてるよ?」
「ノレ」
「はいはい、乗ればいいんでしょ?」
「うん」
諦めて電車に乗りこめば顔色の悪い人が何人か座っており、なんかヤバそうって思いながら空いてるスペースに座れば電車が動き出す
電車に揺られていれば車内が暗くなりトンネルにはいったことがわかる、またトンネルかぁ…俺トンネル嫌いになりそう
暗くなった車内に放送がはいる
「次は活造り、活造りで〜す」
電車に乗る前とは違う子供の喜々とした声の放送、放送が流れたあとに電車の奥から悲鳴、悲鳴が聞こえた方を見れば電車の一番後ろに座っていた男性の周りにボロボロの服を着て猿のお面をした子供が3人いて、チラリと見えた男性の下半身は魚の活造りのように切られていて、その男性の横に座っている人達はなんにも反応を示さない、あぁヤバいのに捕まったなあそこで乗るんじゃなかったなと遅すぎる後悔
「次は抉り出し、抉り出しで〜す」
また放送が入ったところで俺は目が覚めた
汗をかいて張り付くパジャマ、冷え切った身体、視界にこびりついた赤、目覚め最悪…起きられたからまだましか…まぁ普段夢なんてあんまり見ないしきっと疲れてたから見たんだろうとそう、その時は思った。怪異が簡単に逃がしてくれるわけなんてないのに
その日から毎晩毎晩、誰かが拷問されて死ぬ夢を見る。
夢の続き、俺は電車の座席に座っていてその場から動けない、前日に聞いた放送通りの内容で順番に殺されてく、そして放送が流れて内容を聞いたところでいつも起きる
朝、眠い目を擦り幼馴染みのらんと一緒に登校をする。らんの朝練がない日だけ、特に待ち合わせをしてるわけではないけど家は隣同士だし自然と一緒に登校することが多い
「おはよ、すち」
「ふぁ…らんらんおはよ…」
「ねぇすち、ちゃんと寝てる?」
「なんで?俺だよ?寝てるに決まってるじゃん?」
「目の下のクマ、俺が見逃すとでも?」
「うまく隠れたと思ってたのにらんにはばれるかぁ」
クラスメイトにはバレなかったんだけどなぁやっぱ俺のことを良く見てるよね
「はぁ…どうせ俺じゃ解決できない話なんでしょ?」
「んーたぶん」
「じゃなきゃすちは相談してくるもんな」
「そうだね、いつもありがとね」
「どういたしまして、で?寝れてるの?」
「寝れてません、今日も徹夜です」
「はぁ?寝ろ」
「寝れたら苦労してないよ…」
いつも寝る手前まではいけるんだ、でも寝たら夢を見ると思うと寝れない、睡魔に襲われて堪えきれずに眠りに落ちて夢を、見る……抜け出す方法がわからない、早くしないと順番が来てしまうのに、あと少しで俺の番が来てしまう
「家で寝れないんなら保健室で休ませてもらいなよ、場所変われば寝れるかもよ?」
「そう、だね…そうしてみる」
らんのその案に確かに家だから見るのかもしれない、場所変えればいけるかも…と淡い期待を抱き、クラスメイトに先生に伝言をお願いして保健室へ向かって休ませてもらうものの結果は変わらなかった、それどころか拷問を終えた子供のひとりが俺の席の前にきて
「ニゲてモ、むダだよ?」
とそう言って放送が入った
「次はすり潰し、すり潰しで〜す」
そして目が覚めた、俺の番まであと2人……
寝る前よりを顔色を悪くした俺に、大丈夫、今日は帰る?と声をかけてくれる先生に「大丈夫です、ありがとうございました」と言って保健室をあとにした。家に帰ったって誰もいないし、一人になれば眠気に襲われるんだから学校にいたほうがまし、そのままクラスに向かえばちょうど移動教室だったのか廊下を歩いてるらんと会った
「あ、すち!大丈夫?」
「…大丈夫じゃない」
「え!寝れなかったの?」
「寝れた、けど…意味なかったから諦めて授業受けることにした…」
「無理しないでね?」
「うん」
居眠りしそうになれば先生が起こすだろうし、何かしてるほうが起きてられるからきっと大丈夫、そう確かに学校にいる間は大丈夫だった、家で一人になってから、ソレは現れた
「ねないの」
「……」
「ハヤクおいでよ」
「……」
「ニゲルの?」
「……五月蝿い」
「ニガサナイよ」
「黙って!」
「……」
ボロボロの服を着て猿のお面をした子供…夢の怪異が現実に出てくるのは卑怯でしょ…
「ねない、俺はねないよ」
「ねなよ、すきなんでしょ?」
「誰のせいで寝れないと思ってるの」
「ボク達」
「わかってるならでてこないで」
「アハハ!ハヤくおいで!オマエの番はもうすぐダ」
言いたいことだけ言って子供は消えた、わかってるよ、わかってるから寝れないんだよ……
必死に眠気を堪えて、コーヒー飲んでみたり手の甲をつねったり、寝たく、ない…ねたら、すすんじゃう…
「オヤスミ」
あぁ…寝ちゃったんだ俺…
「次はすり潰し、すり潰しで〜す」
放送がはいる、俺の隣からは肉を潰す不快な音、隣を見ないように視界にいれないように目を瞑ろうとした
「目トジたらダメだよ?」
閉じようとした瞼は糸で縫い付けられたように動かない
グシャッ!
