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約束の音楽。(レオあん)

「おぉ、良く来たな!まあ上がれよ」

 玄関のドアを開けると、少しよそ行きの整いをしたKnightsのメンバーがそこに立っていた。どうやら、お酒にあまり強くない泉の車で乗り合わせてきたようだ。市街地という喧騒から少し離れた場所にレオの家はあるため、どうしても公共の交通機関では行きにくい。そのため、誰かは必ず運転手という犠牲者が出るのは致し方ない。
 部屋へと促すと「お邪魔します」と各々上がっていく。最初に上がった泉に「はいこれ」と紙袋を渡された。どうやらお土産らしい。さすがというかなんというか。

「別に気にしなくても良かったんだけどな〜。らしいっちゃらしいけど」

 お礼と共に素直に受け取ると怪訝な顔をされながら泉に顔をジッと見られる。

「……どーしたセナ?」
「いや……。なんか変じゃない?」

 さすがというか。相変わらずの観察眼だと少し感心する。気まずさから顔を反らし、「別に普通だろ~」と返すと1番最後に上がった凛月が「ねぇ王さま〜」と気怠げな声を出した。

「なんだなんだ、リッツ」
「あんずはぁ?姿が見えないんだけど」

 今あまり聞きたくない単語に身体が無意識にビクッとなったのを見逃すメンバーではないことはもう重々承知で。のべつ幕なく、「なんかあったのぉ?」と泉に問い詰められる結果となった。
 しどろもどろに「いや、えっと」と返しているとリビングへと繋がる扉が開かれた。

「ととさまー!かかさまやっぱりまだ怒ってるよー!ちゃんとごめんなさいしないとダメだよー!」

 あんずの教育の賜物で、一体どうしたら自分からこんな良い子が産まれるのか分からないくらいに素直で優しい目の前の娘の発言が今は少し憎らしい。そんなレオの心情なんて全くお構いなしな娘はKnightsのメンバーを見つけた瞬間に目を輝かせて泉へとダッシュした。

「あ!セナだセナ〜!セナいらっしゃい!」

 突然の突撃に構えが取れていなかった泉はその衝撃をもろに受けてしまい、低い声で「いたっ」と言うのが聞こえた。すっかりレオの呼び方を真似してしまい、いつもならば「セナさんでしょう?」と怒る役のあんずは今この場所にはいない。

「こんのクソガキ、何呼び捨てにしてるわけぇ!」
「あらお姫様。久しぶりねェ」
「サッちゃん久しぶり〜」
「Princess、お久しぶりです」

 各々の挨拶の中で、律儀に娘へとしゃがみ込み挨拶をする司に向け、「渋滞起きちゃうからとりあえずお部屋に上げてもらいましょ」と嵐が促し、一行はリビングへと入った。










「サッちゃん久しぶり〜」

 8人くらいは余裕で入れるレオお気に入りの大きな炬燵にそれぞれ入りながら凛月がサッちゃんと呼んだ、レオとあんずの子、幸子へと挨拶をする。幸子はすっかり泉がお気に召したらしく、泉のひざの上に大人しく座っている。泉も別段嫌がらないあたり、すっかり丸くなったなあ、と少し感慨深い。

「リッツひさしぶり〜!あいかわらずかおが白いね!」
「あはは、大きなお世話〜」

 すでに炬燵で蕩けモードの凛月が気怠げに言う。

「それで王さま、あんずはどうしたのぉ〜?」

 ほのぼのとした空気でどうにか流れが切れるものかとも思ったが、泉がそれを許すわけもなく、今までの流れをぶった切る発言。

「かかさまはねぇ、ととさまに忘れられてて怒ってるんだよ」

 レオが口を開く間もなく幸子が泉を見上げながら答え、我ながら本当に良い子だなと涙が出そうになる。

「はぁ?どういうこと?あんた今度は何やらかしたわけ?」
「今日とは別に、先週お姉さまのBirthdayをお祝いしたのでしょう?」

 今日Knightsのメンバーがレオの家に集まったのは他でもない、今やレオの奥さんとなったあんずの誕生日祝いをサプライズでしてくれるためだった。本来の誕生日は1週間前。それとは別に日程をわざわざずらして、わざわざ予定を空けてまで祝ってくれるというのだからありがたい話だが、その優しさが徒となった。
 司の言葉にまたもや無意識にビクッと身体が反応する。

