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間違ってないよ。(ひな夢)

「ひなたくーん!ひなたくんもどうっスか?プロデューサーちゃんが作ってくれたんスよ」

 放課後1番、終礼が終わると同時にトイレに行きたくなったのですぐに教室を出たひなたが教室へと戻っていくと、1つの机をクラスメイトたちが取り囲んでいた。その一人である、鉄虎がひなたの姿を見つけると同時に声をかけた。

「おぉー?なになにー?何作ったの、プロデューサーさんっ」

 2年生に転校生としてやって来たプロデューサーとは別に1年生にもプロデューサーはやって来た。どうやらその転校生が何かを作ってきたようだ。
 ひなたがその机へと近付くと、みんな何やら小袋から取り出し、口元へと運んでいた。見る限りクッキーのようだ。

「プロデューサーさんがクッキーを作ってきてくれたんです。僕たち1人1人にって。すっごく美味しいですよ」

 嬉々として話す創に合わせて「おれにも1つちょーだい」と机の上に並べられたまだ空いていない袋を取ろうとしたら、「待って」と転校生から声を掛けられる。

「ひなたくんにもちゃんと用意してるから」

 はいこれ、と渡された別袋には「ひなたくん」とメモが貼られていた。

「プロデューサーさん、僕たちひとりひとりにちゃんとそれぞれ名前を書いて渡してくれてるんですよ」
「みんなに作ってきたからね。誰に渡したかちゃんと分かるように一応」
「ちょっと甘めのクッキーだからひなたも気に入るんじゃないか?」
「え?俺のクッキーそんなに甘くなかったっスよ?」

 サクッとクッキーを囓りながら鉄虎は自身のクッキーを友也へと差し出した。そのクッキーを口に運んだ友也は「あれ、本当だ」と不思議な顔。

「あぁ、甘いの好きな人とそうでない人といると思って2種類作ったから。鉄虎くん甘い方が良かった?」
「いや、俺はこれくらいのほうがちょうど良いっス!」

 うまい、と言いながらクッキーを食べる鉄虎の姿に「なら良かった」とプロデューサーも安心したようだった。

「俺も食べちゃおっかな、いっただきまーす」

 丁寧に閉じられていたクッキーの小袋を開け、1枚取り出す。人型のクッキーや星型など、様々な形のクッキーがあるようだ。サクッと人型のクッキーをかじる。
 サクサクのクッキーはクラスのみんなが絶賛するのも頷けるくらいに美味しかった。

「うん!美味しいよっ、プロデューサーさん」

 しかし、そこにある違和感は拭いきれなかった。









「プロデューサーさんプロデューサーさん、ちょっと良いかな?」

 各々、ユニット練習や部活がある、とあの後すぐに解散になった教室にひとり佇み残る転校生にひなたは声をかけた。「どうかした?」と自分の荷物をまとめながら転校生はひなたのほうを向いた。

「あのクッキー」
「え?なに?」
「さっきくれた俺のクッキー、多分だけど、中身間違えてたよ?甘いの期待してたのに、あんまり甘くなかったから、あれは鉄くんとかに入れてたやつだと思うんだけど」

 貰ったクッキーの小袋を転校生にチラチラと見せながら言うも、転校生は押し黙ったままだった。

「プロデューサーさん?」
「ううん、間違ってないよ。ちゃんとひなたくん用」

 フワッと笑う転校生に「え?」と声が出る。

「双子って大変だね。食べたいものの嗜好まで分類しないといけないんでしょ?だからわたしの作る物くらいはせめて、と思って。あ。それとも迷惑だったかな?」

 きょとん、とする転校生に何も言えなくなる。
 どこでバレたんだろう。
 双子の弟であるゆうたにすら気付かれていないことだ。
 少しでも同じところを、似ているところを無くすように、周りの人が分別できるように、と苦手なことを飲み込んでひとり戦っていたことに。

「……ひなたくん?」

 ぼうっと呆けていたからか、転校生が不安そうに覗く。すると教室の外から転校生を呼ぶ、あんずの声が聞こえ、転校生は「はーい」と教室の外に向け返事をした。

「ごめんね、ひなたくん。今日、あんずさんのプロデュース業務をお手伝いする約束してて。今度は甘いの作ってくるね」

 そう言って荷物を持って立ち去ろうとする転校生の腕を咄嗟に掴んだ。

「……ひなたくん?どうかした?」
「……また作ってきて。できれば今日と同じ物」
「ふふ、了解。みんなには内緒、だね」

 優しく微笑みながら転校生はサッと小指を出してきたので、そっとひなたは自分の小指を絡めた。
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