刀、拾いました。
𝐍𝐚𝐦𝐞
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加州くんが来てはや1週間。
ひとつしか無かったものがふたつに増え、静寂だった部屋には会話が生まれた。
それは実家とは違うまた新しい感覚。
加州くんは、どんどん色んなことを覚えていく。
洗濯、掃除、皿洗い。
「主、先にお風呂入るよ。」
今日は加州くんが先の日。
はーいと間延びの返事をして彼を見送った。
傍から見れば普通の子だ。
オーバーパーカーにダメージジーンズを着こなして部屋にいる時こそ誰かと驚いてしまう。
『この服着てみて』
なんて、気まぐれに買ってきた服。
やはり神様。なんでも似合う。
そこから彼は色々な服を着ては喜んでいる。
初日に着ていたあの服はあれ以来袖を通していないらしい。
「あるじ〜、石みたいなやつがないんだけど〜!」
風呂から聞こえた声に慌てて向かう。
石鹸のことだろうか。
そういえば終わってたかな。
『加州くん、扉の前に置いておくね。』
「うん、ありがと。」
◇◇◇◇
一 俺、神様だから。
最近の彼の口癖だ。
初めに聞いた時は耳を疑った。
確かに少年の居所は不明。さらには人間離れした容姿。
益々謎が深まるばかりだった。
所謂神様というものは、神社に存在する形無き存在であり崇拝物。
彼もその神様の端くれであり、物から生まれし付喪神だと言う。
半ば無理やりに納得した私をよそに、彼は神様という言葉をよく使うようになった。
あれ、血出てるじゃん!
…うん。大丈夫だよ、神様だから。
なにしたの?
割れた皿持ったら切れたの。大丈夫。
今やその言葉に抵抗も無ければ違和感もない。
慣れって怖い。
…ただ、気になることはあった。
その神様という言葉を使う時、加州くんは絶対に私の目を見ようとしない。
主、って私を馴れ馴れしく呼ぶくせに、彼は私を受け入れてはくれないのだ。
時たまに感じる壁は、最近日を増す事に比例している。
簡単に言えば、加州くんに信用されてない。
ため息をついて部屋の隅を見ても、偽物の鹿の角の上にあったはずのそれは無かった。
本当に刀、どこいっちゃったんだろう。
加州くんの本体ってことでしょ?
『加州くんって、刀が折れたらどうなるのかな…』
「死ぬよ。」
ふと呟いた言葉に答えた静かな声。
そこには先日買ってきたお気に入りの寝巻きを着た加州くんが立っていた。
縛ってない髪はまだ少し濡れているようで、いつもと雰囲気が違った。
深紅は私を映して静かに言った。
「死ぬっていうか、折れたら終わり。」
いつもより低く落ち着いた話し方は私の鼓動を速める。
『そっ、か。』
うん、なんて流して彼は近くに座った。
死ぬという言葉を躊躇なく言い放った神様。
そんな加州くんが、怖かった。
『それって、かみさま、だから?』
零れてしまった本音に、加州くんの深紅の瞳は明らかに動揺を見せた。
「…それ、」
『ごめん、』
「いーよ、怒ってない。主がそれ気にしてたのわかってたし。」
自傷気味に笑う加州くんの目を見れず、俯きながら言葉を続ける。
『いつも言うじゃん。それ。ずるいよね。加州くんは私のこと色々聞くクセに、私には何一つ触れさせてくれないんだもん。わかんないよ、私。加州くんが怖い。』
「…。」
それに応える声は無く、暫く無言が続いた。
いつもニコニコしていて、当たり障りない優しい加州くん。
しかし、たまに垣間見る神様のオーラという名の重圧感。
顔を手で覆うけれど、恐怖が打ち勝っているのか涙が出ることは無かった。溢れ出る様々な感情に耐えられず、私は再び謝罪を口にした。
『ごめんね、』
「あるじ。あのね、」
先程より近くでより鮮明に聞こえたその声に驚いて顔を上げた。
すると、目の前にしゃがみこんで私の顔を覗き込んだ深紅には情けない私の顔が映っていた。
「俺、主を怖がらせるつもりはなくて、ええと…俺と話す時いつも様子伺うから、気使わせんの悪いなあ…って。」
しどろもどろとはこのこと。
ああと、ええと、なんていつもの加州くんらしくない曖昧な返事。
「だから、つまり、俺は別に主のこと線引きとか、距離置いてるつもりはないってこと!」
『ええ、』
「もうっ、わかった?!」
『はっ、はい。』
加州くんの顔は勿論、耳まで紅くなっていた。
それを見た私もなんだか恥ずかしくて、集まった熱を逃がすように顔をパタパタを扇ぐ。
『ごめんね、私の勝手な思い込みで…』
「…俺も、逃げないでちゃんとこうやって話し合えばよかった。ごめんね。」
お互いに謝りあって、数秒。
ふふ、と声を漏らしたのは加州くん。
「あー、よかった。俺、本当にもう嫌われちゃうのかと思ったあ〜!」
『そんなことで嫌いなったら友達できないよ…?』
するとキョトンとして首を傾げる加州くん。
「俺、主の友達なの?」
『ええ、違うのかなあ…。どうなのかな。』
友達ってどこから?とか聞かれたらどうしようと身構えた。私だって友人はいるけど、多い方ではない。そんな論理的な事わからない…。
「…俺、それになったら主の特別ってことだよね?愛されてる?大事にされてる?」
『うん、大事だよ、加州くんのこと。』
そう言うと本当に嬉しそうに笑った。
そしてどこからともなく流れてきた桜の花びらが数枚、加州くんと私の間に落ちた。
「それじゃ、主、これからもよろしくね。」
『こちらこそ。』
ひとつしか無かったものがふたつに増え、静寂だった部屋には会話が生まれた。
それは実家とは違うまた新しい感覚。
加州くんは、どんどん色んなことを覚えていく。
洗濯、掃除、皿洗い。
「主、先にお風呂入るよ。」
今日は加州くんが先の日。
はーいと間延びの返事をして彼を見送った。
傍から見れば普通の子だ。
オーバーパーカーにダメージジーンズを着こなして部屋にいる時こそ誰かと驚いてしまう。
『この服着てみて』
なんて、気まぐれに買ってきた服。
やはり神様。なんでも似合う。
そこから彼は色々な服を着ては喜んでいる。
初日に着ていたあの服はあれ以来袖を通していないらしい。
「あるじ〜、石みたいなやつがないんだけど〜!」
風呂から聞こえた声に慌てて向かう。
石鹸のことだろうか。
そういえば終わってたかな。
『加州くん、扉の前に置いておくね。』
「うん、ありがと。」
◇◇◇◇
一 俺、神様だから。
最近の彼の口癖だ。
初めに聞いた時は耳を疑った。
確かに少年の居所は不明。さらには人間離れした容姿。
益々謎が深まるばかりだった。
所謂神様というものは、神社に存在する形無き存在であり崇拝物。
彼もその神様の端くれであり、物から生まれし付喪神だと言う。
半ば無理やりに納得した私をよそに、彼は神様という言葉をよく使うようになった。
あれ、血出てるじゃん!
