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瀬名泉誕生祭。

 とある日の放課後。今日は自分にも他人にも時間にも私生活にすら厳しい瀬名泉は個人的な仕事のために授業が終わるとすぐに学院から出て行った。

「先輩方、本日はLessonの予定も無いのにお集まり下さり、誠にありがとうございます」

 Knights唯一の1年生であり、末っ子としてKnights内で皆に可愛がられている朱桜司は恭しくスタジオ内に集まった泉を除くレオ、凛月、嵐へと頭を下げた。しかし、レオはインスピレーションが!とのたまい紙にずっと音符を書き散らしており、凛月はスタジオ内に設置された彼の寝床でスヤスヤと寝息を立てている。Knights内で言えば普段の所作を除けば常識人である嵐も鏡を見つめながらうっとりしている始末で、司の言葉などまるで耳に入っていないようだ。
 Knightsとは気高きユニットのはずなのだが。
 3種3様の姿を見て司は内心でため息を付く。分かっている、普段の彼らの姿が決して気高くないことは。だがそれでもファンの前では騎士の姿を貫くし、学ぶべきところもたくさんあるのでなんだかんだと憎めない。むしろ尊敬する部分が多い。しかし今はそれとこれとは話は別で。

「先輩方!? 少しは司の話を聞いて下さい!」

 先程より声を張り上げ注意をするも馬の耳に念仏。さほど気にした様子もなく、というよりも聞こえているかも最早定かではなく、凛月は寝ているし、レオは紙にペンを走らせている。

「やだァ、司ちゃんたら、そんなに怒るとキレイな顔にシワが増えちゃうわよォ?」

 鏡で自分を見ることに飽きたのか、未だに無視され続けている司を哀れに思ったのか、手鏡を机の上に置きながら、嵐が顔を上げたことに少し安堵する。

「誰の、誰のせいで私が声を張り上げていると思っているんですか!Listen!お願いだから聞いて下さい!……全く。先輩方はもう少し常日頃から騎士道というものを意識して欲しいものです……」

 ふぅ、とため息を付くと、「やぁよォ」と嵐が手を上げ首を振っている。

「普段からそんなの貫いてたら疲れちゃうじゃない。司ちゃんはもう少し気楽に生きた方が良いわよォ?まァ、真面目すぎるのが司ちゃんの良いところなんだけど」

 ウインクをしながら、クネクネと動くその姿は気にはなるが、聞いてくれたので何とか口を紡ぐ。
 さりげなく嵐にフォローを入れられると、「ほォら、2人とも、いい加減司ちゃんの話聞いてあげましょ」と未だ全くもって聞く耳を持っていないレオと凛月に声をかける。
 やはり、普段の言葉遣いや所作を除けばKnightsの常識人である嵐には敵わないな、と思いながら、嵐が凛月を揺さぶり起こしていたので、司はレオの紙とペンを取り上げた。

「うわっ!?貴重な音楽が飛んでいくだろ!?宇宙規模の損失だぞ!何すんだ、スオ〜!返せ!」

 レオの作曲活動はKnightsの命とも呼べる行動でもあるが、このままでは前に進まないので、致し方ない。

「子供ではないのですから、人の話を聞くときは聞いて下さい、Leader!」
「スオ〜といい、セナといい、何でいつもそんなにカリカリしてんだ?もう少し騎士らしく、落ち着いたほうが良いぞ〜?」
「Leaderにだけは言われたくないです!」

 わははは、と笑うレオに向けぴしゃりと言い放つと、「俺はカリカリしてないだろ〜!?」と言われるが、そこではない。

「ふあぁふ、俺の眠りを妨げたんだから、有意義な話にしてよねぇ……」

 嵐の手によって起こされた凛月もあまり機嫌がよろしくないようだが、一先ずは皆が聞く姿勢になったので、司は泉を除いた3人を呼んだ理由を告げた。



「あら、もうそんな季節だったのねェ」

 司が泉のいない日を狙って皆を呼び寄せたのは他でもない。来たる泉の誕生日に向け、何かサプライズが出来たら、と思ったのだ。だが、司一人で考えるにはどうもうまく考えがまとまらないため、こうして皆を呼び寄せた。