ピシャっと頬に、熱いものがかかる、見えないけど、動けないけどわかってしまう、血だ…ゾワッと身の毛がよだつ、動かなかった身体が震える
こわい…怖い怖いこわい怖いこわい怖いコワイ、怖い、こわい、つぎは、つぎは、つ、ぎ…
つぎはおれ……?
「次は挽肉、挽肉で〜す!」
ガバッ!と飛び起きて頬を触る何も、ついてない…何もついてないのについてる気がして、洗面所に駆け込んで鏡を見る
「なにも、ついてない…」
青ざめて目元のクマが目立つ自分の顔、そこには血なんてついてない
「ねちゃ、だめだ…本当に殺される…」
いま寝たら次は俺、無理だとわかってる一生寝ない、なんてことが出来ないのは理解してる、でももう寝れない
「学校いかなきゃ」
シャワーを浴びて髪を乾かして、クマを隠して何時も通り、何時も通りに登校する、何事もなく学校について普通に過ごして部活して家に帰る、あとは寝なきゃいいだけ、明日は土曜日何時もなら二度寝するのを楽しみに早く寝てしまうけど今日は寝れない、死にたくないから
あの夢を見ないようにするのは寝なきゃいい、ずっと起きてればいい、ずっとずっとずっと
「おはよ、らん」
「、おはよ今日早いじゃん、待っててくれたの?」
「うん、一緒にいこ」
「いいよー今日も1日頑張ろー!」
ねむい、らんの声が頭に響く、いい、これでいい、響いて頭が痛いけどこれでいい
「またお前寝てないだろ」
「うん、だけど大丈夫」
「本当に大丈夫か?」
「だいじょうぶ」
「……なんかあれば言うんだよ?」
「うん」
優しいなぁ…俺が言わないのわかってるんだろうな…うん、絶対に言わない、俺はもう失いたくないから
……何を?
まぁいいや、少しふらつく足で何時ものように登校して、電車も今日は座れそうだったけどつり革につかまって、寝てしまわないように、それでも電車の揺れに眠気を誘われて瞼が落ちそうになるのを手の甲を抓って誤魔化す
「……っ」
「すち、その手」
「大丈夫」
「いや」
「大丈夫なの」
「電車降りたら冷やすよ」
「へーき」
ズキズキと痛むけどこれがないと寝てしまうから
「平気そうに見えないから言ってるの」
真っ赤になった手の甲を見ながら怒ったようにらんが言う
電車を降りたら俺の手首をつかんで近くのコンビニにはいって凍ったペットボトルを買ってタオルで包んで手の甲にあてる
「俺を関わらせたくないのは知ってるけど心配してるんだからね」
「ごめん…」
「謝んなくていいの、理由はわかってるしすちの気持ちもわかるから」
「…ありが、と」
「どういたしまして!うん、俺言われんならそっちがいい、よし学校いくぞ」
理由……理由?なんで俺はらんを巻き込みたくなかった?思い出せない……?
