短編集



俺は産まれたときから呪われている
周りはそれは祝福だと愛されている証拠だというけど、親と引き離されてこの宮に閉じ込められていて周りには俺を利用しようとする大人ばかりで、俺のこれを祝福だと言った彼らはこの状況で祝福されてるだなんて思えるんだろうか、俺は思えなかった

精霊の愛し子、この世界に存在する精霊が見える人間、人より幾分か魔力が多く様々な属性が使え、人には成し得ない未来視、時空操作、読心等が出来ると言われ、国に一人いれば繁栄が約束される、なんて言われたりもしてる。俺はその精霊の愛し子、らしい確かに昔から隣には精霊がいたし俺の昔の遊び相手で話相手だった、でもこの宮の中では精霊を見ることはなかった、窓の外にふわふわ飛んでるのを見たことはあるから何かこの宮に入れない理由があるんだろうな…まぁだから俺はここで本を読むか寝るかしか基本は選択肢がなかったんだけど、最近楽しみが増えた

「こんにちは今日も元気?」
「こんにちはお兄さん、元気だよ」
「まぁ、愛し子様やもんね病気にはならへんか」
「ねぇ、また今日もお兄さんのお話して?」
「ええよ、俺が昔行った村のお話したる」

毎日ではないものの騎士のお兄さんが宮に来てこうやって話をしてくれること、俺の知らない見たことのない世界の話をしてくれる。ここから出られない俺にはその話が楽しくて、話しながら優しく頭を撫でてくれるその手が嬉しかった、それに俺の名前をちゃんと呼んでくれるのはこの人だけだから

「すち君」
「なぁに?」
「すち君って何歳だっけ」
「んーと、たしか10?」
「そっか、なぁここから出たい?」
「出たい、けど…外もここも変わんないでしょ?精霊さんとは会いたいけど、俺長生きするんでしょ?ならきっといつか会えると思うし別に今のままでも平気だよ」
「そやね、愛し子はみんな長生きやからなぁ…でも、ここから出たくなったらお兄さんに言うんよ?」
「うん」
「約束な?」

そういえばお兄さんは最初に会った時も俺にここから出たい?と聞いてきたなぁ…出たくないわけではないけど、無理やり出る気もない、だって俺に家族はいるけど顔も声も覚えてない、両親から妹が産まれたと手紙が届いてそれ以来何も連絡はないし、その手紙だってもらった時はまだ文字があまり読めなかったから読むのに数週間かかった、家族はきっと俺のことなんか忘れて暮らしてる、別にそれでいいけどさ

「お兄さん」
「どうしたの?」
「いいかげん名前、教えてよ」
「俺が怒られてまうからだーめ」
「こっそり教えてよ」
「ほんまはこうやって話すのも駄目なんやから」
「えぇ…でも話しかけてきたのお兄さんからじゃん」
「せやけどだめ!名前は教えませーん!」
「けちぃ…」

お兄さんは名前を教えてはくれない、きそくだからダメなんだって俺は名前よびたいのになぁ…

「あ、そろそろ時間やから帰るな」
「え…もうかえるの…?」
「ごめんな、お兄さんは忙しいんよ」
「そっか……また、きてね?」
「また来るからいい子にしててな?」
「うん、またねお兄さん」
「またね、すち君」

手を振ってお兄さんを見送りぽつんと部屋に残される俺

「……ひまになっちゃったな…」

部屋にある大きな窓から外を覗いて楽しげに遊ぶ精霊達を眺める、彼らはこちらに気づかないけど俺と遊んでくれないけど見てれば独りだと感じないから俺は独りぼっちじゃない、から…


お兄さんが俺の所に来るようになって1年、段々とお兄さんが来る回数が減ってきた、でも会いにきてくれる、お話してくれる、名前を呼んでくれる

1年と半年経った頃、忙しくなるから会いにこれないかもって言われた、やだな、さみしい

お兄さんと会ってから2年、半年前から一度も会ってない、ここにくるのは知らない大人ばっか、俺を見るだけ見て帰る、ご利益が、なんだとか言って愛し子様に感謝をとかそんなこと言って、毎日が退屈、本を読むのも飽きた、こっちに気づかない精霊を見るのも嫌になった

