刀、拾いました。
𝐍𝐚𝐦𝐞
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それからは、加州くんの独壇場だった。
前方だけでなく、後方にいた敵も全て鮮やかに斬る姿は本当に美しかった。
気味が悪かったのは、その敵の倒れた後だった。
生き物である限りは、死んだらその亡骸があるはずである。しかし、それらの姿は綺麗に消えてしまった。
無論、血痕の跡のひとつも残らず、そこには加州くんの姿と私だけしかいなかった。
目の先にいる加州くんはと言うと、無事ではあるもののかなり傷を負っているように見えた。
それも肩あたりの服は全て破れてしまっているようで、痛々しい傷が顕になっていた。
『…』
「…」
戦いは終わったように見えたが、互いに言葉を交わすことは無かった。
私は上手くかける言葉がみつからず、項垂れた。
加州くんも壁に寄りかかって下を向いていて、垂れていた髪に隠れた表情は見えなかった。
早く、帰って、手当しないと。
てか、ここどこなんだろう。
無事になったらなったで他の心配が浮上した時だった。
「…最悪」
『え?』
ぽつり呟いた加州くんの声は、震えてるように聞こえた。
傷が痛いのかとばかり思った私は、聞き返して垂れていた加州くんの髪の毛をかき分けて彼の表情を見てぎょっとした。
無抵抗にぽろぽろと流れ出たそれは、人間でいう涙だった。
なんで、泣いてるの?
「オレ…全然、かわいくない…。」
『…かわいく、ないの?ダメなの?』
「うん…可愛くないと…俺、愛されない。」
『ええ…、』
敵が、それとも私が彼の地雷を踏んだのだろうか。
先程まで好戦的に敵を切り刻んでいた時の姿からは想像できないぐらいに弱々しい声でそう告げる彼をどう慰めていいかわからなかった。
『かっこいいじゃだめなの?』
「かわいいがいい…。」
『…そっかあ。なんで?』
「愛されたいから…。」
『……そっかあ。』
迷子の子供と話してる感覚といえばしっくりくる。
どうしよう。この場に留まり続けるは危険だし、この傷を負ったままの加州くんを人目に晒すわけにもいかないし…。
タクシーでも、呼ぶ?
もし、タクシーの人に通報されたら?
一般人は信用出来ない。
どうしよう。
未だに顔を突っ伏して泣いている彼を頼ることも出来ず、ため息をつく。
「あるじ…」
『ん、?』
「つかれた…」
小さな声を漏らすと、加州くんの身体から力が抜けるのがわかった。
え…?
そのまま倒れ込んできた加州くんの体重とホント僅かな体温が伝わってくる。
『かしゅ、くん?』
とんとんと叩いても動かない。
慌てて胸元に耳を当てる。
『大丈夫、大丈夫、生きてる。』
混乱する自分に言い聞かせるように震える手で濡れてしまった加州くんの頬を拭った。
早く何かしてあげないと。
衰弱しきってる彼を助けないと。
わかっているのに、涙が止まらなかった。
「刀剣男士さま、いました!」
「あっ、いたってよ!かねさーーーーん!」
その時、その場に不釣り合いな程あっけらかんとした声が響いた。
「ほら〜!兼さんが迷ってるから加州さん重症じゃん!」
「ったく、現代は苦手だっつってんだろ。」
屋根から屋根へぴょんぴょんと飛び移り、私たちの前に現れた二人とその近くにいた喋る動物は私たちを探しているようだった。
「よっ、と。大丈夫ですか?」
黒、紺、の制服のようで制服じゃないような変わった服を着てる青い瞳の青年。
にこ、と効果音がつく万遍の笑みをこちらに向ける青年に私の警戒心は高まった。
「…」
「おい、国広。あんまり近づくな。」
無言の私を怪しいと感じたのだろうか、大きい方の人も降りてきた。
肩に羽織られた浅葱色に白い模様。
あれは…新撰組の羽織だ。
赤い着物に身を包み、編み込まれている長い髪を揺らしている男性はこちらを見た。
青年と同じく青い瞳だった。
「和泉守兼定だ。土方歳三の打刀として知られている。」
「僕は堀川国広。兼さ、和泉守兼定と同じく土方歳三の脇差です。」
一応名乗るのが主義なのだろうか、自己紹介されたものの、彼らも
「ご挨拶が遅れてすみません。わたくしこんのすけと申します。」
突然に来た敵か味方か分からない存在にただ無言を貫くしかできなかった。
意識のない彼を守るように強く抱きしめた。
『………。』
「加州清光の主様、少しでもいいので我らに彼の様子を見せて頂けますか?大丈夫です。我らも彼も同じ物。傷つけはしません。」
目の前の黄色の……こんのすけ、はコロコロとした声でそう言った。
ふるふると首を横に振って拒絶する。
もう単純にこの環境が恐怖だった。
見たことも無い恐ろしい的に、傷ついてしまった友人。
現実離れした今の現状全てに拒絶するように首を横に振り続けた。
「……それでは加州清光の主様に霊力を流しますので、直接よりは効果が薄れますが回復できるかと。」
そう言うと前足を私の額に当てて何かを呟いている様子だった。
それを隣にいる2人は何も言わずに見守っていた。
『どうして、ここがわかったんですか。』
だんだんと温まる身体と、戻ってきた体力に手の震えは止まりかけていた。
きっとそれは、こんのすけが送ってくれた何かなのだろうと思う。
加州くんは目覚めないものの、呼吸が少し落ち着いているようにも見えた。
信用したわけじゃない。
でも、助けてくれるのだとしたら助けて欲しい。
「僕たち、加州さんを捜索するためにここに来たんです。」
でも、加州さん顕現しちゃってて。と苦笑いする彼。
「敵は歴史の異物に反応する。だからお前らは襲われた。あれだけじゃない、かなりの数が引き寄せられてこの時代に出現してる。」
「加州清光の主様、お願いです。ここから離れましょう。このままだと加州清光も危ないです。」
チリンチリン、とこんのすけの鈴が鳴る。
回らない頭は、そのふわふわのこんのすけに手が伸びた。
抱きしめていた加州くんを私の肩に預け、そのままこんのすけを抱きしめた。
わ、加州清光の主様?!、あ、あるじさま?!
状況整理が出来ないようで慌てふためくこんのすけを他所にふわふわと暖かい体温に顔を埋める。
もう、疲れた。
『…任せます。もう。私、疲れたので。』
加州くんなら強いし、大丈夫だろう。
多分お荷物なのは私の方。
「大丈夫ですよ。我らが安全な場所へ保護しますからね。」
腕の中のこんのすけは私に優しく微笑んだ。