「はい。聞くところによると、私や鳴上先輩のBirthdayにPartyを主体的に企画して下さったのは瀬名先輩だそうで。ですのでこの不肖、朱桜司がしっかりと先導して少しでも瀬名先輩への日頃の恩を返そうと思い、皆様を呼び寄せてしまいました」
「あら、私の誕生日も泉ちゃんが企画してくれたのォ?知らなかったわァ」
「俺は祝われてないぞ!?」
「Leader、あなたはそもそも誕生日に学院に居なかったではないですか」
「あれ?そうだったか?わははは、忘れてたっ!」
「セッちゃんの誕生日ねぇ……」

 意外や意外、一番興味のなさそうな凛月が「うーん」と頭を捻らせて考えこんでいることに司は少し感動した。

「はい……。瀬名先輩は勘の良い方ですから……。何かSurpriseを考えたとしても、すぐに気づかれてしまいそうで。何か良い案はないかと」
「これだけみんなの誕生日の時にお祝いをしているんだから、今更サプライズも何もないと思うわよォ」
「そうは思うのですが、出来ることならば少しでも瀬名先輩を驚かせたいと思ってしまうのです……」

 嵐の言うことも最もで、司もそうは思っているのだが、素直にパーティーだけではどこか味気ない。特に泉が相手なのだ。絶対にどこかで勘付かれてしまうし、それでは面白くない。

「セッちゃんってさぁ……」

 そんな司の思いを感じ取ったのか、先ほどから物思いにふけっていた凛月に感心していた。しかし、凛月から出された提案はとんでもないものだった。



「セッちゃんってさぁ……、ス〜ちゃんの言う通り、サプライズとか考えてもどっかで気づいちゃうだろうし、気付いちゃったら気付いちゃったで、知らないふりしながらも当日まですっごくソワソワしちゃって驚き方とかまで考えて来そうだよね。それに、気付く以前に誕生日のことしっかり把握して、どうせ何かしてくるんでしょぉ?ってソワソワして待つタイプだよねぇ、絶対。
 だったらさぁ、いっそのこと誕生日の日に何もしない、てのが最大のサプライズってことで良いんじゃないのぉ……?何より、ソワソワして終わるセッちゃんを見るのが面白そう」

 ふふふ、と意地の悪そうな凛月の顔。

「なんだそれ!?面白そうだな!誕生日なんだけど、何もしないの?っていうセナの顔が思い浮かぶ!……はっ!そんなセナの姿妄想したらインスピレーション湧いてきた!きたきた!紙!ペン!スオ〜!ペン返せっ!」

 ギャーギャーと騒ぎ立てるレオの話も半分に司は開いた口が塞がらなくなっていた。

「いや……、その……、それは……良いんでしょうか……?」
「んー、だって面白そうじゃない……?」

 軽く音符マークが付きそうなくらいに意地の悪い顔を向ける凛月に、先程までの感心を返して欲しいと願う。
 さっきまでの物思いの顔はそんなことを考えていたのか、と。
面白い、面白いのだろうか。うーん、と唸り考える司を横目に凛月は、「じゃあ決まったことだし、俺はもう一休みするからぁ……。起こさないでよねぇ」とそそくさと寝床へ戻ってしまう。レオもどうやら司からペンを返してもらうことを諦めたのか、どこからかペンを持ってきて落ちてきたインスピレーションを書きとどめており、最早話し合いのできる雰囲気ではなくなってしまった。