「え、やだ、もしかして王さまったら……」
「え、え?どういうことですか鳴上先輩」

 そういうことに少し疎い司とは別に、それだけの反応で察する嵐にはさすがとしか言いようがない。

「王さま、もしかしてあんずの誕生日祝い忘れたの……?」

 どうやら嵐だけではなく凛月も察していたようだ。図星な回答にぐうの音も出ない。そんな凛月の言葉に「はぁ!?」と泉が殊更大きな声をあげたおかげで幸子の身体がビクッと跳ねる。

「ちょっと、バカなんじゃないのぉ!?わざわざ俺たちがずらしてあげたのに気が付かなかったわけぇ!?」
「だって、おかしいなとは思ったけど、ずらすから今日だと思ったんだよ〜!」
「それにしたって、普通奥さんの誕生日くらいしっかり覚えてなよねぇ!」

 信じられない、と泉は呆れ顔。全くもって反論の出来ないレオは縮こまるしかない。すると司が徐に炬燵から立ち上がった。

「どうしたの、司ちゃん」
「やはりこんな甲斐性無しの男にお姉さまは任せられません!今からでも十分間に合います。この朱桜司がお姉さまもPrincessもしっかり養ってみせます!」

 そのままの勢いであんずの部屋へと向かう司を止めることは出来ず、見送ることしかできなかった。
 皆が皆、突然レオを責め始めたからか、幸子は泉の膝の上から立ち上がり、レオの元に駆け寄ったかと思うと、肩をギュッと抱いた。娘なりに父を守ろうとしたのだろう。本当に良い子に育ったなあ、と幸子の頭をそっと撫で、笑顔を作った。ニコッと泣きそうな顔で笑うその顔はあんずの面影がしっかりとある。

「なんだよ、そんなに責めなくてもいいだろ〜!」
「なーに言ってんの。今回ばかりはかさくんに分があるからねぇ」

 ナル〜と助けを求めるも嵐も困り笑顔だった。

「ごめんなさいねェ、王さま。今回ばかりはアタシも援護できないわァ」
「……リッツぅ」
「それであんずはまだ怒ってるの?」

 炬燵の上で「ふぁあ」と欠伸をしながら凛月が問うてくる。

「忘れてたのって1週間前でしょ……?そこから王さま何もしなかったの?」

 当たり前の質問にレオはまたもや「うっ」と唸ることしか出来ない。

「ととさま昨日かえってきたから、まだごめんなさいしてないんだよ」

 レオの肩をギュッと抱きながら怖ず怖ずと幸子が回答する。

「はぁ?昨日?」
「うん!」
「ちょっと。どういうことか1から説明しな」

 アイドルとは程遠い般若のような顔をした泉にいつものように「妄想しろ〜!」なんて言えるはずもなく、レオは事情を説明した。










「つまり?あんたはあんずの誕生日の朝に思い立って旅に出て、帰ってきたのが昨日の夜遅くだったと」
「……はい」
「夜部屋にも入れて貰えず、訳が分からないまま朝起きてあんずに話しかけるも無視されて、そのまま部屋に籠城されてしまっていたらあんたのとこの娘が誕生日のことを教えてくれてそのまま俺たちが来た、と」
「……はい」

 レオの説明を要約してくれた泉がそこまで言い切ると、盛大に深いため息をついた。

「あんたさぁ……、ほんっとうにばっかじゃないの?」
「……面目もございません」
「だいたい、俺たちの活動に対してだって今みたいに自由奔放にやってるの、俺は口酸っぱく反対してるんだからねぇ!?」

