𝐍𝐨.𝟗𝟗
𝐍𝐚𝐦𝐞
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「あっ、主さーん!」
昼下がり。書類も多方終わり廊下を歩いていた所、自分を呼ぶ声に後ろを振り向いた。
大きな籠を抱えて小走りに近づいてくる赤いジャージに黒髪の青年、堀川国広の姿があった。
『どうしたの?何かあった?』
「洗濯物畳むの手伝ってください!」
ああ、うん。いいよ。有無を言わせない陽の力に圧され、審神者は苦笑いで了承した。
新撰組 鬼の副隊長 と呼ばれる土方歳三が所持していたとされる脇差、堀川国広。
普段は温厚で面倒見の良い気さくな性格で、本丸の家事や雑務をしている姿をよく見かける。
しかし、戦場に出れば冷徹で気性の荒い性格が顔を出す。そして夜戦におけるこの本丸1番の誉経験者。出陣のほとぼりが冷めず、帰還後も爛々と光る瞳に鳥肌を覚えたのも最近の記憶である。
「本当は兄弟や兼さんに頼もうと思ったんですけど、遠征中なの忘れてました。」
へへ、と目を細めて笑う堀川。
そこで、偶然歩いていた審神者に手伝わせようという魂胆だったらしい。我ながら肝の座る刀だと思った。
『堀川のそーゆーところ、好きだよ。』
口から漏れた本音が2人きりの部屋に響いた。
そーゆーところ。
主だろうが、なんだろうが使える者は使う。
家事に関しては、手伝える時は手伝いたいと各担当の刀には伝えてある。
しかし、遠慮してなのかあまり頼られていないのか家事を頼んでくる刀は今も尚少ない。
「ありがとうございますっていう返しであってますよね?」
『ふふ、そうだね。褒めてる褒めてる。』
も〜、褒めてないですよそれ。と悪態をつきながらもその手が止まることはなく、直ぐに彼の横には綺麗に折りたたまれた衣服の山が完成した。
和服に洋装、姿形も多様な刀剣男士の衣服は畳むのが難しい。ちまちまと畳む審神者と違い、迷うことなく折り進める堀川。
『堀川の手って迷いがないよね。』
「迷ってたら間に合わないこともあるんですよ。」
最後の衣服を畳み終え、再び審神者を見た堀川の瞳には光がなかった。冷たく暗い静かなその一言に、審神者は慄いた。
優柔不断という言葉があるように、人は常に迷いながら選択をする。選択が上手くできるかどうか、それは未来の自分しか知らないのだ。
「・・・・・・すみません。つい本気になっちゃいました。」
審神者の恐怖に満ちた表情が余りにも酷かったのだろう。冗談ですよ、僕も迷うことぐらいあります。と続けた。
『例えば?』
「そうですね・・・。例えば、明日のご飯はどうしよう。とか、どうやって兄弟の布を洗濯しよう。とか。悩みは尽きませんよ。」
『そうやって悩みながら成長していくの。人間って面白いでしょう。』
幼子に語りかけるように審神者は返答する。すると、青い大きな瞳が再び細められ、屈託の無い堀川の笑顔がその場に咲き誇った。
「でもやっぱり悩むのは無駄ですよ。」
「どうせ死んじゃうんだから。」
嗚呼、此奴に何を言っても無駄だ。とその時審神者は思った。
やはり堀川国広は、最後の刀の時代を駆け抜けた生粋の幕末の刀だと確信した。
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