「鳴上先輩、何かが違う気がするのですが……。これで良かったのでしょうか」

 唯一の救いに声をかけると、さすがの嵐も困り顔で「良かったのかしらねェ」とだけ答えた。

「確かに一風変わったサプライズではあるけれど。でも司ちゃん、さすがにそれじゃあ泉ちゃんが悲しんじゃうから私たちだけで考えましょ」

 可愛らしい仕草とともにウインクを携えた嵐からの提案に安堵する。そうして結局はなんの役にも立たなかった凛月とレオを除いてその日の計画を練ったのだった。



 年に1度。自分が主役になれる日が年に1度だけやってくる。それは本人が望もうと望まなくともやって来るのだから仕方ない。
 どうせ教室入った瞬間守沢辺りが何かやって来るんだろうし。全く……チョ〜うざい。
 そんなことを考えながら泉は「おはよぉ」と教室のドアを開けた。

パン、パンパン!

 大きな音とともに泉に向けて放たれたそれは良くあるクラッカーで、飾りテープであったり、紙吹雪であったりが勢い良く顔に当たり、掛かる。

「瀬名!生まれてきてくれてありがとう!誕生日おめでとう!」
「ちょ!?いきなり何なのぉ!?チョ〜うざいんだけど!いいから離れろ!」

 盛大な言葉とともに抱きついてきた千秋を剥がそうとするが、「照れるな照れるな、このツンデレさんめっ」と妙なテンションについて行けず、中々力が入らない。

「ほらほら、もりっち離れてあげないとそろそろせなっちが爆発寸前だから」
「爆発!?瀬名、爆発するのか!?爆弾だったのか!!?」

 大袈裟に驚くその姿は最早天然なのか、わざとかは分からないが、火に油とは正にこのことで。

「あぁもう!鬱陶しい!うるさい!一体何なの!?あんたは俺を祝いたいのか怒らせたいのかどっちな訳え!?」
「勿論、祝いたい気持ち100%に決まっているだろう!」

 キラキラとした目に泉は黙るしかなかった。千秋の場合は天然100%だ。
 ふぅ、とひと息つき、未だギャーギャーと騒ぎ立てる千秋を無視し、泉の机に向かうと今度は別方向からやってきた。

「ふふ、瀬名くん、誕生日おめでとう。こうしてクラスメイトの誕生日を祝えることを嬉しく思うよ」

 腕を組みながらどこか上から目線の英智に向け「どうも」と言うと、「はいこれ」と小さな袋を渡される。

「何これ」
「瀬名くんの誕生日だからね。君の喜ぶものだよ」

 意味深長にクスリと微笑むと何も言わないまま微動だにしない。どうやら開けてくれるのを待っているようだった。
 あまり良い予感がしないまま袋を開けると無駄に装丁が豪華なカードファイルのようなものが入っていた。

「ファイルなんて使う機会あんまりないけ……」

 一応袋から出してファイルの中身を確認すると、泉の動きがそこで止まった。

「何、これ……」
「言っただろう?君の誕生日だ。君の喜ぶものだと」

 英智が泉に渡したものは、写真を一枚ずつ収納する小さなアルバムだったのだが、そこには泉が日頃から愛を一方通行に伝えている真のオフショットがずらりと入れられていた。
 カメラに向けピースをする真、Trickstarのメンバーと練習をしている真、お昼休みにみんなでご飯を食べている真、どれも泉の前では中々しない顔をした真がそこにいた。

「ふふ、我らのプロデューサーに無理を言ってね、遊木くんの写真を集めてもらったんだよ。遊木くんには、カメラに慣れて貰う練習のため、とか言って誤魔化してたみたいだけど」