学校、顔色の悪い俺を見て皆心配してくれる、それをただの寝不足だよと言えば、寝るの大好きなお前が珍しいなぁとか悩み事でもあるの?相談のるよ?と声をかけてくれる、それにお礼だけ言って授業を受ける、眠いのを耐えながら1限、2限と時間が過ぎて3限目の移動教室。廊下に出て3階にある教室へ向うために階段を登る、階段を登りきったところで視界が霞んで
「ハヤクおいで」
眼の前にあの子供が見えた、思わず後ずさり足が何も無いところを踏んでバランスを崩す、普段ならとっさに手すり掴むことくらいできるのに眠い頭じゃ、"落ちる"としか認識できてなかった
「あ…」
「すち君!」
聞き覚えのある声、近くにいたんだろうか…俺の腕をつかんで引っ張り俺はそのまま彼の胸に飛び込む
「あ、あぶな…危なかったぁ…すち君大丈夫?思いっきり腕引っ張っちゃったけど」
「…え……うん…」
「すち君?ほんま大丈夫?」
「うん、だいじょうぶ…ありがと、みことちゃん」
「どういたしまして、もうびっくりしたんやから、突然後ろに倒れるんやもん」
「……う、ん」
落ちるとこだった…さっき見えたのは幻覚?それとも実際にそこにいた?もうわからない
「すち君顔色悪くない?」
「だいじょうぶ、ねぶそくなだけ」
「ほんま?……なぁすち君」
「なに?」
「すち君、あれ見えとる人?」
みことちゃんが指差した方向そこにはいつも通りこちらを見てる霊、普段俺が無視してるから珍しく俺がそっちを見たからなのか近づいてきて
"一緒に死んでくれる気になったの??"
「…死なないからあっちいって」
"えぇ!残念……その気になったらこえかけてね"
「懐かれてんね」
「見えてるし聞こえてるんだ…」
「俺は特殊な家系やからね、見えとるよあっちから寄っては来ないけど」
「へぇ…いいな」
羨ましい、俺は視線が合えば寄ってくるしついてくる、殺そうとしてくるのもいるし、今の霊みたいに死のうと誘ってくるのもいる
「すち君、ほんまは何が理由で体調悪いの?」
「ねぶそくだよ」
「いつから寝てへんの?」
「……」
「いつ?」
「きんようび」
「寝てないのはなんで?」
「、」
言っていいのか?みことちゃんも見えてる人だとしても、こういうのは話せば話した相手にも同じことが起きたりする、俺の隣にみことちゃんが座るのはいやだ
「さっきの子供が原因?」
「…みえてたんだ」
「まぁ…見とったから走ってすち君の腕掴めたんやけど、あれなら俺がなんとかしてあげるよ?」
「え…?」
「あれが原因なんやろ?なら俺がなんとかしてあげる」
笑う、笑ってるみことちゃんの後ろに大きな犬が見えた
「いぬ?」
「うわぁ、見えんのか!あんまり見たらあかんよ、なんやコイツすち君気に入っとるみたいやし」
「みない…ようにする、ね?」
「…ねむい?」
「、ん…ねむく、ない」
「保健室いこか、俺がそばに居るから寝たらいいよ」
「ねない…」
手を引かれて保健室まで行く、途中でチャイムが鳴ったような気がするけど眠くて今どこ歩いてるかもわかんない俺にはどうでも良くなってた、ねない、ねむい、ねたいけどこわい、ねたらだめ…
「すち君?」
「…」
「おーい、すちくーん?」
「んっ、おきてる…」
「ほぼ寝とるやん、ほら先生には言うたから寝ちゃいなさい」
「やだ…ねない…」
「貴方もう限界きてるのよ…明らかに眠そうだもの、寝なさい」
「…ねちゃだめなの、おきれ、なく、なっちゃ…」
「大丈夫やて、ちゃんと起きれるから」
「……ねな、い」
「大丈夫だから、ほら少し目をつむるだけやから」
ベッドに座らされて、耐えていた眠気がさらに強くなった気がする。みことちゃんに話しかけられたから、へんじして、重い瞼を閉じないようにしてれば、みことちゃんの手が俺の目を視界を暗くする
「ね、ちゃう、って…」
「寝てええんやて、こんまま目つむって」
「や、だ…こわ、いから」
「なら隣で一緒に寝てあげる」
「…えっ」
俺の肩をぽんっと軽く押して、俺はそのままベッドに倒れ込む、そしてその隣にみことちゃんが寝転んだ
「もうちょい上おいで」
「あ、うん」
「ん、ええ子、少しだけでええから目閉じて、俺がそばにいるから大丈夫、怖くない。怖いのはコイツが全部食べてくれるから」
少しベッドの上の方に体をずらせばぎゅっと抱きしめられて、みことちゃんの心臓の音が聞こえる、一定の感覚で聴こえる音に、みことちゃんの体温、抱きしめられることで暗くなる視界、好きな人に抱きしめられてる恥ずかしさなんてその時は全く感じなくて久しぶりに感じた他人の体温にただ安心して、もういいかって最悪起きれなくても一人じゃないからいっか…
「……ん…ねむ、い…」
「うん」
「みこ、とちゃん…おこ、してね…」
「ちゃんと起こしたるから、おやすみ」
「……おや…す…み…」
すとんっと眠りに落ちて、夢があの場面の続きから始まる
「次は挽肉、挽肉でっ」バキッ
……放送がとまった?
