春宵
𝐍𝐚𝐦𝐞
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『そっか。報告ありがと。』
あの後、石切丸と源氏は例の刀を手にして戻ってきた。
様子を見てくると俺に背を向けた時よりも遥かに穏やかな表情だったので、何となく結果は予想出来た。
今回の功労者は石切丸だと返すと、照れくさそうに笑っていた。
そして石切丸から手渡された刀は、平安刀らしい太刀だった。
ずしりと重いそれをまじまじと見れば宝飾品だと呼ばれる所以もわかると息を漏らした。
鞘から
そして鍔にくくられた複数の鈴は、ちりんちりんと揺れる度に音を成す。
「すずのねがよくひびきます。」
「刀は人を殺める道具。息を潜め音を消し、背後から斬り掛かる………それに鈴をつけるのは
確かに、刀は武士にとっての生命。
主の命を守り敵を倒す為の道具。
これでは、自分の居場所を相手に教えているようなものだと加州も同意した。
「それでいいんだよ。それが、彼の役目であるからねえ。」
仲間内から外れ、1人座って鎌倉を一望していた髭切は、こちらに振り向くことなくそう呟く。
「此奴は源氏の世において、民、赤子、……全てのここに集う人間のために祀られた装飾刀だったんだ。居場所は皆に伝わるべきだろう?」
すると、優しい風が吹き抜けてちりん、ちりん、と鈴の音が広がった。
「帰ろうか。早く帰らないと夕餉の準備が始まってしまうよ。」
「それはたいへんです!ぼくはきょう、とうばんですから!」
今度こそ帰ろうと、六振は集って転移装置に手をかけた。
そして刹那、赤い神社の屋根の上には何も残っていなかった。
そして帰還。
遠征、楽しかったかい?と意味ありげに笑った主に土産と一連の流れを説明した。
主にとっては予想の範囲内だったみたいで、驚いた様子も見せつつも終始落ち着いていた。
そして無事にその刀を顕現する許可も降りて、今回の俺の役目は全て終了した。
久しぶりの隊長だったということと、遠征先での件に俺の身体はヘトヘトだった。
『あーーーー。お腹すいた。風呂入りたい。』
「加州、報告は終わったか。」
主の部屋を早々に後にして、自室に戻る途中。
待ち構えていた膝丸に捕まった。
『あるじ、刀卸していいってー。一応危ないから外でやれってさ。俺先に風呂はいっちゃうね。』
「そうか。わかった。」
短い会話をして刀を渡す。互いにすれ違いそれぞれの場所に歩き出し、廊下の掲示板を横目に立ち止まる。
第二部隊の欄に、帰還の木札をかける。
第四は未だ帰っていないようで、出陣中の文字が目に入った。
『うわ、第四の采配えげつな……』
第四部隊は鶴丸、三日月、数珠丸、にっかり、大典太、そして小夜。
個々でも強い個体が纏まったらどうなるのか。
考えたくもないと身震いし、その場を後にしようと思った時に先程までもっていた刀を思い出した。
刀剣男士の中でも驚く程に白い刀がいた。それは、鶴丸国永。彼の刀も白かった気がした。
刀の色は人間の姿に模倣するのだろうか。
それに準ずれば、彼の姿は鶴丸国永以上の白い形ができあがるはずだ。
『………気になるなあ。』
迷ったのも一瞬。
今まで歩いてきた廊下を反対方向に歩き直す。
これはただの好奇心。
風呂も入りたいが、彼の姿も気になる。
早る心を抑えきれずに、パタパタと小走りをして中庭へ向かう加州だった。
◇◇◇◇
『ハア、ハア、どう?できた?』
「随分遅い登場だねえ、隊長さん。」
中庭に辿り着くと、そこには俺以外の第二部部隊の連中が揃っていた。
お目当てのそれは顕現の真最中。
鎮座された刀に主の霊力を掛け合わせることで刀はこの本丸の刀剣男士となる。
主の力である霊力に反応した刀から出る光は、段々と収まりつつあった。
「そろそろかな。」
石切丸の声に合わせるように、その刀は光に包まれて人型へと姿を変えた。
そして、遂に誕生した。
「………俺は五条の作風を宿りし刀、ひな。またの名を源氏の装飾刀。大丈夫、何も怖いものは無いだろう?」
低くもなく高くもない落ち着いた声色は、俺の耳にすとんと落ちた。
どこかで聞いたようなその台詞と共に顕現した刀剣男士は、金色の瞳と深紅の瞳の双眼で辺りを達観した。
ふわりと地に足をつけると、その場を優雅にまう姿こそ見惚れてしまった。
同じ付喪神の中でも優位にいる存在。
おそらく本当に神に近いなにかでは無いかと思わざるを得なかった。
加州が気づいたことと言えば、その容姿や相貌は矢張既にいる白い鶴を思わせるということ、鶴が和装に対して彼は洋装。鶴より髪が短く大人びた顔立ち。ということぐらいだった。
「………?」
勝手な解釈で彼をまじまじと見てたらしい。視線を感じた彼は、会釈をして俺に手を振った。
「五条の刀とは、また驚いたねえ。」
わかってたような声色で石切丸は言った。
また平安刀が増えてしまったと落胆する一方で、新参者を歓迎する気持ちも芽生えていた。