3年、俺の名前ってなんだっけお兄さんが呼んでくれないから忘れちゃった、でもねお兄さんの顔と声は覚えてる、俺はきっとお兄さんに恋してるんだ、物語でよくある初恋ってやつなんだと思う、お兄さんの笑う顔が優しく頭を撫でる手が俺を呼ぶその声が、好き

「ここからでたい、な…」

出てお兄さんに会いに行きたい、でも、俺はここから出られない、見えない壁に遮られる、昔ここに入る時にした契約のせいで俺はここから出られない、お母さんにこれに名前を書きなさいって言われて名前を書いた、内容なんてわからない、言われたままに習いたての汚い字で名前を書いた。そして、それから俺はずっとここにいる

「ねよ…」

無駄に柔らかいベッドで丸まって寝てしまえ、寝てる間は何も考えなくていい、くるしくない、つらくない、さみしくない…

そうして、俺は眠りに落ちて部屋の外から聞こえてくる物音で目を覚ました

「……ぅるさい…」

ドタバタと響く足音、何かが壊れる音、誰かの叫び声

「何かにおそわれてる…?」

少しの怖さと期待、誰かこの檻を壊してくれるのかなって俺を自由にしてくれるのかなって、どうせここから逃げられやしないんだからじっと待ってよう、もうなんだっていい、殺されたっていい、ひとりでここにいるのはもういやだ

どんどん物音が激しくなってその音は部屋に近づいてくる、おれのいるところまできっとあとすこし

バンッ!と音がして部屋の扉に亀裂が入り、なにかが飛んでくる、真っ赤に濡れた頭から血を流して倒れる人

「ひぃっ」

思わず口から情けない声がでる、でもその人に見覚えがあって…

「愛し子様ご無事ですか!?」

部屋に入ってくる騎士の人が何か言ってる、なにかいってるけど、そんなことよりめのまえの人に目を奪われて、そのままその人に駆け寄った

「っおにい…さん?、」
「……はぁい、覚えててくれたんね、」
「なん、で?」
「なんで、かぁ…助けてあげたかったから」
「…だれ、を…?」
「すち君を、なぁすち君、ここから出たい?」

なんで、なんで、いまそんなこと、聞くの?でもこたえなきゃずっとずっと次あったら言おうって約束って言ったから

「でた、い…」
「やぁっと、言ってくれたぁ…すち君、お兄さんがここから出して…あげるから俺の一生のお願いきいて、くれへん?」
「きくから!おれきくから!お兄さん!しなないでっ」

俺と話す彼は息が荒く呼吸が苦しそうで、今にも呼吸がとまってしまいそうでこわかった

「俺みことっていうんや、なまえ、よんでくれへん?」
「みこと、みことさん、しな、しなないで!おねがいだからっはなしたいこといっぱい、いっぱいあるのっ」
「それは、むり、やなぁ…」
「やだ!やだっ!」
「ははっ、だだっ子や、なぁもういっこいわせて?」
「いっぱい言っていいから!」
「俺とつきおうて?」
「え…」
「おれ、また会いにいくから、たくさん待たせてまうけどその時こたえおしえて?」
「みこと、さん?」
「あとな、すちくんは生きて、しんだらあかんよ?」
「なんで、」
「おれおっかけちゃだめやからね」

なんで、なんで、なんでそんな事言うの?死んじゃうみたいじゃん、やだ、やだやっと、会えたのに

「すちくん、」

俺を呼んで血まみれの手で俺の顔を触って、親指が唇に触れる

「よごしちゃった、ごめんな」
「いい!そんなの、気にしなくっ」
「もーらった」

ちゅっと唇が触れるだけのキス、触れたのはほんの少しの間だけ、でも俺にはその瞬間、時が止まったような気がした

「、は、はぁっ、もう…、むり、やね…、すちくん、」
「みことさん?」
「あいしてる」

そう言って、力が抜けて滑り落ちる手、慌ててそれを掴んで、彼の呼吸がとまったのを、心臓が動きを止めたのを俺は認識してしまった

「や、だ…やだ、やだっ!なんで!」

やっと会えた、やっと話せた、やっと好きって言えると思ったのに

「愛し子様?」
「俺はそんな名前じゃない!!」

俺にはすちって名前があるんだ、誰も呼んでくれなかった、みことさんだけが呼んでくれた

"あぁ、やっと見つけた愛しい子"
"あなたを私達から隠したこの国を"
"私達の大事な子を傷つけたこの国を"
"滅ぼしてあげましょう"

気づけばそばに精霊がいてこの国を滅ぼしてくれるって言ってる、いいよ好きにして、勝手にして、今は放っておいて

今は、彼のそばにいさせて
声もなくただ流れる涙、頬を伝ってぽとっと彼の頬に落ちるのを見て、びっくりして起きないかな、なんて思ってなんの反応もしない彼にまた、悲しくなってさらに涙があふれる

"愛し子、あまり悲しまないで"
"生命は戻らないけれど巡るから"
"彼は戻ってくる"
"また、会えるよ"

「ほんと?」

"えぇ、彼も言ったでしょう?"

