君と奏でる音楽。
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嵐とレオの関係はそんなに深くない。レオが不登校になる前にレオと会ったのだって、ライブで数回くらいだ。今とは違い、憔悴しきっていたレオは気軽に話しかけられるような存在ではなかった。ピリピリとした空気に当てられるのも嫌だった。なのでレオが学院に復学してこうして付き合ってみると、破天荒なところは変わらずだが、空気が柔らかくなったな、と感じる。
千加との関係なんてもっとない。初めて泉に誘われ、凛月と初めて会ったあの練習の時に恐らく居たはず、それくらいの認識だ。それも今となっては、というだけで千加が戻ってきたときにはそんなことすっかり忘れていた。その時、凛月と千加は顔見知りのような反応をしていたが、嵐はその時が初対面で、向こうも別段話す気もなかったので会話もなかった。
なのでこうして彼らの関係性を知るのもレオが戻り、千加が戻ってからだった。
ある日突然、千加はやってきた。Knightsのユニット練習があるからとすっかり根城になっているスタジオに集合し、練習を始めようとしたときノックも無しに扉が開いた。
そうして入ってきた千加は「見学させてもらうから」とそれだけを言い、本当に壁に身体を預けて最初から最後まで何も言わずにKnightsのユニット練習風景を見ていた。それは何かを観察するようでもあり、何かを見極めているようでもあった。
しかし、泉を見る顔、Knights全体を見る顔、司を見る顔、そして……。
「あれはぜぇーーーったい、恋する顔よォ!」
「はぁ?何突然。頭湧いてんの?」
「やだっ!泉ちゃんたら、そんな言葉いつ覚えちゃったのよォ」
今日も今日とてユニット練習日だったが、スタジオに集まっているのはまだ泉と嵐だけだった。そこで嵐は最近気になっていることを考えているうちについつい言葉として出てしまったようだ。
嵐の横で雑誌を読む泉はページを捲りながら、あくまで顔は雑誌のほうに向けたままだ。
「それで?何の話なの」
「んもう、何だかんだ気になっちゃってるんだから、泉ちゃんたら。素直じゃないわねェ」
何だかんだと話に聞く耳をもってくれる泉の分かりづらい優しさ。もう少し素直になれば周りも泉という存在を勘違いしないと思うのだが。
「はぁ?別に聞かなくて良いなら聞く気ないんだけどぉ」
「ウフフ、仕方ないから教えてあげるわァ。市姫先輩の、王さまに対する気持ちよォ!乙女の勘が告げてるわァ。あれはぜぇーーーったい恋する顔よォ」
言い終わるや否や、「バカなんじゃないの?」とでもくるかと思ったが、泉は眉間にしわを寄せながらジッと嵐の顔を見ていた。
「泉ちゃん……?」
不安に思い、声を掛けると「はぁあ」と盛大な溜息。
「バカなんじゃないのぉ?そもそもあんた乙女でもないし。第一、男同士でそれはないでしょ」
「あらっ!恋に男同士も女同士も関係ないのよォ?現に泉ちゃんだって『ゆうくん』にはそんな顔してるじゃない」
「気安くゆうくんって呼ばないでくれるかなぁ?それと、俺のゆうくんに対する気持ちは親愛だから。だからってLOVEなわけないでしょ。家族に向けるそれと一緒だと思うんだけど。俺は『お兄ちゃん』だしねぇ」
無自覚はこれだから怖い。
だが、確かに泉の真に対する気持ちは行き過ぎているとは言えLOVEとは違う気もする。
「アタシは市姫先輩との付き合いはそんなに長くないけれど、泉ちゃんだったら分かってくれると思ったのに。市姫先輩が引きこもる前から王さまと3人で仲良くしてたんでしょ?それとももしかして、泉ちゃんが市姫先輩のこと好きだったりするのかしら!」
それはそれで面白い、とちょっとした思いつきで冗談のつもりだったのだが、泉のほうを見やると「あんた殺すよ?」とでも言いかねない顔。
「冗談でもやめてくれる?……はぁ、仲良くなんてしてないんだけど。ただの腐れ縁」
「ウフフ、腐れ縁、ねェ」
「ちょっと、何が言いたいわけぇー?なるくん」
不機嫌になり始めた泉に「いーえ、別に」と返すと丁度司たちがやって来て、その話はなし崩し的に終わった。
「今日はミーティングするから勝手に帰るなよ」
珍しくレオから召集がかかった。何事かと思っていると、身支度を整えたレオから「集合〜!」と声が掛かる。
「お前ら、ライブやるぞ〜!ライブ!」