 英智が何かを言っているようだが、最早泉に聞こえていなかった。目に映るは真のオフ姿ばかりで、天にも昇る思いとはこのことを言うのだろうというくらいの充福感だった。

「何々?天祥院くんせなっちに何あげたの?」

 珍しい組み合わせの2人が騒いでいるからか、泉の机に駆けつけ覗き込もうとする薫の顔をガッと掴む。

「いたた、いた、せなっち痛いんだけど!?」
「ゆうくんの顔は誰にも拝ませないよぉ!?」
「ちょ、ちょっと、目が。目がマジなんだけど!?俺なんかした!?」

 こういったプレゼントを貰えるなら誕生日も悪くない。



 授業も終わり放課後、泉はKnightsのメンバーが集うスタジオへと足を向けていた。
 あの後も散々千秋や薫、斑などに絡まれ、一生分のありがとうを言った気分だ。昼休み辺りにレオや司などが来るかとも思っていたが、全く来る気配はなく、恐らくはレッスンの時にでも何かをしでかすつもりなのだろうと泉はふんでいた。
 千秋たちの相手をしていたら少しスタジオに向かうのが遅くなってしまったが、今日くらいは大丈夫だろう。そう思いながらスタジオへの扉を開けた。

「ふぅ、遅れちゃってごめん」
「あ、遅いぞセナ-!もう集合時間過ぎてるぞ」

 詫びとともにスタジオへと入ると練習着に着替え、準備体操をしているメンバーの姿に戸惑いを隠せず、「え、あ、ごめん」と何とも普段では言わないような謝罪を口にしてしまう。何より、練習時間にきっちりと合わせて来るレオに戸惑いが大きかった。

「まぁ良いけど。セナが遅刻なんて珍しいな!?今日は雨か!?」
「王さま、残念ながら今日はずっと晴れだよぉ……。ふわぁふ、眠たいから早く練習しようよ」

 凛月すらも寝ようともせず練習着に着替え、すでに練習態勢だ。普段ならば手放しで喜べるところだが、どうも違和感が拭えず、戸惑いながらも泉は練習着に着替え、練習に参加した。



「ストップ。セナ、またワンテンポズレてるぞ」
 レオに指摘され、自分が集中していないことに気付き、「ごめん……」と口にする。
 レッスン室に入ってからというものの、まだ誰にも祝いの言葉をもらっていない。もしかして忘れられているのではないだろうか、そもそも今日のよく分からない雰囲気のまま始まったレッスンに違和感が拭い切れていない。

「どうしたセナ?今日何度目だ?集中できないなら帰っ、」

 帰っても良いんだぞ、そう言いかけたレオの口を咄嗟に塞いだのは嵐と司で後輩に心配を掛けさせていることに酷く自己嫌悪した。レオのことである。もしかしたら帰ってくれ、かもしれなかったその言葉を最後まで聞けなくて本当良かったと思う。
 まさか自分の誕生日を祝われなかっただけでこんなに心が掻き乱されるとは泉自身思ってもいなかった。レオとの関係はユニットを組む前からあったものだが、他の3人は違う。やるべき事はやるがユニットに固執しない、それがKnightsの売りであり、それくらいの関係が泉にとっても、居心地の良い関係だったハズだ。それが何だ?自分の誕生日をそっちのけでレッスンをしている、ただそれだけでモヤモヤし、レオに指摘されるほどに集中力を欠いている。
 俺らしくもない。

「ねぇ」
「なァに、泉ちゃん!」
「今日って……、いや、やっぱ何でも無い。練習続けよう。ちゃんとやるから」

 レオに指摘された泉を気遣ってか、妙に慌てた様子の嵐に頭を振ると嵐は困ったような顔をしていた。

「それじゃ、今日はここまでだな。各自出来なかったとこ練習しとけよ」

 レオのまとめとともに今日のレッスンが終わる。「お疲れ様」という各々の言葉とともにクールダウンが始まると皆、いつものように自分のペースでワイのワイのとおこなっている。その後に何か始まりそうな雰囲気はない。
 あの後は気持ちが少し切り替えれたのか、大きなミスもなくレッスンを終えたが、こうして終わってみるとまた陰鬱な気持ちが戻ってくる。
 帰ろう。
 さっさとクールダウンを終わらせ、身支度をする。

