刀の保健室って何ですか?
𝐍𝐚𝐦𝐞
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その後長義の仕事部屋だと思われる場所まで共に赴き、上司とやらに必死に頭を下げる長義の様子を先程呼んだ国広と眺めていた。
「主、本当に俺でよかったのか。」
『もし変えるって言ったら貴方は受け入れるの?』
「それは」
国広は私の言葉を聞いて、ぐぐぐと千切れるばかりに頭に被っていた布切れをより深く被った。それは嫌なんだ。と私が笑えば帰ってくる言葉は無かった。
『要らなくないよ。要らなくていいものなんて本当は存在しないんだから。』
国広に言う言葉がそのまま私自身に突き刺さる。これは、私がずっと誰かに言って欲しかった言葉で、私が望んでいた言葉。
誰でもない私が必要とされるはずの場所、居場所があることがあるだけで、人は生きてて良いと思える。
そして、その逆は自分が必要とされる場所を失うことは人にとって、
「死にたいと、思ったのか。」
はっとして国広を見た。金髪の美しい髪の隙間から覗いた海色の目が私を捉える。
「すまない、[覗く]つもりはなかった。」
覗く?何を?私の心を……?
口をパクパクさせて何も言わない私を気遣うようにすぐに謝罪する国広。みえたのだろうか。私の底知れない孤独と欲望と、汚い感情が渦巻いた私の心を。
『いや、大丈夫、まさか、そこまでバレてるなんて、あはは、神様はすごいや。』
繕うように笑っても、国広が私の方を向いてくれることは無かった。ごめん。そう一言呟いて長義の元へ駆け寄るしか今の私には逃げ場所がなかった。
長義、そろそろ行こう。
そういえば、数多の資料を押し付けられ荷物を片付ける手伝いをする羽目になった。
「君が長義くんの新しい審神者さんだね。」
日もくれ始めた時刻。まっさらに片付いた長義の部屋を後にしようとした時、後ろから呼び止めたのは長義が謝罪していた上司さんだった。
『すみません。手違いで長義を…』
怒られると思っていたので頭を垂れると、軽快に笑われた。怒ってるわけじゃなさそうな様相に安堵した。
「あの子はもう審神者の傍に行くことはないと思ってたから、こうして事故だとしてもそれを受け入れた長義くんの成長に感動してね。」
『はあ………』
私ではない審神者と何かあったのだろう。そりゃあ、ここで長く働いているとなればそのぐらいの経験はあるだろう。
『でも、私も正直長義はよくわかりません。厳しいしすぐ殴るけど、たまに優しくなる。変な人、いや、へんな刀ですね。』
「大目に見てくれ。仕事に没頭するだけの日々だったから、まともにコミュニケーションを取ってないんだよ。彼も私もね。」
顔が怖いから怒ってなくても、怒ってるように見られるんだ。と先程の私の過ちに釘を刺す用に言われてしまった。冷や汗が止まらない。
「政府で鍛刀を行うなら、やり直しも取り消しも可能なんだ。君が山姥切国広くんを初期刀に迎えたこと、長義くんを顕現させたこと、全て帳消しにだって出来た。勿論それを長義くんは知ってるよ。でも、しなかった。それを覚えていて欲しいな。」
『長義は、私と一緒にいることを選んだってことですか。』
それは長義くんにしか分からないよ。
たしかに。だけど、大きなヒントをくれた上司さんにもう一礼して廊下を歩き出す。
そっか。長義は私の意思を尊重してくれていて、その選択に従ったんだ。彼の意思で。
『おまたせ』
「君、やはりこの偽物を交換しよう。俺は此奴と生活なんてできない。」
「なっ、本科は元々この地の者なのだから帰属すればいい。あと俺は偽物じゃない。」
遅れてしまったと小走りできたと言うのに、広いフリースペースに態々隣同士の椅子に並び、痴話喧嘩をしている二人。否、二振。
『はいはい、行こうよ。お腹すいた。あ、そうだ。』
山姥切国広及び、山姥切長義。
我の本丸にて審神者に使え主を守る主命。又、新たな任務を遂行する為、審神者に尽せよ。そして共に歴史を守れ。
できる限りの誠心誠意で言霊を紡ぐ。これはさっきの上司さんに教えて貰ったもの。命令じゃない、契約に似た誓い。
審神者がどれ程刀剣男士を慕うか。それは、審神者と刀剣男士の親密度も影響するらしい。
言い終わると、片膝を地面に片手を胸に。その意志がこもった二振の瞳は私の方に。
その視線から、私が抱えるこの二振への信頼と希望と責任が伝わったことは理解出来た。
「山姥切国広、初期刀として主の主命に尽す」
「山姥切長義、初鍛刀として審神者の支援を」
ありがとう長義、私をここに呼んでくれて。
私今やっと居場所を感じたかもしれない。
微笑む私と跪く刀剣男士の後ろには、桜がひらりひらりと舞っていた。
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