悪い人
「あぁまた、やっちゃった」
手に持ったカッターナイフをティッシュで拭いて、カチカチッと刃を下げてサイドテーブルに置き、近くにあったハンカチで手首を抑える、本来なら洗って消毒をすべきだろうな、でも俺には今そんな気力はなくて、手に残った感触と手首の痛みを感じるだけ、いつからと言われても覚えていなくて、何でと言われれば安心感があるからと答えるこの行為、誰に見せるわけでもないし見せるものでもない、ただ何時からか手に持ったナイフで傷を造るのが癖になっていた、気付いたら手首が痛くてジクジクとした痛みに安堵して、流れた赤を見つめながら生きてるなぁなんて思う。死にたいわけじゃない、死にたければ止血しなきゃいいわけだし、他にも方法はあるわけだから。
「洗ってこよ…」
寝室の扉をあけて思い出した、あ、そういえば今日みことちゃん来てるんだった
「……ん?すちくん、どしたん?」
「ちょっとね」
「…?うぇ!すちくん血!血出てるじゃん!」
「うん」
「うんじゃないよ!?えっとえっと、まず傷口あらわなきゃ!」
「傷口洗ってくるね」
「うん!傷口洗ったら消毒しよ!」
いつもより低い声で淡々とした喋り方をしてしまった自覚はある。俺としてはいつもの事でしかなくて、普通に考えたら異常なことだろうし俺もみことちゃんが同じような状況だったら慌てるし治療をしようとするだろうな、そこまで思考はたどり着くのに体には反映しなくて、洗面台で流れた赤を眺めていて、戻ってこない俺を心配したのかみことちゃんが様子を見にきた
「すち君?大丈夫?」
「うん、いつものことだし大丈夫」
「いつ、も?」
あ、珍しいな笑顔の絶えないみことちゃんから表情が落ちた、あぁ俺いつもって言ったな、やったなぁ紙で切ったとか言えばよかった、そしたら不信だろうけど誤魔化せただろうな
「すち君、消毒するよ」
怒ってる…かな?濡れた腕をタオルで拭いてリビングへ行きソファに腰掛ける、俺の家に慣れてるみことちゃんだから消毒液の場所もわかったんだろう机には消毒液と包帯が置いてあった。
「消毒するよ」
俺に声をかけて消毒を始めるみことちゃん、消毒が沁みて声が漏れる
「っい」
「しみる?ちょっと我慢してね」
優しい声でそう言って応急処置をしてくれる、そして包帯を巻かれた腕を心配そうに見つめ俺に「いつから?」とそう聞く。それに「わかんない」と答えてそれに「そっか」と言って頭を撫でる、なん、で?怒りたいじゃないの?何か他に言いたいことあるんじゃないの?なんで聞かないの?
「みことちゃん」
「なぁにすち君」
「き、きかないの?」
「わかんないのは本当なんやろ?」
「うん」
「でしょ?なら聞いてもわかんないし俺が知りたいのはなんですち君がリスカしちゃうのか、なんだけど言える?」
「…あんしん、するから」
「そっか、ならリスカ以外の安心できる方法を探そっか」
始終優しい声で、ソファに座る俺に目線を合わせてそうやって言ってくれた
「おこらないの?」
「怒んない」
「なんで?」
「俺が怒ったってしょうがないやん、そりゃさっきは、いつもってなに?て思ったしなんか悩んでるなら相談してよ!って思ったけど、それはすち君わかってるんじゃない?」
たしかにそれはわかっていた、相談して欲しいって言うんだろうなとか頼って欲しいとか、なんで言わなかったの?と聞かれると思ってた
「ね?すち君がわかってるなら俺から言うことはないだろうから怒んない」
「うん…」
「もしかしたら怒って欲しかったかもしれへんけど俺は怒んない、すち君のその行動を止める方法を見つけるのが先」
「俺何でするのかわかってないよ?」
「不安だからやないの?」
「え?」
「だってさっき安心するからって言ったやん、なら不安だからするんやろ?」
「そっか?」
「安心、安心かぁすち君って何すると安心する?」
安心?なんだろ布団に入って丸くなるとかぬいぐるみ抱きしめるとか?でもそれは一人のときよくやるけどそれでも俺は横に線を引いていた、ほかに何かあったっけ?