「ギャーッ!」
「いや!こっち来ないで!」
「たべ、食べないで!!」
子供の声?何かが壊れる音と叫ぶ声、叫ぶ声はいつも俺の横から聴こえる子供の声、助けてと食べないでと叫ぶ声が聞こえる、俺は相変わらず席から動けなくてでも見ることは出来る。だから悲鳴の聞こえる方を見れば
大きな犬とボロボロの服を着た子供
必死に逃げる子供と楽しそうに子供を追いかける犬
ザシュ
爪で一人が切り裂かれ
グシャッ
大きな手で潰されて
グチャッ
頭から食べられた
その光景は全て眼の前で行われて、子供達から流れる血は赤くて、跳ねた血は俺にかかり顔を汚した、そして大きな犬はこちらを見て口を開いた
「"夢から覚めたければ願え、主の依頼は成したもう悪夢はみない"」
「え…」
「"…お前なら対価と引き換えに願い叶えてやろう"」
「それってどういう」
「"早く起きるんだな、ここで彷徨いたくなければな"」
言いたいことはそれだけだったのか、ふっと掻き消える犬、なんで怪異って言いたいことだけ言って消えるのか
「願い…か…叶えて欲しい願いなんてもうないよ」
目を閉じて心の中で夢から覚めろと何度か願えば、そばに温もりを感じて
「すーち君」
「みことちゃん」
「おはよ」
「おはよ…」
「ちゃんと起きれたやろ?」
「……怖かったけどね」
「あーごめんな」
「あれってなぁに?」
「俺の友達」
普通の友達なわけないだろうなあれは何かわからないけど上位の存在だろうし
「みことちゃん、助けてくれてありがとう、それで、さ…」
「どういたしまして!なに?」
「対価は?」
「へ?」
「対価、あれ対価なしに動いてくれるモノじゃないでしょ」
「すち君、詳しいな……でもアイツに対価は発生してないよ」
「そんなわけ」
「大丈夫、俺とアイツの間には対価は発生しない、これは俺が願ったことやから俺がすち君を傷付けたやつを拒絶したから、あぁなっただけ」
「なにそれ…」
「アイツはそういうモノだよ」
俺の理解の範疇外かな…知らないほうがいい気がする、知ってはいけないモノ、知りすぎてはいけない、きっとそういうモノなんだろうな
「な、な、すち君」
「なに?」
「このまま2人で寝ちゃわへん?」
「え?」
「先生にはすち君は早退って伝えてあるし俺はまぁサボりになるけど…」
「サボりは良くないよ?」
「真面目さんめーたまにはええやろ」
「……ふふっそうだね、たまにはいいかそれに俺は休みなんでしょ?」
「うん、勝手に早退にした!そんな状態で授業なんできんやろ」
「うん」
すごい眠い、今すぐにでも寝たい、本当に夢を見ないなら早く今すぐ寝たい、それにこのままでいいなら、隣にみことちゃんがいてくれるなら恥ずかしいけど嬉しいから
「……本当に見ないんでしょ?」
「見ーへんよ」
「なら寝ていい?」
「いいよ、一緒に寝よ」
「…ふぁ…じゃ…あ…おやすみ…」
「おやすみ」
そのまま俺はみことちゃんの腕の中で眠りに落ちて、久しぶりの安眠、夢を見ない深い眠り、目を覚ました時みことちゃんの寝顔が視界にはいって安心した、ここは現実だ
「本当にありがとうみことちゃん」