春宵
𝐍𝐚𝐦𝐞
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恐らく何でも良かったのだ。
人間はそれを神だと伝えれば、信じる。
信じれば、そこに信仰が生まれ、人が集まる。そして、嘘だった神は本物の神になる。
『なあ、主よ。本当に俺を祀るのか?』
聞こえない主の背後をふよふよと浮かびそう問いかけた。
あの夜から数十年。
得に何も無いつまらない日々に突然現れた人間、名は清和源氏。
そう。源氏を名乗る前の血筋、つまり源氏の大元。
まだ力を持つ前の時代。
かなり廃れた俺を見つけるとは目利きだと思っていたが、祀るとなると話が違う。
『なあ、本当に祀るのか?俺は刀でいたかった。何せ落ちたとしても五条の刀だ。いつか君の腰で君の命を守らせてくれるのなら、力を貸そう。』
問いかけのない会話にため息が出る。
ああ、退屈だ。
あの後一言も交わすことなく離れ離れになった友人なら、こう言うだろう。
驚きがないのは死んだのも同然だ。って。
そして時は流れ、時代は変化し続けた。
清和源氏の血は耐えることなく源氏と名を引き継ぎ二大勢力までに拡大した。
そろそろ刀に戻りたかった。
民の願い、人間の祈りを聞くのは差程嫌ではなかった。
いつか俺を刀として振るう惣領が現れると思っていたから。
必ず俺はまた五条の刀として必要とされる。
しかし、この代の世継ぎとなった新たな惣領が身につけているのは、俺ではなかった。
「源氏にふさわしい刀を打たせよ。」
俺の前でそう告げた惣領を鼻で笑った。
「二振一具としてこの源氏の重宝となる刀だ!」
同じ玉鋼を分け生まれた刀は、源氏の重宝になった。
俺という刀がいたにも関わらず。
髭切、膝丸と名を称す刀は大層な御加護を持つらしい。
それがあれば天下も夢ではないと笑う惣領。
『じゃあ、俺は何だ?』
どんなに怒りを込めても、あの時のように人間を操る程にこの時代の人間は俺を崇めてはくれなかった。
源氏の世が始まると共に、俺は死んだ。
五条の刀としての俺は死んで、源氏の装飾刀としての私が生まれた。
神宮に鎮座する私を崇める人間に少しでも加護を与えるのが役目だった。
武士と切り離されたその世界で、私は存在価値を見出すのに必死だった。
そうして源氏の世が終わろうとしていた。
これが、俺の、私の、刀の歴史。