…うん。大丈夫だよ、神様だから。
なにしたの?
割れた皿持ったら切れたの。大丈夫。
今やその言葉に抵抗も無ければ違和感もない。
慣れって怖い。
…ただ、気になることはあった。
その神様という言葉を使う時、加州くんは絶対に私の目を見ようとしない。
主、って私を馴れ馴れしく呼ぶくせに、彼は私を受け入れてはくれないのだ。
時たまに感じる壁は、最近日を増す事に比例している。
簡単に言えば、加州くんに信用されてない。
ため息をついて部屋の隅を見ても、偽物の鹿の角の上にあったはずのそれは無かった。
本当に刀、どこいっちゃったんだろう。
加州くんの本体ってことでしょ?
『加州くんって、刀が折れたらどうなるのかな…』
「死ぬよ。」
ふと呟いた言葉に答えた静かな声。
そこには先日買ってきたお気に入りの寝巻きを着た加州くんが立っていた。
縛ってない髪はまだ少し濡れているようで、いつもと雰囲気が違った。
深紅は私を映して静かに言った。
「死ぬっていうか、折れたら終わり。」
いつもより低く落ち着いた話し方は私の鼓動を速める。
『そっ、か。』
うん、なんて流して彼は近くに座った。
死ぬという言葉を躊躇なく言い放った神様。
そんな加州くんが、怖かった。
『それって、かみさま、だから?』
零れてしまった本音に、加州くんの深紅の瞳は明らかに動揺を見せた。
「…それ、」
『ごめん、』
「いーよ、怒ってない。主がそれ気にしてたのわかってたし。」
自傷気味に笑う加州くんの目を見れず、俯きながら言葉を続ける。
『いつも言うじゃん。それ。ずるいよね。加州くんは私のこと色々聞くクセに、私には何一つ触れさせてくれないんだもん。わかんないよ、私。加州くんが怖い。』
「…。」
それに応える声は無く、暫く無言が続いた。
いつもニコニコしていて、当たり障りない優しい加州くん。
しかし、たまに垣間見る神様のオーラという名の重圧感。
顔を手で覆うけれど、恐怖が打ち勝っているのか涙が出ることは無かった。溢れ出る様々な感情に耐えられず、私は再び謝罪を口にした。
『ごめんね、』
「あるじ。あのね、」
先程より近くでより鮮明に聞こえたその声に驚いて顔を上げた。
すると、目の前にしゃがみこんで私の顔を覗き込んだ深紅には情けない私の顔が映っていた。
「俺、主を怖がらせるつもりはなくて、ええと…俺と話す時いつも様子伺うから、気使わせんの悪いなあ…って。」
しどろもどろとはこのこと。
ああと、ええと、なんていつもの加州くんらしくない曖昧な返事。
「だから、つまり、俺は別に主のこと線引きとか、距離置いてるつもりはないってこと!」
『ええ、』
「もうっ、わかった?!」
『はっ、はい。』
加州くんの顔は勿論、耳まで紅くなっていた。
それを見た私もなんだか恥ずかしくて、集まった熱を逃がすように顔をパタパタを扇ぐ。
『ごめんね、私の勝手な思い込みで…』
「…俺も、逃げないでちゃんとこうやって話し合えばよかった。ごめんね。」
お互いに謝りあって、数秒。
ふふ、と声を漏らしたのは加州くん。
「あー、よかった。俺、本当にもう嫌われちゃうのかと思ったあ〜!」
『そんなことで嫌いなったら友達できないよ…?』
するとキョトンとして首を傾げる加州くん。
「俺、主の友達なの?」
『ええ、違うのかなあ…。どうなのかな。』
友達ってどこから?とか聞かれたらどうしようと身構えた。私だって友人はいるけど、多い方ではない。そんな論理的な事わからない…。
「…俺、それになったら主の特別ってことだよね?愛されてる?大事にされてる?」
『うん、大事だよ、加州くんのこと。』
そう言うと本当に嬉しそうに笑った。
そしてどこからともなく流れてきた桜の花びらが数枚、加州くんと私の間に落ちた。
「それじゃ、主、これからもよろしくね。」
『こちらこそ。』
