刀、拾いました。
𝐍𝐚𝐦𝐞
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時刻9時前。
休日とは思えない早朝。
向かい合わせに座る私と少年。
加州清光、と名乗った彼をネットで調べると、確かにそこには刀の名前が連なっていた。
『沖田総司、沖田総司…。ああ、新撰組!』
見た事のある浅葱色の羽織は有名である。
「主、歴史詳しいの?」
『うーん。学校で一通り齧ったぐらいかなあ。まあ、嫌いじゃなかったよ!』
へえ、凄いじゃん。と上から褒めるタイプの加州少年。
向かい合って見るとより感じる顔の強さ。
美男子、ってやつなのかも。
「俺にも主のこと教えて?」
『え、私?』
「うん。俺、主のこと知りたい。」
あるじ、呼ばれ慣れないそれにむず痒さを覚えつつも自己紹介的なものする。
『うんと、名前は星乃ひな で、今大学2年。来月で20歳。地元はもっと田舎。』
それぐらいかな。
あ、と言って付け足した。
『あるじってちょっと違和感。お殿様か何かみたいだね。』
「俺は主って呼ぶの好きだよ。なんか、主従関係って感じする。」
うーん。
別に嫌じゃないんだけどね。
慣れないなあ。
『えっと、加州くん?はどうして私のことを主って呼ぶの?』
すると、今までの中で1番驚いた顔をされた。
「え?主が俺を呼んだんでしょ?」
「え?呼んでないよ?」
?
そして訪れる静寂。
呼んで…ないよね、呼んでないよ。うん。
でも、その刀を拾ってきちゃったのがやっぱりまずかったんだろうなあ。
色々思い当たる節はある。
混乱してるのはきっと私だけじゃないはず。
『加州くん、多分私、君の主さんじゃないのかも。』
そう優しく説いてみると、彼もそれに納得したような顔で頷いた。
「安心して。俺、主の刀から。」
…?
うーん。わからない。
わかった顔して全然わかってないこの少年。
『まあいいよ、それより、』
お腹空いた。
朝から頭使ったから余計に空腹を感じる。
音こそならないものの、私の腹は食べ物を欲しがっている。
『朝ごはん、食べる?』
加州少年にそう聞けば、食べる。の返答。
『ご飯、食べよっか。』
色々考える前にご飯だ。
◇◇◇◇
『凄いね。流石刀。包丁の扱いがプロ。』
「扱いやすい刀はこうやって使ってもらえていいね。でも、俺の方が斬れ味は上だけど。今度試してみる?」
『いやいやいや…』
とんとんとん、と軽快に響く音が心地よい。
鍋もコンロも知らないのに包丁の使い方だけ知っている不思議な子。
この子が本当に特別な存在だとしたら。
彼が私の元にきた理由はなんだろう。
「主、これ、どうするの?」
『皿に盛るの。上手だねえ。』
出会って数時間。
昨日まではありえなかった会話相手。
そもそも祝日に朝から起きてご飯を作るなんてしたことない。
でも、楽しい。
今、めちゃくちゃ楽しいかもしれない。
『ねえねえ、加州くん。』
これはただの私の気まぐれだから。
『話し相手がいるって楽しいね。』
この不思議な存在を否定するまえに、少しだけ、仲良くなりたいと思ってしまった。
「俺は主の刀だから、主のそばにいるよ。」
その声は、とても落ち着いていた。
真紅がまた私を見つめる。
「俺は、主のたった一振の加州清光だよ。」
「可愛がってね。」
そう言って、少し照れくさそうに笑った。
イレギュラーなことが起こった次の日。
想像もしてなかったシェアハウスが始まった。
はじめまして、加州清光くん。