「また、会いにいく…」

"そう、だから待ちましょう"
"彼もまた愛されていたから"
"きっと、すぐ会えるわ"

「……まてば、あえる?」

"えぇ、もちろん"




俺は待つことにした、みことさんが言った通りに長い間待つかもしれない、でもそれでも待つことにした、愛し子は長生きだから、彼を待ってる間俺は国を出て旅をすることにした。
色んな所を、みことさんの話に出てきた場所に、美味しいと言ってた食べ物を食べにいろんな所に行った、その旅の途中で俺が精霊だと思っていた彼女達が神だということが判明した。

とある街で仲良くなった人達に俺と同じ精霊の愛し子だと言う人がいて、俺も自分が愛し子だと言うことを打ち明けた時に判明した

「はぁ?精霊の愛し子?」
「うん。そう聞いてるけど」
「ぜってぇ、違う。俺も愛し子だけどお前は絶対違う」
「えぇ?じゃあ何なの?」
「おいっ!らんコイツのこと鑑定してやれよ、絶対違うから」
「お、いいよなっちゃんが言ってるのが合ってるか確認しようか、すちステータス鑑定してもいいか?」
「いいよ?」
「……なぁすち」
「なに?」
「神って出たけど、お前神の愛し子ってでてるけど…」
「ほらみろっ!」
「えぇ!ねぇそうなの?」

俺の後ろで浮かんでるひとりにそう問いかければ
"そうよ?私達の愛しい子、あなたは人間達で言う神の愛し子、というものよ?"と知らなかったの?と言わんばかりの不思議そうな顔で言われてしまった

「……ごめん俺、神の愛し子だったらしい…」
「精霊の愛し子はただ魔力が多くて全属性扱えるだけだっての、未来視とかできんよ」
「俺も未来視とか出来ないけど?」
"あら、できるわよ?してみる?"
「……俺、出来るらしい、神様そう言ってる」
「お前…自分の力は把握しとけ?」
「はい……」

とまぁそんなような事があって俺が精霊ではなく神の愛し子だと判明し、そばにいた彼女達が神だということがわかった
まぁ神だとしても対応は変わらず彼女達は俺を見てるだけだし俺も話したいことがなければ話さない、結構ドライな関係をしてる。あぁそういえば俺が国からでてしばらくしたら俺のいた国は原因不明の病や事故が起きてなくなった、俺が止めなかったからきっと神様が何かしたんだろういい気味だと思う。外の世界に出れば俺がどんなに異常な環境にいたかわかった、そもそものはなしあれ監禁だったよね、それに俺はあそこにいた頃食事をほぼ取ってなくて魔力のみで生きていたらしい、外に出て食事をして初めて気づいた、ん?もしかして俺のこと殺す気だったのかな?まぁもう関係ないしいいか

いろんな所に行って色んな物を人を見て、俺は最後に一つの村を訪れた、そしてそこに定住することにした
大きな湖のある村、村長さんに話をすれば管理する人間がいないから自由に使ってくれて構わない、と二階建ての空き家を案内された。案内された空き家を綺麗に掃除して、村の大工さんに一階にカウンターとキッチンを作ってもらい、数個の机と椅子も合わせて作成してもらうように依頼して、そして気まぐれ経営ではあるものの喫茶店をオープンした、来るのはこの村の人だけだけど、それでもいい、きっとこれでわかるから



とある日の午後、からんっと鐘がなり扉が開く音がした

「いらっしゃいませ」

ダークブロンドの髪に蜂蜜色した瞳、あぁやっと会えたやっと伝えれる

「…待たせてごめんな、答え、聞かせてもらってもええ?」
「答えははい、喜んで、俺も好きだよ、ずっとずっと待ってたんだから、みことさん愛してます」
「俺も愛してるよ、すち君」
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