刀、拾いました。
𝐍𝐚𝐦𝐞
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『いてもいなくても変わらない存在?』
「そ。だから、主の友達にとって俺は誰でもない大学の人ってこと。」
最後列に座り豆粒みたいな教授を眺めながら、さっきの事について加州くんを問い詰めた。
私の知らないところで大学についてきていて、友人と仲良くなっていたとばかり思っていた私は焦りに焦っていたが、そういうわけでもないようだった。
『それって、加州くんを異質な存在と認識できないようになってるってこと?』
「まあね。」
『なんで?』
「歴史に干渉しない為。」
…歴史に干渉しない、ため?
よくわからない顔をすれば、加州くんは笑って分かりやすく説明をしてくれた。
つまり、加州清光という名前の人間はこの世には存在しない。(刀だから)
でも、今はこの世にいる。
だから、この時代を生きてる人に干渉しない為にそういった特質を持っている?らしい。
『え、じゃあ、他にも刀だけど人の形をした神様がいるってこと?』
「多分ね。俺は会ったことないんだけどね。」
日本には、八百万の神様がいると言う。
八百万というのは、実際の数ではない。それだけ多くの神様が宿っているという例えだと。
『じゃあ、なんで私は、加州くんの言う特質に当てはまらないんだろう。』
「俺の主だからじゃないの?多分、俺を異物だって認識してる時点で普通の人間じゃないわけなの。」
純粋に生まれたその疑問を投げかけると、呆れたような驚いたようなため息をついてそう言った。
『加州くんって、刀でしょ?その…お、沖田総司さんの。何で私を主だと?』
「わかんない。俺も。でも、主と初めてであった日に確かに感じたんだよね。」
『そーゆーものなの?』
「そーゆーもの。」
ふーん。と机に突っ伏した。頬に冷えた机が気持ちいい。
難しいことはよく分からない。
でも、寂しくないんだろうか。
誰でもない誰かに溶け込めたとしても、居なくなったら誰も気づけない。
『いてもいなくても変わらない存在ってことでしょ…?』
私の意図を汲んだのか、そんな私の髪の毛を溶かすように優しく触れた加州くん。
その表情は今にも泣きそうだった。
『ね、加州くん。私にはわかるよね?』
主だなんだと言っておいて私も加州くんが居なくなったら何も覚えてないのだろうか。
「じゃあ、約束。」
『約束?』
「うん。もし、俺が突然いなくなってそれに主が気づいたら。」
『気づいたら?』
「俺の名前を呼んでよ。」
くしゃり、と笑った顔は未だに泣きそうだった。
『わかった。約束ね。』
ゆびきりげんまん。と彼の小指と私の小指を絡ませた。
一人にしないよ。絶対。
<…1人きりは嫌でしょ?大丈夫、私がいるよ。>
……うん?
こんなこと前にもあった?
たまにあるデジャブに首を傾げた。
…………そうか。
居たはずの人が突然消えても気づかない。
それに気づいたのが私だけだとしたら。
『ね、加州くん。聞いて欲しい話があるんだけど、家帰ったら聞いてくれる?』
「俺に?うん。いいけど、今じゃダメな---」
の。と言いかけた加州くんの言葉を最後まで聞くことはできなかった。
それは、突然彼が私の腕を引っ張ったから。
「主!走って!」
◇◇◇◇
「現代の第一部隊から電報です!」
流石は我が本丸において協力な力をもつ二振。
盗まれたと噂の本刃を3日で見つけた様だった。
「繋いでください。」
管狐に告げると、直ぐに画面に部隊長である和泉守兼定の姿が映し出された。
「遅くなりました。こちら審神者です。」
〔ああ、和泉守兼定だ。本刃の件だが、厄介になった。〕
「厄介?」
〔刀が落ちてるのを見たという情報を元に探したが、刀は見つからなかった。だが、その周辺に人間と行動を共にしている加州清光の姿を確認した。これが何を意味しているかわかるか?主。〕
「本刃が付喪神の姿をとっている…?まさか。」
〔…そのまさか、だ。これは俺達にも予想外だった。〕
「こんのすけ、本刃というのは付喪神をとれるのですか?」
横に控えていた管狐に問いかければ、難しい顔をした。
「取れることは取れると思います。本刃様は言わば本丸に顕現する刀の祖です。同じ姿で顕現されても可笑しくありません。」
〔俺たち刀剣男士は審神者から霊力を貰うことで顕現されるが、本刃は違う。本霊と言うべきか?本物の刀に降りてる付喪神、つまり本物の神様だ。〕
「そのままにした方が良いのでしょうか。」
〔とにかく俺たちじゃあ太刀打ちできねぇ。後、その霊力の強さに引き付けられて現代に出没する遡行軍の数が増えてる。こっちの方が厄介の種だな。〕
「本刃を説得するなりしてそこから離れてもらわないと、遡行軍の襲撃が増えますね……。」
管狐も私もどうして良いのか分からず、顔を見合った。
「とりあえずこんのすけをそちらに向かわせます。なにかあれば、こんのすけを通して連絡してください。」
〔ああ、頼む。〕
ぷつり、と切った電報。
「それでは頼めますか?こんのすけ。」
「わかりました!」
ぽん、と煙のように消える管狐。
一つ溜息をつく。
本刃の顕現。人間と共に行動している。
「まるで貴方のようですね。それとも、生まれ変わってもう目立っているのですか?」
ふ、と含みのある笑いを零す。
その言葉に答える者は誰もいない。
