春宵
𝐍𝐚𝐦𝐞
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………………。
守れなかったという後悔の念に狩られて衝動は尽きなかった。
せめて自分の身を守る術になりたかったものだ。
私を抜いて刀を宛がって頂ければ、君は生き絶えなかっただろう。
その悲劇は一瞬。
神宮内に私を祀るために訪れた矢先の事だった。
君は、最後まで芸に身を注ぎ、鍛錬を怠った結果がこれだ。
装飾刀の私に愛情を注いでくれた君ぐらい、私だって守れたというのに。
銀杏の木ごと切られた姿。階段から転がり落ちた姿。そして最後に力なく倒れた姿。
溢れた紅色の液体。
『……無惨だろう。なあ、君。』
私の姿を見ることの無い君は、二度ともう私に触れてはくれないのだな。
紅の体液に染まる私の刀に苛立ちを覚える。
何故、何故、何故。
君を失ってしまったのは、私の責任か?
『大丈夫さ、君。私が守るべき民の1人である事に変わりはないんだ。わかるだろう?目を開けてごらん。』
刀である私の姿など人間には映らない。
主が死んだというのに怯んで動けなくなっている臣下を侮蔑するように眺めた。
私が触れられれば良いのに。
私が君の仇を返してやろう。
『そうだ。君の仇をとって見せよう。君のその肉体を貸しておくれよ。』
そうか、霊体の私でも君になら憑ける。
刀が主に降りるなら、主も遺憾ないだろう?
『宝物庫から引きずり出された時は何事かと思ったが、源氏の人間は私を装飾刀にさせたんだ。それに応じるのは当然だろう。』
まだ温かい亡骸に手をかけたその時だった。
「おやおや、それでは彼が怨霊になってしまうよ。それか、鬼にね。」
「………貴様が仇を取ったとて、此奴の報いにはならぬのはわかっているだろう。」
『!』
私の手を阻む様に聞こえた声に振り返った。
そこに居たのは白い外套と黒い外套の男。
はじめに目に入った白い外套に着いていた紋章に驚いた。
それは、源氏を表す笹竜胆。
人の姿を見るのは初めてだったが、刀としての彼らには何度か遭遇していた。
まさか、彼らも人の形を取れるとは思ってもみなかった。
『………同家の者なら、わかるだろう。この意味が、この気持ちが。』
私は。いや、゛俺は ゛………。
「でも、もしこのまま君が彼の身体を奪ってしまったら、二度と魂は還らない。それでもいいのかい?」
主だった人間の額に触れると、先程まで残っていた体温は失われていた。
刀は、物だ。
結局は、何も選べはしないのだ。
『………。』
「亡きものに
座り込んだ俺の頭に手を置いた髭切は、諭す様に俺の顔を見た。
それに同調するように膝丸も俺の隣に座り込み、合掌を一つと手を合わせた。
「これが事実だ。そうして人間は歴史を紡ぐ。我らの時代は幕を閉じるのだ。」
『では、貴方達がここに来た理由は何だ?』
それは…と髭切が口を開いた時だった。
「おーーーーーーい。言付け(※)を頼まれていたのを忘れていたよーーーー!」
どこからか聞こえた朗らかなその声は、段々此方へ近づいてきた。
声の方へ視線を向けると、随分と遅い足で必死に走ってこちらへ向かってきている者がいた。
その姿は烏帽子に緑の袴。
平安貴族を思わせる様相に、腰に付けられた異様な長い刀だった。
「源氏の装飾刀に出会ったら、これを見せて欲しいと言付けを頼まれていてね。すっかり忘れていたよ。」
そう言うと、扇子を出して書かれていた細々とした文字を読み上げた。
《装飾刀。もしお前が、まだ<あの時の約束>を覚えているのなら、刀剣男士として共に戦うことを選ぶと良い。役目は変われども刀として生きる道はある。嗚呼、そして今日も白い鳥は元気だぞ。》
読み終わった後、あまりにも三日月らしい言葉に思わず笑ってしまった。
『……、そうか。三日月宗近がそういったのか。俺を、そして、白い鳥が元気だと。』
本当に一何時も気を許せない奴だと心底思う。
ただ、懐かしい。
アレらとまた共に刀を振るうことができるというのなら俺は、その選択をしよう。
『わかった。俺の刀は君たちに委ねよう。』
また会おう、実朝。
君に恩を返せなかった報いは、この胸に秘めておこう。
還った先に安寧があることを願おう。
゛私 ゛はそこで手を合わせ、彼を追悼した。
(※)''' 言付け … 伝言のこと
〜補足的な何か〜
一人称の違いは、認識の違い。私と呼ぶのは装飾刀である姿。俺と呼ぶのは刀本来である姿。
刀は時代により大きく役目を変えてきた物であるので、用途によって一人称が変わるのかなと勝手な捏造になります。読みずらくてすみません。