 Knightsの活動はレオたちが卒業しても続いた。しかし、レオのインスピレーションとともに現れる放浪癖はいまだ健在で、フラッといなくなっては1週間程度で帰ってくることはざらだ。その間の仕事はレオ不在の元おこなっている。ファンからすれば、そんなレオも含めてKnightsらしく、今のところは許されているようで、街頭でインタビューでもすれば、「だってそれが王さまだしー?」とでも返ってくるくらいだ。そんな現状に甘え、今でもレオは思い立ったときに思い立った場所に旅をする。




「素直にあんずに謝りに行けばぁ……?じゃないと俺たち何しに来たか分かんなくなっちゃうし」

 凛月の言うことはもっともで、1番的確なアドバイスだとは分かっている。だがそれができない。

「……あんず、一切口聞いてくれない」

 泉たちが来る間にドアをノックして声をかけてみるも、部屋の向こうから一切反応はなく、どうしたものかと困り果てていた。

「ひとまず、司ちゃんが戻ってくるのを待ちましょ?」

 そっと嵐にフォローを入れられると凛月が炬燵の上で欠伸をまた1つ。

「ス〜ちゃんが天岩戸を開けてくれると良いけどぉ」

 シュンとするレオを見て「こら、凛月ちゃんたらっ!」と嵐が咎める。「本当のことでしょぉ?」と反論する凛月に向け、レオは決意の籠もった目をそれぞれに向けた。それにいち早く気付いた泉は「何させるわけぇ?」と既にレオの言葉に対して臨戦態勢。
 こういう時の気づきが早いのは、付き合いが長いだけある。

「お前達、頼みがある」

 ニッと笑うレオを見て、泉は「やれやれ」と呟いた。



 司は恐らくあんずがいるであろう部屋の前に立っていた。
 失礼だとは思いながらも、他の部屋を見て回ったが、あんずはいなかった。残るは司の目の前の部屋のみだ。そもそも、他の部屋は扉が開いており、扉が閉まっている部屋がここしかなかったのだが。
 深く深呼吸を1つ。そして慎重にドアをノック。
 しかし、ドアの向こうから返事はない。もしかするとここにもいないのでは、と思いつつ再度ノックをした。

「お姉さま?司です。朱桜司です。いらっしゃらないのですか?」

 ドアの向こうにいるであろう、あんずに向け声を掛けると、「司くん……?」と怖ず怖ずと声が返ってきた。

「え?なんでここに……?」

 部屋の向こうにいるのが司だと分かった瞬間にドアを急いで開けるあんずの様子から、どうやらレオだと思われていたようだ。
レオに対しては籠城を決め込むらしい。

「ふふ、今KnightsのMemberでお姉さまのお家に遊びに来ているのです。Living roomには瀬名先輩や鳴上先輩、凛月先輩もいらっしゃいますよ」

 まさかあんずの誕生日パーティーに来た、とは言えもしないので、それとなくごまかす。

「やだ!本当!?ごめんなさい……!何もお構いできてなくて!お茶とかレオさんが出してるわけないよね。すぐ出すから……!」

 慌てて準備をしようとするあんずに「大丈夫ですよ」と落ち着かせる。主役のあんずを動かすわけにはいかない。

「お姉さまはいま、Leaderとケンカされているのでしょう?そんなときに気を遣わなくても大丈夫です。それより良ければ、お姉さまが怒っている理由を私にお話してくれませんか?」

