刀、拾いました。
𝐍𝐚𝐦𝐞
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「ねえ、聞いてよ。こないだ行った神社に刀が落ちてたの。」
「え、刀?」
事の始まりは友人のその一言だった。
大学の昼休み。個人が思いのままに時間を過ごす有意義な時間。
私も例外ではなく、昼ご飯を食べた後は友人と他愛もない話で盛り上がるの日課だった。
友人はどこかの語り手の如く演技じみた口調で事の経緯を話し始めた。
「それで、拾ってきちゃったんだよ。」
「ふーん。で、それで?」
歴史を考えれば億単位で刀剣が眠る土地だ。
別にそんなに珍しいものでは無いだろう。
今は刀剣ブームです。なんて数日前のテレビで言っていたことも思い出した。
「もうちょっと反応とかないの?刀だよ?少しは驚くとか、」
「…反応して欲しいだけじゃん。どうせその場の勢いで拾ったんでしょ。返してきなよ。」
え〜!と不満を漏らした友人にため息をついた。徐に手に持っていた端末で「刀、一般人、所持」と調べると過去の犯罪がでてきてしまい、そっと閉じた。やっぱりいいことなんて無い。
「そうだ、ひなにあげるよ。」
「要らないよ。何、その押し付け方。」
押しつけじゃないよ!護身用だよ!とぎゃいぎゃい騒ぐ友人は少し声を荒らげて言った。
「だってあんた、すぐストーカーされるじゃん。それも月イチペース!そんなに可愛くないのにどんなフェロモン撒き散らしてんのよ。」
そう、今日友人と話していた議題は別のものだった。突拍子もなく刀の話を始める前、私達は真剣に対策を考えていたのだ。
◇◇◇◇
私のストーカー被害について。
意識するようになったのは去年の冬頃、つまりちょうど1年前。大学1年生の冬だった。
6限ともなると大学を出るのが7時頃になってしまい1人で帰宅することも多かった。
小道を歩いているとふと感じる視線。私の足が止まると同時になり病む足音。後ろを振り返っても何もいない。
そんなストーカー行為に定期的に会っている。
そして昨日。久しぶりにその案件が発生した。
凡そ周期は月に1度か2度。しかし、気味の悪いことに未だその正体を見たことは無い。
人の姿さえ、目視できていないのだ。
また、家の付近になるとその足音は病む。
何なんだろう、と考えてもわからずに約1年が経ってしまっている。
そろそろ警察に相談しようかな、と友人に持ちかけたのが今日の昼の始まりだった。
◇◇◇◇
「可愛くないは認めるけど、努力はしてるもん。中の中でしょ。」
「だから、月イチでストーカー被害にあうような顔面持ち合わせてないでしょって意味。本当に心当たりないの?好意寄せられてるとか、借金返してないとか。」
思い返してみても、そのようなことは無かった。
大学入ってから男の人と会う機会もないし、ましてや告白なんて毛頭ない。
お金に関してもバイトのしすぎで貯金が溜まる一方。
「そんなんじゃ、ないんだとは思う。」
「…つまり?」
「わかんないけど。悪意があるなら、もっと強行的にしてくるじゃん。私を性的に見てるなら襲うだろうし、家を特定するとか。でも、家の近くに来るとそれが止むってことは、きっと何か他の原因なのかな、とは思うよ。」
それはまだ誰のも話していない私の秘密に関わることなのかもしれない。
でも、相手は私と直接接触することを望んでいないように感じるのだ。
「そんなこと言って、どうするの?家帰ってきたら誰かいました、とか家の中入った途端におしよられたら。一人暮らしなんだから誰も助けてくれないよ?」
「それはそうだけど…。」
的確な指摘に言葉を濁した。
すると、それを待っていたかのように友人は私の手を取った。
「こーゆー時に刀でしょ!」
「…護身に使えって?」
大丈夫、お安くしておきますよ!なんて通販の真似をしながら荷物を漁り始めた。
「まさか、あんた大学に持ってきて」
「じゃーーーんっ!」
やけに大荷物だと思ったら、本当に袋から刀をが出てきた。
周りに人がいないことを確認して私は友人の頭を叩いた。
「馬鹿じゃないの?!銃刀法違反って知ってる?!」
「こんなか弱い大学生が刀持ってるなんて思わないでしょ!ほら、これあげる。その神社で貰ったお守りもセットであげる!」
神社の名前が書かれた包装紙を開けてみれば、家内安全と書かれたお守りが入っていた。
初めこそ私に面倒事を押し付ける気満々だとばかりおもっていたが、それだけではなかったようだ。
「もしかして、私の為に拾ってきてくれたの?」
受け取った刀の袋を撫でると、友人は驚いた顔を一瞬したものの、直ぐに笑顔になった。
「大切だからね。ひなのこと。」
そう言われてしまったら何も言う気になれなかった。
そして私は晴れて銃刀法違反を犯すこととなった。
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