春宵
𝐍𝐚𝐦𝐞
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自分の手で開けた扉だ。
最後まで責任を持たねばならない。
『先程は取り乱してしまった。そこにいる鶴丸国永と共に謝罪する。』
震える声を繕うように口角を上げる。
主の座る対面には、興味無さげに虚ろな表情を浮かべこちらを見ている鶴がいた。
「気にしなくていいよ。そんなに堅苦しい場所じゃないからね。」
『それと、』
それと。
審神者の表情は変わらず笑顔のままだったが、明らかにこちらの様子を伺っている。
それと。
次の言葉を紡げずに心の中で何ども復唱する。
それと。
「それと?」
それと、伝えたいことがある。
鶴丸国永、俺の話を聞いてくれないか。
そう思い切った俺の声は少し彼にも届いた気がする。白い大きな背中が少しだけ動いて見えた。
『いや、鶴丸国永だけじゃない、主にも聞いて欲しい。』
双方に視線を向けると、彼らは同意をするように首を縦に揺らした。
言え、言うんだ。
喉を通過した唾液が冷や汗と共に流れる。
『鶴。お前は、俺が来る時の為に大きな部屋を1人で使っていると聞いた。』
じりじりと鶴の座る椅子へと足を向ける。
『皆が口を揃えて同じ事を言うものだから、俺は過度な期待に一人踊っていたんだ。』
やっときたんだね。鶴さん喜ぶよ。
鶴さんから話は聞いていたよ。
温かく迎えられたここに俺の居場所があるのだろうかと今も不安でたまらない。
あの日からずっと鶴は、俺を嫌悪していると思っていた。目を逸らし続け、呪い続けた俺自身の歴史をどうか許して欲しい。
『ずっと待っててくれたお前を、俺を見捨てないでいてくれたお前を忘れていた俺を許して欲しい。』
拒絶するよりもされる方が怖かった。
だから鶴を傷つけた。
隣に腰掛けても鶴の表情は変わらず、何処か遠い方をぼんやりと見つめているようだった。
『鶴丸国永、俺はお前と同じなんだな。鶴の欠片を使って生まれた俺を、お前は兄弟と呼んでくれるのか?』
「なにを」
零れた鶴の言葉に目を向けると、俺と同じ琥珀の瞳に潤いが満ちていた。
俺の銘を轟かせたのは源氏かもしれない。でも、俺はお前の1部であり五条国永の刀としてお前の隣にいたあの時代がいちばん楽しく幸せだった。
そう言うと、鶴はばさりと立ち上がって勢いよく俺の胸元に飛び込んできた。
「君の銘は確かにひなかもしれない。でも、君自身も鶴丸国永なんだね。」
『そうだ。五条国永が作刀に嘘偽りはない。でも、この鶴とは違う歴史を辿り新たな銘を受けたからひななんだ。』
そう、俺は鶴丸国永と同じ玉鋼から打たれた。
そしていまはちがう名前として歴史に残る。
でも俺の中に鶴丸国永としての記憶はちゃんと残っている。
『鶴、お前、なんで泣いてるんだ』
「いい加減にしろ。幾年探し回ったと思っているんだ。お前はあの日完全に俺の前から姿を消して刀の時代が終わった今日の日まで何をしていた。突然現れたと思えば俺を拒絶し他者に心を許して俺がそんな謝罪で許すと思ったのか?」
すごい情報量。んね。
背後から聞こえる蚊帳の外の声が耳に入る。
『わかっている、俺の生涯をかけておまえに謝罪する。あの後のこと、ここに来ることになったことも、全てお前に話す。』
「俺はお前の言の葉を信用しない。いいか、態度で示せ。」
俺たちが言い合いをしている最中、主は何も口出しをしなかった。
ちらちらと俺が気にしているのがわかったのだろう。
彼が思いついたように あ。と声を漏らした所で俺と鶴は口を閉じた。
そうだ、鶴丸。
君のの片割れ、来てよかったね。
その後、赤面する俺の姿とそれに吊られて赤面し、主に小言を言い始める鶴丸の姿があった。