「さっきの」
「……さっき?」
「頭なでるのもう一回して」
「ええよ」
俺の頭に手を置きゆっくりと撫でてくれる、大きな手から伝わる暖かさと優しい手つき、落ち着く気がする
「安心する?」
「…なんか、暖かくて落ち着く」
「そっか、普段泊まらせてもらうとき別で寝るけど一緒に寝てみる?」
「え?」
「暖かいの安心するんでしょ?なら俺がそばにいれば暖かいし、もしなにかあれば止めれるし、どう?」
突然の提案だけど、みことちゃんがいいならその方がいいのかもしれない、いつまでもこの癖をそのままにしておくのは駄目だろうし
「なら、お願いしてもいい?」
「よし!決まり!一緒に寝よー」
「うん」
寝室に一緒に向かい布団に入る、少し狭いけど大きめのベッドだから二人でも寝ることは出来る。隣にきたみことちゃんが頭を撫でてくれる
「すち君、おやすみ」
「おやすみ、みことちゃん」
側に居てくれるという安心感なんだろうか、暖かいから落ち着くのだろうか理由なんて分からなかったけどその日はいつも以上に良く寝れた。
それ以来、みことちゃんが泊まりに来る時は一緒に眠った、みことちゃんがいない時は未だに傷をつくるけど、側にいる時にはリスカをしなかったし血を流すところを見ることはなかった。
次第にみことちゃんがいなくてもカッターに手を伸ばすことはなくなったしハンカチやタオルを赤く染めることはなくなった
「ねぇみことちゃん」
「なぁにすち君」
「もしかしてわかってた?」
「何が?」
「俺が、みことちゃんが好きってこと」
「知ってたよ」
「そっか、なら悪い人だねみことちゃん」
「そうだよ俺は、悪い人だよ」
一緒に寝るようになってしばらくした時、気づいたんだよね、俺はみことちゃんが好き、多分俺は、見てほしかったんだ、俺だけを、だから世のメンヘラと呼ばれる子たちと同じ方法をとったんだろう、リスカして心配される、そしたらみことちゃんは俺を見てくれる、見せるためのものではないと思っていたけど間違いなくこれは見せるための行為だった、自覚はなかったけれど、それにみことちゃんは気づいてた、わからないけどもしかすると最初からこうする予定だったのかもしれない、俺はもうみことちゃんがいなければ生きていけない、離れれば止まった自傷行為も再発するだろうし、それこそ身を投げるだろう。依存しきっている、俺を、俺だけおれだけをみて、見てくれないならしんじゃうから、俺の気持ちを見抜いて依存させた悪い人、責任とってね
「ねぇずっと、そばにいてね」
「いるよ、ずーっとね、すち君が嫌って言ってもずっとそばにいるよ」
手に持ったカッターナイフをティッシュで拭いて、カチカチッと刃を下げてサイドテーブルに置き、近くにあったハンカチで手首を抑える、本来なら洗って消毒をすべきだろうな、でも俺には今そんな気力はなくて、手に残った感触と手首の痛みを感じるだけ、いつからと言われても覚えていなくて、何でと言われれば安心感があるからと答えるこの行為、誰に見せるわけでもないし見せるものでもない、ただ何時からか手に持ったナイフで傷を造るのが癖になっていた、気付いたら手首が痛くてジクジクとした痛みに安堵して、流れた赤を見つめながら生きてるなぁなんて思う。死にたいわけじゃない、死にたければ止血しなきゃいいわけだし、他にも方法はあるわけだから。
「洗ってこよ…」
寝室の扉をあけて思い出した、あ、そういえば今日みことちゃん来てるんだった
「……ん?すちくん、どしたん?」
「ちょっとね」
「…?うぇ!すちくん血!血出てるじゃん!」
「うん」
「うんじゃないよ!?えっとえっと、まず傷口あらわなきゃ!」
「傷口洗ってくるね」
「うん!傷口洗ったら消毒しよ!」
いつもより低い声で淡々とした喋り方をしてしまった自覚はある。俺としてはいつもの事でしかなくて、普通に考えたら異常なことだろうし俺もみことちゃんが同じような状況だったら慌てるし治療をしようとするだろうな、そこまで思考はたどり着くのに体には反映しなくて、洗面台で流れた赤を眺めていて、戻ってこない俺を心配したのかみことちゃんが様子を見にきた
「すち君?大丈夫?」
「うん、いつものことだし大丈夫」
「いつ、も?」
あ、珍しいな笑顔の絶えないみことちゃんから表情が落ちた、あぁ俺いつもって言ったな、やったなぁ紙で切ったとか言えばよかった、そしたら不信だろうけど誤魔化せただろうな
「すち君、消毒するよ」
怒ってる…かな?濡れた腕をタオルで拭いてリビングへ行きソファに腰掛ける、俺の家に慣れてるみことちゃんだから消毒液の場所もわかったんだろう机には消毒液と包帯が置いてあった。
「消毒するよ」
俺に声をかけて消毒を始めるみことちゃん、消毒が沁みて声が漏れる
「っい」
「しみる?ちょっと我慢してね」
優しい声でそう言って応急処置をしてくれる、そして包帯を巻かれた腕を心配そうに見つめ俺に「いつから?」とそう聞く。それに「わかんない」と答えてそれに「そっか」と言って頭を撫でる、なん、で?怒りたいじゃないの?何か他に言いたいことあるんじゃないの?なんで聞かないの?