 あんずの両手をそっと掴み、笑顔を向けると、あんずはそのきれいな顔を歪ませ、一瞬泣きそうになるも、すぐに元に戻し、眉を垂れ下げながら「ありがとう」と笑った。
 女は強し、とはこのことなのだろう。学生時代からそうだったが、彼女は周りに甘えることを知らない。何でも一人で抱え込み、無理をする。決して泣き顔は見せずに。
 そんなあんずだからこそ、司は学生時代から彼女を守っていこう、と彼女をお姉さまと慕い、騎士としてできることをしようと思っていた。蓋を開けてみればいつも助けられ、守られていることが多いのだが。ましてやいまや、あんずの騎士はレオだ。でもあんずのためにできることは何だってしたい、その気持ちは今も変わらない。
 この気持ちになんて名前を付ければ良いかは分からない。もしかしたら恋かもしれないし、ただの憧れかもしれない。

「やはり、司では役不足ですか……?」
「そんな!そんなことないよ。……じゃあ、少しだけ甘えちゃおうかな」

 どこまでも優しいあんずの気持ちを利用した言い方だったな、と反省の波が押し寄せる。
 少しの沈黙のあと、あんずはゆっくりと口を開いた。

「レオさんには自由に生きて貰いたいの。わたしに縛られず、家にも縛られず。でもやっぱりふと寂しくなっちゃうな、て。レオさんがああいう性格だって分かってるし、理解もしているんだけどね。忘れちゃったのかなあ、て。覚えてるのは私だけなのかなあ、て。そんなこと考えちゃったらちょっとレオさんの顔見たくなくなっちゃって」

 妻としての顔と女としての顔、母親としての顔。この1つの身体で彼女はいつくものものを守っていたことを思い知る。自然に「お姉さま……」と呟いてしまったからか、あんずは「ごめんね、こんなお話聞かせちゃって」と慌てた様子で謝ってきた。
 謝る理由なんてひとつもない。

 控えめな音でドアをノックする音が聞こえたのはそんな時だった。

「かかさまー?でてきて-!ととさまとなかなおりしよ!」
「あんずちゃん?せっかくお家に遊びに来たんだもの、お姉ちゃんにも顔を見せて欲しいわァ」

 前見たときより着々と大きくなり、遺伝子的にはレオの遺伝子のほうが強く、釣り上がったクッキリとした目に八重歯を覗かせる2人の子ども、幸子の声がした。だが先ほど司が見た笑顔はやはりあんずの面影も強く残っており、間違いなく2人の子だと確信させられる。
 どうやら嵐と2人であんずの様子を見に来たようだ。

「ふふ、お姉さま。Princessもああ言っていることですし、素直に先ほどの気持ちをLeader本人にぶつけてしまいましょう」
「司くん……」

 さぁ行きましょう、とドアを開けると幸子と嵐がそこに立っていた。今日、久しぶりに母親の顔を見たからか、幸子はあんずの元へと一直線だった。



「それじゃ、お姫様、あとはよろしく頼んだわよォ?」

 てっきり皆でリビングに戻るために来たのかと思いきや、嵐は幸子にウインクをすると「司ちゃんはこっちよォ」と司を呼び寄せた。幸子は任されたことが嬉しいのか「うん!」と元気いっぱいに返事。

「鳴上先輩?どうかしたのですか?」

 司も頭にはてなマークを付けたまま嵐の元へと向かい、そのままリビングへと向かっていく。部屋にはあんずと幸子だけが残された。

「かかさま、まだおこってる?」

 ポカンとしていたあんずの意識を戻すかのような幸子のあどけない声。幸子はクリクリの瞳をこちらに向けながらあんずを見上げていた。そんな幸子の姿を見て「ごめんね」と咄嗟に声が出た。娘に心配を掛けさせるなんて母親失格だ。

