刀、学びました。
𝐍𝐚𝐦𝐞
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その夜、長かった一日を終えた私は借りた部屋に敷かれた布団に身体を滑らせた。
美味しい食事、暖かい風呂。そして部屋に布団。惜しみなくお世話をしてくれるあの方が何者なのか、私には到底理解できないことだった。
「スケールが大きいんだよなあ、」
そう。ひとつの家族の話にしては規模がデカすぎる。歴史を守る、刀剣男士、審神者。
私にとってそれらは最近出会ったものであり、それ以前の記憶にそれらは無い。
なのにどうして突然?
霊力が私にはあったから?
昔からその力を持っていたはずなのに、どうして今までは何ともなかったのだろう。
疑問は尽きることなく浮かぶ。
しかし、その思考もやや曖昧になり、欠伸を噛み殺した。
「とりあえず、寝るかあ。」
仰向けに横になり瞳を閉じた。
寝る、それが今私がすべきこと。
◇◇◇◇
「はやく気付かないかなあ、俺の事。」
「馬鹿だね、彼奴も。君の祖母も。」
「そんな容易い縛りで守れると思った?」
「残念。____はもう俺の所に帰ってくるよ。」
ゆらゆらと聞こえた声は、私の頭に木霊する。
夢?
現実?
分からない中に響く声は、紅い彼の声そっくりだった。
でも、かしゅうくんじゃない。
そして、誰かに呼びかけている声をぼんやりと聞いていた。
私の名前ではないようにも思うけど、何か聞いたことのある名前にも思う。
「俺の名は、加州清光。君が愛した刀。」
かしゅう、きよみつ?
かしゅうくんじゃない、加州清光?
貴方は、誰………?
混乱する私をよそに、彼の声はそこで途切れた。
これが夢であってほしいと切に願った。
ぽちゃん。と雫が垂れた音がやけに近く感じて、私の意識は上へ上へと引っ張られた。
◇◇◇◇
「………………ゆめ。」
慌てて飛び起きた場所は、昨日滑り込んだ布団の中。
開けられた雨戸の外は穏やかな日差しが降り注いでいた。
夢だったのだろうか?
今起きたということは、おそらく夢だろうと推測して立ち上がろうとした時だった。
『……え?』
布団に触れたところが濡れていた。
布団だけじゃない、私の来ていた服も、枕も。
『なんで?』
まるで今まで水にいたようにびしょびしょな身体に困惑した。
髪の毛もほのかに濡れていた。
「あるじー?はいっても大丈夫?」
『だめ!!!!』
その時、コンコンと鳴り響いた声に本能的な拒絶をした。
確かにかしゅうくんの声だった。
そう、私を主と呼ぶのはかしゅうくんだけ。
なのに、何だろう。この違和感。
「………あるじ?大丈夫?何かあった?」
強い口調で言い放った私の言葉に違和感を感じたのだろう。怪訝そうに返ってきた彼の声が少し大きかった。
『…………。』
どうしよう、この状況を伝えるべき?
でもなんて説明したらいいかわけらない。
寝てたら濡れてました?
夢でかしゅうくんじゃない、加州清光に会いました?
オロオロする私の目に飛び込んだのは、豪華な庭に配置された小さな池。
そうか、これか!
「あるじ?ねえ本当に大丈夫?何かあった?」
『い、池に、池に落ちちゃって濡れてるから!』
「え?」
…………。
池に落ちちゃって濡れてるの!
苦し紛れの言い訳を押し通した。
少しの間無言だった彼も、私のゴリ押しに負けたようで、拭くものをもってくるね。と扉の先から姿を消したようだった。
隠し事をしてしまった。
何故か彼にだけは知って欲しくなかった。
あれは夢じゃなかった?
本当に水の中にいたの?
もしかして、夢遊病?
混乱する心を何とか落ち着かせようと深呼吸を幾度と繰り返す。
『だめ、あせったらだめ。』
「水は、神様の通り道っていいますからね。」
『?!?!』
背後から聞こえた声に振り向くと、底には体操服姿に麦わら帽子、ゾウさんジョウロを片手に持つ堀川くんの姿があった。
『びっくりさせないで……心臓出てきたよ…』
ぱくぱくと忙しなく動く心臓に手を当てる。
良かった。まだ動いている。
そんな様子を面白そうに微笑み、私の部屋の縁側に腰掛けた。
「帰って来れただけ良かったんじゃないですか?」
どこから?と言いそうになって、咄嗟に口を噤む。
わかってしまった、わかってしまったからこそ他人の口からそれを聞くのが怖かった。
「神社に行く時、人は手を洗いますよね。あれは、浄化。悪いものから手を清めるために使うんです。そして御霊水、聖水。水は清いものだそうですよ。」
清いもの……?
清い。
ああ、そういうこと。
遠回しに出された答えに納得した。
『じゃあ、私は今浄化された
それはどうですかね。彼が黙ってないでしょうね。だって、彼は貴方の……。
そう言いかけて、堀川くんは何かを察したように「ではまた。」とパタパタと走り去ってしまった。
不思議な子だ。
それより最後まで聞かせて欲しかった。
偽りの中の真実が少し見えた気がした。
「あるじ!!大丈夫?」
そして数寸後、大量のタオルと共に走ってきた私のかしゅうくん。
そんなに濡れてないよ、と笑えば「風邪ひくでしょ!」と言って頭にタオルをかけてくれた。
『ねえ、かしゅうくん」
「なあに?」
『かしゅうくんは、好きなものを最後に残しておく派?先に食べちゃう派?』
後ろから私の髪を掬って水分をとってくれている彼に質問を問いかけた。
後ろで動いていた手がピタリと止まったことをきっかけに、私は後ろを振り返る。
『………答えて?かしゅうくん、嫌いなもの、好きなもの、どっちから食べる?』
「え、え、?何、そんな怖い顔してする質問じゃなくない?どうしたの、主。」
『いいから、お願い、答えて?』
うーーーん、と唸ること数秒。
「俺だったら、【嫌いなものから先に食べる。】かも?最後に好きなものが来た方がなんか得した気分になるじゃん?」
頭を勝ち割られたような衝撃だった。
おかしい、おかしいよかしゅうくん。
動揺を見せないように取り繕った笑顔で再び質問を投げかけた。
『かしゅうくんって、食べ物で何が一番好き?』
「え?別になんでもいいかな〜。あるじは?」
『私はね、ぜんざい。甘くてね、冷たいの。あと、最後に食べるさくらんぼが凄く好きなの。』
「主、甘いもの本当好きだよね。」
『うん、ぜんざいは一等好き。』
「それは彼奴が作ってくれたから?」
………。
………。
………。
『え?』
5/5ページ
