春宵
𝐍𝐚𝐦𝐞
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「鶴さん、気持ちはわかるよ。みんなそうやって誰かがこの本丸に来るのを楽しみにしてるからさ………?でも、あれじゃあ逆効果だよ。」
半ば強制的に引っ張られてやってきた審神者の部屋。
さらに誰かに叱責されている鶴丸国永の姿など、誰も見た事がなかった。
鶴丸国永という個体は多種多様。
悪戯を好む個体、驚きを求める個体、気性の激しい個体。そして、この本丸の個体にもまた個性が存在した。
゛探しているんだ、俺の片割れを。 ゛
鶴丸国永としての記憶を強く持ち、刀の時に霊体として存在している時代があった。
そして、どんな記憶よりも彼の記憶を強く持っている個体だった。
歴史は事実を語りはしない。
ただ語られることが史実となっていく。
刀剣男士達が刀として過ごした気の遠くなる様な長い時間全てが正しい歴史になっているわけではない。
無論鶴丸国永も例外ではない。
彼自身、顕現した後に様々な書物を読み漁ったが探し求めた銘を見つけ出すことは無かった。
静かに流れる小川のような穏やかで優しい個体であるこの本丸の鶴丸国永。
本丸に来た初日から既にその中心にいる刀剣男士であり、古参となった今は信頼を寄せる刀が多い。
その鶴丸が以前から待ちに待った刀剣男士の胸ぐらを掴み怒っている姿は、審神者でさえ驚いたと口にした。
「まあまあ、加州。そこまでにしておいてやってよ。鶴丸も相当キてる様子だからさ。」
「そうやって主が甘やかしてるから、俺が厳しくしてるってこと忘れないでよ?」
完全に初期刀の尻に敷かれる審神者の姿。
その茶番を冷ややかに流し目で見た鶴丸は、はあとため息を一つ付いては体勢を崩した。
その所作一つにおいても儚さを顕らにする姿こそ付喪神の鶴丸国永である。審神者はその様子を見て彼の側へと足を動かした。
「鶴丸。こんな再会になる予定ではなかったんだろう?彼とちゃんと話をしておいで。」
審神者が幼子を宥めるように優しく言葉をかけるも、鶴丸は態度を変える様子は無かった。
「どうであれ、彼もまた家族になったんだ。このままじゃお互いが苦しいままだろう?」
「変わらないさ、彼奴はもう俺の存在を覚えてない。」
覚えていない。
その言葉に二人。否、一振と一人は首を傾げた。
聞き間違えでないならば、あの場で彼は鶴丸国永のことを鶴と呼んでいた。
そして彼を持ち帰った加州は確信していた。
あの時堕ちることなくこちら側の刀剣男士として本丸に顕現できたのは鶴丸国永がいたからだからだと。
「なんでもいいけど、そうやって思い込むとより一層拗らせるからちゃんと話をして来なよね。鶴さんを慕う子も多いんだから、怖がらせないでよ。」
今の鶴丸国永に何かを言っても無駄だと加州清光は判断した。
そう言って彼を審神者部屋から退去させる言葉を続けようとした刹那。
こんこんこん、と軽快に響く扉の音に一同の視線は扉に向かった。
「執務中、失礼する。鶴丸国永と話をしたい。入っても良いだろうか?」
審神者の部屋は基本的に出入り自由で誰でも入って良い規則である。
さらにこのような事態が事態の際には空気を読んで殆どが自分から審神者の部屋に赴くことはない。
つまり、この扉の主はその規則をしらない者であり空気を読むほど本丸に慣れていない。さらには恐らくこの事態の関係者。
「鶴丸を説得するよりも彼を呼んだほうが速かったね。」
審神者はそう言うと立ち上がった。
「ひなかい?二人で話をするのなら鶴丸をそっちに行かせようか?」
「主にも伝えたい事だ。一緒に聞いて欲しい。」
流暢に話す言葉の主。
思ったより冷静なようで、審神者も加州清光も落ち着いているなら大丈夫だと判断した模様。
入っておいで、という審神者の声を受けて数秒扉がゆっくりと開かれた。