「かかさまがごめんねする必要なんてないよ?」
「でも、さっちゃん寂しかったでしょう?」
「んー、ちょっとだけ!ほーんのちょっとだけね!」

 親指と人差し指で少しだけ隙間を作り見せる幸子に思わず「ふふっ」と笑ってしまう。

「じゃあ、それのごめんなさい、かな」
「そっか!そういうことなら、ゆるす!……えへへ、これでなかなおりだね」

 本当に良い子に育ってくれたなあ。
 幸子のアタマを撫でながら「ありがとう」と言うと満面の笑顔をあんずに向けてきた。

「うーん……、かかさま」
「なあに?」
「大きいおへやもどろう!」

 大きい部屋、とはリビングのことだ。へへっと笑うその顔は、レオが何かを思いついて笑うその顔にそっくりだった。










 そのまま幸子とリビングに戻ろうとすると、「そーだった!」と声を掛けられる。
 何事かとその場に立ち尽くしていると「かかさまあたま!」としゃがむようにせがまれた。

「はいるまえに、これあたまにつけないと!」

 そう言って何かを頭に乗せられる。「とっちゃだめだよ!」と怒られてしまったので触って確認をする限り、紙で作られたティアラのようだった。

「さっちゃんが作ってくれたの?」

 満面の笑顔と共に「うん!」と返事。「ありがとう」と伝えると幸子は満足そうだった。



「ととさま、はいるよー!」

 リビングへと続く扉の前で幸子が中にいるであろう、レオに向け声を掛ける。いつもの豪快な笑い方と共に「いつでも来い!」とレオの声が聞こえた。
 当分聞いていなかった好きな声に妙に緊張してしまった。そんなあんずの心情などつゆ知らぬ幸子は元気良く扉を開け、手を繋いでいたあんずの手を引っ張った。
 それと同時に聞こえてくるレオの声とピアノの音。
 その音楽は今まで聞いたことのない音楽だ。新曲だろうか、と思い耳を傾けているとその音楽はただの新曲ではなかった。
 いつの間にか手を繋いでいた幸子もあんずの元を離れ、レオとともに歌っている。レオも幸子が来たからか、幸子の高さにしゃがみ込み、あんずが好きな、音楽を目一杯楽しむ姿であんずのために歌っている。後ろではピアノを弾く凛月の姿と踊っている泉と嵐と司の姿。あんずの大好きな、Knightsの皆の姿。
 頬に冷たい感覚を覚え、触ってみると自分が泣いていることに気付いた。それに気が付くと更に涙が溢れ出る。歪む目の前に必死に涙を止めようとするが、それは止まることを知らず、視界は歪みっぱなしだった。



 曲が終わっても止まることを知らない涙に、「かかさまー!」と幸子が駆け寄ってくる。

「ととさまたいへん!かかさま泣いてるのおわらない!」

 わたわたとレオとあんずの顔を交互に見やる幸子をギュッと抱きしめると、「かかさま……?」と呟く声が聞こえた。
 向こうは向こうで、「ほら、王さま早く」と泉の急かす声。

「……あんず?」

 怖ず怖ずと口を開いたレオの声に怖ず怖ずと顔を向けると、ばつの悪そうなレオの顔。

「その……、ごめんなさいっ!」

 深々と頭を下げると、直ぐさま顔を上げ、更に続けた。

「誕生日祝うの遅くなって、『約束』も遅くなった。本当にごめん」

 そうしてもう一度頭を深々と下げた。レオの後ろには「本当、世話が焼けるんだからぁ」と呟く泉を宥める嵐の姿。「まぁ、結局は目的達成じゃないの?」と呟く姿と満足そうに微笑む司の姿がそれぞれ映る。突然の事態に困惑気味のあんずだったが、一つだけ分かったことがある。

「約束……、覚えててくれたんですね」
「当然だろ!例え、宇宙人にアブダクションされても、地球が滅んだとしてもそれだけは忘れないぞ!」

 すかさず「例えが極端すぎでしょぉ」と呟く泉とそれを宥める嵐の姿に気づけば涙も止まり、自然と笑みが零れる。



 『約束』それは、結婚する前のあんずの誕生日に交わしたものだ。

「あんず、結婚だ、結婚!俺に一生あんずの誕生日にあんずだけの曲を作らせて!……いや、作らせてください?」

 それだけの言葉だったが、あんずにとっては最大限の言葉。
 それから毎年、レオはあんずのためにあんずの曲を作ってくれる。それは世間に出すことはできない、あんずに向けたあんずのためだけの曲だ。
 音楽のことのみ考え、音楽とともに自由奔放に生きる彼が、その時だけはあんずのことをずっと考えて作ってくれる、これ以上ないプレゼントだった。