「みことちゃん」
「なぁにすち君」
「き、きかないの?」
「わかんないのは本当なんやろ?」
「うん」
「でしょ?なら聞いてもわかんないし俺が知りたいのはなんですち君がリスカしちゃうのか、なんだけど言える?」
「…あんしん、するから」
「そっか、ならリスカ以外の安心できる方法を探そっか」
始終優しい声で、ソファに座る俺に目線を合わせてそうやって言ってくれた
「おこらないの?」
「怒んない」
「なんで?」
「俺が怒ったってしょうがないやん、そりゃさっきは、いつもってなに?て思ったしなんか悩んでるなら相談してよ!って思ったけど、それはすち君わかってるんじゃない?」
たしかにそれはわかっていた、相談して欲しいって言うんだろうなとか頼って欲しいとか、なんで言わなかったの?と聞かれると思ってた
「ね?すち君がわかってるなら俺から言うことはないだろうから怒んない」
「うん…」
「もしかしたら怒って欲しかったかもしれへんけど俺は怒んない、すち君のその行動を止める方法を見つけるのが先」
「俺何でするのかわかってないよ?」
「不安だからやないの?」
「え?」
「だってさっき安心するからって言ったやん、なら不安だからするんやろ?」
「そっか?」
「安心、安心かぁすち君って何すると安心する?」
安心?なんだろ布団に入って丸くなるとかぬいぐるみ抱きしめるとか?でもそれは一人のときよくやるけどそれでも俺は横に線を引いていた、ほかに何かあったっけ?
「さっきの」
「……さっき?」
「頭なでるのもう一回して」
「ええよ」
俺の頭に手を置きゆっくりと撫でてくれる、大きな手から伝わる暖かさと優しい手つき、落ち着く気がする
「安心する?」
「…なんか、暖かくて落ち着く」
「そっか、普段泊まらせてもらうとき別で寝るけど一緒に寝てみる?」
「え?」
「暖かいの安心するんでしょ?なら俺がそばにいれば暖かいし、もしなにかあれば止めれるし、どう?」
突然の提案だけど、みことちゃんがいいならその方がいいのかもしれない、いつまでもこの癖をそのままにしておくのは駄目だろうし
「なら、お願いしてもいい?」
「よし!決まり!一緒に寝よー」
「うん」
寝室に一緒に向かい布団に入る、少し狭いけど大きめのベッドだから二人でも寝ることは出来る。隣にきたみことちゃんが頭を撫でてくれる
「すち君、おやすみ」
「おやすみ、みことちゃん」
側に居てくれるという安心感なんだろうか、暖かいから落ち着くのだろうか理由なんて分からなかったけどその日はいつも以上に良く寝れた。
それ以来、みことちゃんが泊まりに来る時は一緒に眠った、みことちゃんがいない時は未だに傷をつくるけど、側にいる時にはリスカをしなかったし血を流すところを見ることはなかった。
次第にみことちゃんがいなくてもカッターに手を伸ばすことはなくなったしハンカチやタオルを赤く染めることはなくなった
「ねぇみことちゃん」
「なぁにすち君」
「もしかしてわかってた?」
「何が?」
「俺が、みことちゃんが好きってこと」
「知ってたよ」
「そっか、なら悪い人だねみことちゃん」
「そうだよ俺は、悪い人だよ」
一緒に寝るようになってしばらくした時、気づいたんだよね、俺はみことちゃんが好き、多分俺は、見てほしかったんだ、俺だけを、だから世のメンヘラと呼ばれる子たちと同じ方法をとったんだろう、リスカして心配される、そしたらみことちゃんは俺を見てくれる、見せるためのものではないと思っていたけど間違いなくこれは見せるための行為だった、自覚はなかったけれど、それにみことちゃんは気づいてた、わからないけどもしかすると最初からこうする予定だったのかもしれない、俺はもうみことちゃんがいなければ生きていけない、離れれば止まった自傷行為も再発するだろうし、それこそ身を投げるだろう。依存しきっている、俺を、俺だけおれだけをみて、見てくれないならしんじゃうから、俺の気持ちを見抜いて依存させた悪い人、責任とってね
「ねぇずっと、そばにいてね」
「いるよ、ずーっとね、すち君が嫌って言ってもずっとそばにいるよ」