刀、拾いました。
𝐍𝐚𝐦𝐞
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運動、しておけばよかった。
後悔先に立たず。
「主!口動かしてないで足動かして!」
『ああ!もう!動かしてる!』
会話の途中に引っ張られた私の身体は、無理やりに椅子から剥がされ、立ち上がった。
走れ、という加州くんの声をきっかけに、そこから走りっぱなしである。
私の荷物を抱え、私の手を引く加州くんは相当な負担だろう。それなのに、息を切らしてる様子は無い。
私はと言うと、そろそろ限界が近い。
脇腹も痛いし、何せ息が上手く吸えていない。
『何から逃げてるのさ…』
「わかんないけど、ヤバいやつ!」
ヤバいやつって何。と問えば後ろ!と雑に返された。
まるで何かに追いかけられている様に逃げていた私達。その時初めて後ろを振り返った。
『嘘…でしょ…。』
加州くんに引っ張られ続けているので、足は動かしているものの、その光景に目を奪われた。
後ろにいたのは、確かにその言葉通りだった。
骨…だろうか。突出している部分はくり抜かれていて、青白い炎に包まれている奇妙な姿が数体。
人ではないことは明らかである。さらに、剥き出しに構えている刀は、私たちの方へ向けられ怪しく光っていた。
複数いるその群れの中には、宙に浮いているモノもいて、同じく刀を所持しているようだった。
『加州くん!前!』
「わーってる!」
その姿は背後だけでなく、前方にも現れた。
八方塞がりとはこのこと。
「主、絶対に俺から離れないで」
『…うん。』
小刻みに震える手で加州くんの背広を握りしめた。
前方、後方。
じりじりと近づいてくる化物は、目と鼻の先だった。
どうしよう。
私、絶対足手まといになってる。
ひ弱で何も出来ない。この状況を理解できる頭もないし、このままじゃ、加州くんが。
そう判断した私は、前にいる彼に向かって口を開いた。
『かしゅうくん、私のこと置いてっていいよ。』
「は?」
『いや、えっ、置いていって…いい、よ。』
すごい速さで聞き返されたその言葉をもう一度繰り返した。
暫くして、はあ。と何とも分かりやすいため息が聞こえてきた。
「あのね!主!今の状況わかってて行ってんの?」
『わかんないけど、でも、私がいたら加州くんの足手まといじゃ…』
「自分が狙われることぐらいわかんねぇの?!」
そこの空気が驚いたようにピリピリと弾けた。加州くんの声は、その場の全てを萎縮させたように感じた。
…あんなに大きな声、初めて聞いた。
これは、確実に怒ってる。
背中で語るその雰囲気は、恐ろしくも高貴でより近づき難いものだった。
私には加州くんの言葉の意味はわからなかったが、それを追求する程空気が読めない馬鹿ではない。
「…ごめん。」
何も言えなかった私に小さくそう言ったのは加州くんだった。
『だ、…いじょうぶ。私こそごめん。何もわかんなくて。理解も、できなくて。』
自分の言葉が自分に突き刺さる。
約立たず。
そう誰かに笑われてる気がした。
『…何か、力になれること、あるかな。』
だから、諦めた。
今の状況を1人で理解しようとすること。
何も出来ない私が今できることを探すこと。
頼ればいい。
私を主と呼ぶ深紅の神様を。
「…あとでちゃんと話すから、今は、俺の名前を呼んで欲しい。」
加州くんは消えそうな弱々しい声で私にそう言った。
顔こそ見えないが、ふざけているわけではないだろうが、予想にもしてなかった事に驚きを隠せなかった。
なまえ?…なまえって、何。普通に呼べばいのかな。
『かしゅうくん…?かしゅう?…加州清光!』
分からないけど、当てはまるもの全部。震えながらもしっかりと叫んだ私の声が路地裏に響き渡った。
「上出来。これで俺と主の間には結ができた。正式に俺は主の刀になった。」
すると、私の前にいた加州くんの周りに風が吹き始めた。
強すぎず、弱すぎない穏やかな風は、今の季節にはまだ早い花。__桜の花弁を散らして加州くんの周りを包み込む。
そこに再び現れた加州くんは、先程までの服ではなく一番最初に出会った時の紅い服を着ていた。
そして、手に握られているのは刀。
あれは…。そう、私が見たことのある、刀。
『すごい……。』
「あんまり目立つつもりじゃなかったんだけど、こうなったらもうしょうがないよね。」
ちゃき。という刀の独特な金属音が鳴って、刀は加州くんによって振り下ろされた。
その直後、目の前にいた敵は、断末魔と共に数体姿を消した。
その姿こそ刀として戦場で使われていた加州清光の本来の姿であって、これが刀剣男士というものなんだと納得した。