「レオさん」
「なんだなんだ、あんず」

 あんずに笑顔が戻ったからか、すっかり元の調子に戻ったレオが昔のままのあどけない子どものような笑顔を向けてくる。

「約束、ありがとうございます。……大好きです」
「当然だろ!俺も好きだ、大好きだあんず~!」

 そしてそのまま飛びつかれ、唇をそっと塞がれた。
 泉の「他所でやりなよねぇ!」という声や、嵐の「あらあらあらァ!」と楽しそうな声が聞こえる。
 娘の前!とも思ったが、「ととさまもかかさまも仲良しらぶらぶなんだからね!」と幸子は妙に誇らしげだった。










「んー!泉ちゃんの手料理なんて久しぶりだわァ!美味しくて食べ過ぎちゃいそう」

 炬燵いっぱいに泉の手料理がどんどんと運ばれ、皆の手も止まることなく、出てきた先からなくなっていく。

「俺が作るんだから、当然でしょぉ?かさくん、あんたは一昨日のロケで糖分大量摂取したんだから、サラダ以外は禁止」
「そんな!?お祝い事なのですから、無礼講です!」
「何言ってんの。一昨日だって、『お仕事なのですから仕方ないですよね!』とか言って、どんだけアイス食べたと思ってんの」
「あぁ、今流行りの人気TOP10分かるまで帰れない、ってやつよねェ。そういえば司ちゃんと泉ちゃんで撮影に行ってたわね」
「え……?泉さんが出たんですか?」
「番宣で。仕方ないでしょぉ、本当はどっかの誰かさんが出る予定だったのに、どっか行ってていなかったんだから。まぁ、俺は2、3口しか食べなかったけど、かさくん馬鹿みたいに食べてたからねぇ」
「んあ?俺のことか?わははは!悪いな、セナ~」

 微塵も悪そうにないレオに「あんた思ってないでしょ」と鋭い突っ込み。

「それはもう……、申し訳ないです……。絶対録画して見ますね。それにしても本当にありがとうございます。料理こんなに作っちゃってもらって」

 ある程度の下ごしらえはしてきたとは言っても、炬燵いっぱいの料理を作るのは相当手がかかる。「手伝います」と言ったものの、「主役は座ってな」と一喝されてしまった。その代わりに「さちこも料理できるんだよ~!」と最近手伝いたがりな幸子が泉の後をついていっている。最早手伝っているのか、邪魔をしているのかは分からないが、泉も邪魔そうにすることなくサラダなど、簡単なものを手伝わせていた。意外と子どもの扱いに慣れていることに感心した。

「ん~、こんなもんかなぁ……」

 泉とは別にキッチンの奥の方で1人作業に没頭していた凛月の声。「できたよ~」と持ってきたケーキは3段重なった、イチゴをふんだんに使った特製ケーキだった。凛月がいつも作るような見た目が危ないものではなく、ピンクと白を基調とした食べるのが惜しいくらいのケーキで、「今日はあんず用だから特別~」と鼻歌混じり。

「凛月先輩!Marvelous!」

 甘いものに目がない司は飛びかからんとしない勢いについ笑ってしまう。

「レオさん……?」

 やいのやいのと騒いでいる皆を少し遠い目で見守るレオの姿に声を掛けると、あんずの方を向いた時にはいつものようにあっけらかんとした顔で「なんだなんだ~?」と返事をされる。

「ふふっ。いいえ。……幸せですね」
「……そうだな、幸せだっ」

 そう言って笑うレオの顔は学生時代の子どもっぽく笑うその顔とは違う、色々な顔を覗かせた顔だった。
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