「今日はごめん。ちゃんと気持ち切り替えてくるから。今日は先に帰るね」

 そう言い残し、泉はスタジオを後にした。
 自分の誕生日など、他のメンバーにとってはどうでも良いことだったのだ。Knightsはそもそもそういったユニットだ。ユニットで何かをすることのほうが珍しく、らしくない。少し浮かれていた自分が馬鹿だったのだ。
 レッスンが始まってから何度目かのため息をつきながら泉は帰路についた。


 家に着こうかとした少し前だった。泉の横をやけに高級なリムジン車が通った。こんなところにリムジン?と不思議には思ったが、思ったのはその一瞬で、考えることは今日のレッスンの反省ばかりだ。
 そのことに集中していたからか、泉は家の前に先程のリムジン車が止まっていることにその声が聞こえるまで全く気付かなかった。

「Leaderぁぁぁ!?早く!Hurry up!早く出て下さい!このままだと瀬名先輩が家に着いてしまいます!」
「わはははは!待て待てスオ〜!今良いところ、俺の中のセナとリッツが良い感じに戦ってるだから!」
「なっにっを、訳の分からないことを言っているんですか!? そもそも今日だってLeaderが、」
「あ、セナ」
「え?」

 その間抜けな声と掛け合いに泉自身、「は?」とついつい声が出てしまう。リムジンのほうを見ると、五線譜にひたすらペンを滑らせ、車から出ようとしないレオをひたすら押して出そうとしている司の姿があった。

「せせせせせ瀬名先輩!? お早いお帰りですね!……Leaderは良いから早く出て!」
「……人の家の前で何してるのぉ?」

 レオを押し出し、そのまま転げる勢いで車内から解放された司を見下ろすと、しどろもどろと目を逸らしている。レオはレオで押し出されたままも五線譜にひたすらペンを滑らせているのだから最早感心しかない。

「こ、これはそのう……、Leaderとお散歩を……?」
「人の家の前にそんな高級な車止めてそんなわけないでしょぉ?良いから何してるの、て聞いてる、」
「あー、やっぱりセッちゃんだ。帰ってきちゃったんだねぇー……」

 言い終わるや否や、今度は凛月が泉の家から出てくるのだから、またもや泉は「は?」としか言えなかった。

「3人とも家の前で騒がしくしすぎ」
「いやいやいや、おかしいでしょ。どう見てもこの状況おかしいでしょ」
「ふふふ、セッちゃんおかえりぃ。もう準備もバッチリだから早く上がりなよ」
「なんであんたが我が物顔で俺の家に上がらせるわけぇ!?」

 玄関を開いてどうぞ、とする凛月の姿に泉は突っ込むしかなかった。



「ちょっとママ!?これどういうことぉ!?」

 家に入るなり最早叫びながら泉は部屋へと入っていく。本来の予定では泉を家で待ち構えている算段だったのだが、思いの外早く帰ってきたため、泣く泣くの予定変更だ。

「ママって言った」
「ママって言ったな!」
「ママって言ったわねェ」
「先輩方、思っても口に出したら駄目ですよ。私も思いましたが」

 心に留めたツッコミを3種3様の形で出されたので苦笑しかない。リビングのほうからは泉の「何これぇ!?」という盛大な驚きが聞こえたので、廊下で立ち止まっていた司たちはリビングへと向かった。

「ちょっと、どういうことか説明しなよねぇ!人の家で何してるわけ、」

 パン!パンパンッ!

 あわててリビングへと入ってきた司たちのほうに向いた瞬間、泉に向けクラッカーを打つと、ビックリした顔の泉の姿。頭には紙吹雪や飾りテープが乗っている。

「瀬名先輩、お誕生日おめでとうございます」
「おめでとう、セッちゃん」
「わはははは!セナ、おめでとう!」
「おめでとう、泉ちゃん」

 各々が好き勝手に祝いの言葉を告げると、今日何度目か分からない泉の「は?」という声が聞こえた。



「なんだ、セナ?今日自分の誕生日だって知らなかったのか?」
「いや……、むしろ知らなかったのはあんたたちじゃなかったの……?」
「ほら、Leaderが帰れ!なんて言いそうになるからですよ!」
「あたしもさすがにあの時はびっくりしちゃったわァ」
「悪い悪い、レッスンに集中してたら、気付いたら忘れてたんだよな!」
「ふふ、俺としてはセッちゃんのワタワタしたり、戸惑ったり、ソワソワしたりしてた顔が見れてすんごく面白かったけどねぇ……」

