刀、学びました。
𝐍𝐚𝐦𝐞
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拝啓、大切な貴方へ。
この手紙を見ることなく、充実した生活していることを祈っています。
私は、貴方の祖母であり審神者でした。
これから綴るのは、私の生い立ちと、未来のこと。そして、あなたに伝えなくては行けないこと。
どうか心して読んでください。
……………。
そこに綴られていた手紙は、大きくて丁寧だった祖母の直筆だった。
数十枚に及ぶそれらは、祖母が審神者になる経緯。審神者になってからの話。
娘、私の母親を産んでからの話。
娘には能力が継承されずに安堵したが、その娘から生まれた孫、つまり私にその力が受け継がれてしまった話。
当時の姿からは想像できないほどの祖母の苦難が記されていた。
最後のページに続こうとしたものの、最後の1枚が入っていないようで、後味の悪い手紙だった。
「そして、これから書くことは私さえも口にできないものです。」
それが最後の文章となり、手紙は結末を迎えた。
無くしてしまったのか、入れ忘れたのか。
謎に無い最後の1ページには、何が記されていたのだろう。と思いを馳せ、ため息をついた。
『偶然じゃ、なかったんだ。』
なぜ私が、と思うことは多々あった。
偶然に友人が拾った刀を貰ったわけでもなく、偶然に襲われたわけでもなかった。さらに、偶然に加州くんに出会えたわけでも無さそうだった。
加州くんは、この事を知っていたのだろうか?
突然だが、彼について考えてみることにしよう。
彼は、加州清光であり、沖田総司の愛刀とされた刀の神様。
本当の神様らしく、人ではない。
………………。
………………。
以上。
『いやいや、少なすぎでしょ。』
誰もいない部屋に響く自分へのツッコミに悲しくなる。
それも仕方がないことなのだ。
彼は、自ら進んで自分の話をしてくれない。
尋ねても曖昧に濁したり、教えてくれない。
可愛くする。が彼のモットーであり、常に爪先まで手入れを欠かさない姿を思い浮かべてみる。
私の前ではコロコロと表情を変え、声色も幾らか明るい好青年なのだが、1人で呆けている時の表情は曇っていたり、無表情なことも多く、声をかけるのを幾度となく躊躇った記憶もある。
本当に私は、彼を知らないのだと再認識する。
それでも、私を信頼し助けてくれた彼を、私は信頼しているし、良き友人だと理解している。
私は一般人として今まで生きてきた訳で、突然この世界に足を踏み入れてしまった私には現在進行形で彼しか頼りがいない。
彼を無くして今の私は無い。
『でも、それにしても教えてくれないよなあ。』
いつか腹を割って話せる日が来ることを祈る。
そして、祖母に出会える日まで私は私の人生を真っ当に生きようと違ったのだった。
◇◇◇◇
「あーーるじ。」
彼に関して悶えた数分後、することも無く大の字で畳に寝そべっていた私の元へ、彼が訪れた。
はあい。なんて返せば、お盆を片手に入ってきた加州くん。
その盆には、ぜんざいとお茶が二つずつ。
先程感じた甘い香りは、餡子を煮詰めていたものだったのかと納得した。
『うわー!ぜんざいだ!』
「食べてだってさ。主、疲れたでしょ?」
気が利く神様だ。
寝転んでいた私の横に盆を置くと、私の方に大きい皿のぜんざいを配膳してくれた。
『わたし、ぜんざい大好きなの。』
「確かに、食い意地張ってるしね。」
失礼だな!と思いつつ、確かに。と肯定されたことを不思議に思う。
『え、私好きな食べ物、加州くんに言ったことあるっけ。』
「いや、主は食べるもの全てに好きっていってるし、甘いものが好きなことは知ってるから。」
よく見ていらっしゃるようで、ため息まで頂いたところでぜんざいを口に含んだ。
冷えた寒天と、甘く煮詰まった小豆との食感は言葉にはし難いものがある。
『美味しすぎてどうしよう。』
「俺も甘いの好き。じわーって口の中で溶けるのが美味しいよね。」
わかるわかる!なんて言ってまた1口。
あれ、なんだっけ。
なんで私はここでぜんざい食べてるんだっけ。
『あ、そうだ。加州くん。』
「うん?」
『素直に答えて欲しい。嘘も誤魔化しも駄目。私のおばあちゃんが審神者だってこと、本当はわかってた?』
真剣に座り直して聞いた質問は、加州くんが頑なに話さない彼自身のこと。
主である私がこんなに真剣に問うているのだ。
曖昧に答えて欲しくない。それが私の本音だった。
「……そうだな、知ってた。なんとなくの雰囲気でわかった。おばあちゃん、まではわからないけど、主の中に流れる力は元々誰かのものってことは、知ってた、よ。」
言葉を選ぶようにそう言った加州くん。
でも、と続ける様子を私は真剣に見つめた。
「その人のおかげで、主がいるんだって、その人がいて、主が生まれて、今こうなってるってわかってるから、俺は、俺は、主と会えて良かった。主がいたから、俺は、いまここにいる。」
その真紅の奥に秘めていることは、私には分からない。
でも、彼が今紡いだ言葉に嘘偽りは無いようだった。
別に加州くんを疑っているわけじゃない。
でも、相手を信頼してるからこそ心配になることもある。
『そっか。ありがとう。これからも、私の神様でいてね。』
そう言うと、一瞬泣きそうな顔をした彼だったが直ぐ笑顔になって勿論。と言った。
泣くんかと思った、と言えば「俺は、神様だから泣きません」と小突かれた。
話し込んでしまったためにすっかり冷たさを失った寒天に再び手をつける。
生温い寒天も、冷えていた時よりもかなり甘く感じる餡子も、口の中に消えていく。
やっぱり、ぜんざいは冷えているのが1番だと思った。
冷えていた方が、美味しく食べれる。
直ぐに美味しい食べ頃は終わってしまうからこそ、急いで食べるのが醍醐味なのだ。
『あっ、加州くんもさくらんぼ最後に食べるタイプ?』
「え、あ、うん。気にしてなかった。」
ぜんざいの上に乗っていたさくらんぼが、2つの皿の上に残っている。
「いいよ、あげる。主、ひとつじゃ足りないでしょ。」
『え!いいのー!食べる!』
ひょい、と彼の皿から移したさくらんぼを口に放り込む。
「おいし?」
『うん!』
ふーん、なんてもう私を見ていない彼の瞳は、どこか遠くを見ているようだった。
『美味しいものは、最後に取っておく派なの!』
「っは……何それ。」
『そのままだよ、最後に美味しいものが来た方が嬉しいじゃん!やっときたー!まってたよー!って思いながら味わうの。』
「………やっぱり、最後に幸せになる方が主は満腹になる?」
『なるかな!最初に美味しい物食べちゃうと、後が少し寂しくなる。』
「………なるほどね。」
興味があるのか、無いのかやけに質問をしてくる彼。
そんなに食い意地が張っているように見えたのだろうか。
今度から反省して加州くんの前ではお淑やかに食べよう。
お皿、私が返してくるね。と彼のさらも受け取って立ち上がった。
「ああ、主。」
『ん?なに?』
「俺も、好きな物最後に食べる派。」
『一緒だね。』
「あとね、俺、嫌いなものは食べない派。」
加州くん、嫌いなものあるんだ。
何が嫌いなの?と質問しても、結局嫌いなものを教えてくれることは無かった。