 わいのわいのと騒いでいるKnightsのメンバーにさすがの泉も状況を把握することが出来ず、開いた口が塞がらないとはこのことだ。

「ちょっと、ねぇ、ちょっと。いい加減この状況を説明してくれるかなぁ、かさくん」
「ひっ!?瀬名先輩!?笑顔が、顔がまるで般若みたいです!私たちはIdleですよ!!?」

 般若とは中々言ってくれる。誰のせいでこんな顔になってんだろうねぇ。
 良いから早く、と急かすと怖ず怖ずと司は口を開いた。

「はつ、発案者は凛月先輩なのですよ……?」
「ちょっと、スーちゃん。簡単に俺売っちゃわないでよ」

 いや、でも、としどろもどろになる司に「くまくんは黙ってて」と一蹴。「ちぇー」と聞こえたが無視。

「先輩方に、瀬名先輩の誕生日に一風変わったSurpriseは出来ないか、と相談したところ、敢えて誕生日に誕生日を祝わないSurpriseなんてどう、と。さすがにそれでは瀬名先輩に申し訳ないので、帰ってビックリ作戦はどうかと鳴上先輩と打ち合わせをし、Lessonをしている間にCateringを瀬名先輩のお家へと届けさせて頂きました」
「ちゃあんと、ご家族の方にも了承を取ったのよォ」
「はぁぁぁ!?何それぇ。ほんっとうに意味分かんないんだけどぉ!」
「でもセッちゃん、一風変わったサプライズになったでしょ?」

 したり顔の凛月に腹が立ち、「そんな訳ないでしょぉ!」とつい声を荒げてしまう。
 なんだ、誕生日に誕生日を祝わないサプライズって。いや、祝われたいとか思ってないけど。

「セナ、誕生日だってのに怒ってるんだなっ!あぁ、今なら良い曲書けそう!」
「だっれのせいだと思ってんの!?」

 ニヤつくレオの顔が妙に苛立ったので、ほっぺたをぎゅっと両手でつまむと、「いはい、いはいぞ、へな!」と笑いながら言うレオにまた余計に苛立ちを覚えてしまう。

「まぁまぁ泉ちゃん、ご飯も冷めちゃうし、早く食べちゃいましょ」
「ケーキは俺が腕によりをかけて用意したんだから、楽しみにしててよねぇ」

 しかし、わいのわいのと騒ぐKnightsのメンバーに呆れながらも、妙に清々しい気分だ。何でかは考えないことにする。

「ふふ、セッちゃん、何か嬉しいことでもあったのぉ?珍しく顔に締まりが無いよぉ」
「べっつにぃ?くまくんの気のせいなんじゃないの。……まぁ、ありがと」
「セッちゃん、ボソボソと言いすぎて最後なんて言ってるか分かんないよぉ」

 ニヤニヤとする凛月の顔は絶対に分かっている顔だ。

「俺からはさっきできたセナに捧げる歌があるからな!」

 腕を腰に当て、自慢げな顔でそう告げたレオはもうすでに鼻歌混じりだ。

「瀬名先輩!早くしないと本当に食べちゃいますよ!……何はともあれ、無事にSurpriseが成功して良かったです。いつもありがとうございます、瀬名先輩」
「末っ子が素直すぎて気持ち悪いんだけどぉ。まぁ……、ありがとう。かさくん」

 年に1度。自分が主役になれる日が年に1度だけやってくる。それは本人が望もうと望まなくともやって来るのだから仕方ない。でも、Knightsの皆となら主役になれるのも全く悪くない。
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