「ちょっといきなり何。ちゃんと物事は順序立てて話してよねぇ」
突然の発言に泉も不機嫌そうだ。
それにしてもライブとは。丁度ハロウィンも終わり、今日はハロウィンライブの反省会だったのだが、次はクリスマスに向けたスタフェスを待つのみだと思っていた。あんずがどこからか持ってきたのだろうか。
「なんだ、セナ?いきなり答えを求めるのなんてつまらないだろ。考えを膨らませろよ!そうして生まれた答えに新しい音楽が隠れているかもしれないだろ。わはは!世界は音楽で溢れてるな」
「今はそういうの良いから。早く言いなよねぇ」
「ちぇー。相変わらず真面目やつだな。……えーっと、なんだったっけ?」
「はぁ?俺が知るわけないでしょ」
「あ、待って待って。忘れたところは憶測するから」
レオらしい回答に一同肩から崩れそうになる。見かねた凛月が眠たそうに欠伸をしながら口を開いた。
「王さま、いつ、誰からその話もらったの?あんず?」
「いや、今日ヒメからだ。お、そっかそっか!思い出した!教会でライブして欲しいらしくて」
「なんで教会でライブなの。ていうかひめくんがなんでそんな話持ってくるわけ?」
「えぇーっと……?わははは!忘れた!」
肝心なところを忘れているレオに今度こそ一同は崩れ落ちた。これではらちがあかないと感じ取った泉がどこかへと電話をかけ始める。恐らくは千加の元だろう。
先ほどから黙り込んでいる司のほうを見やると、難しい顔をしていた。
「あら、司ちゃん……?どうかしたのかしら。眉間にしわが寄っちゃってるわよォ」
「鳴上先輩……。いえ、なんて言うことはありません。ご指摘ありがとうございます」
嘘がヘタな後輩は眉を垂れ下げながら困ったように笑った。
「良いから、思ったことがあるなら言っちゃったほうが楽になるわよ?」
「いえ、本当にどうということはないのですが、その……」
いつもよりも歯切れが悪い司に「その?」と投げかける。
「……どうやら私はあの方が苦手みたいでして……。ですが、仕事である以上はきちんと全う致しますので安心してください」
あの方、とは先ほど話題に出て来た千加のことだろう。弱々しく笑う司に確かに、と嵐はここ数日のことを思い返していた。
Knightsのユニット練習をたまに見に来る千加だが、その目は何かを見定めているようでもあり、見守っているようでもあった。
特に司に対してはジッと見つめてはレッスン後に一言二言交わしている。その内容までは把握していないが、司の態度からすると良い話ではなさそうだ。
「あらやだ、司ちゃんもなの?実はアタシも少し苦手なのよねェ」
「……鳴上先輩もですか?」
「とは言ってもアタシの場合はどんな人かまだ分からなくて、ていうほうが強いんだけどね」
味方が居たからか、司は先ほどより少し安堵していた。
そんな話をしているとガチャリとドアが開く音がした。千加にはドアをノックする、という概念がないのだろうか。ドアが開けられるときは決まって突然だ。
「邪魔するよ。突然呼び出すとか何、瀬名泉。こっちも暇じゃないんだけど」
「何、その言い草。こっちはあんたが持ってきた話で困ってるんだけど」
入ってくるなり早々に悪態をつく千加だったが、泉はその扱いにも慣れたもので、あしらい方もうまかった。レオはと言えば、「おお!ヒメ、あんずうっちゅ〜」と決まりの挨拶。どうやら、千加だけではなく、あんずもともについてきていることに嵐はそこで気付いた。
「はいはい、うっちゅ〜。まぁ、レオからだと話3割だと思ってたから呼び出されることは想定してたけど」
「だったら、最初っからあんたが来なよねぇ」
「レオが大丈夫だ、任せろ!て言うから任せただけ」
どこまでも憮然な態度で「文句があるならそっちに言って」と言う千加に対してレオは「お前たち本当に仲良いよな!」と見当外れな会話。
「鳴上先輩……、あれは仲がよろしいのでしょうか……?」
「うぅん、あの3人本当に良く分からないわねェ」
嵐も困り顔をするしかなかった。
「それで?どういう話なわけ」
「あぁ、今日、朔間零から、」
「俺はパ〜ス」
凛月が嫌いとする零の名前が出た瞬間、すかさず凛月が反応する。
「はぁ?なに」
「兄者からのお願いとか本当、願い下げなんだけど」
怪訝な顔をする千加をばっさりと切りつける凛月の言葉。
「あんたが嫌だろうと何だろうとリーダーの決定は絶対だろ。それに、朔間零から受けた俺からのお願いだから、これ」
何も言わずにじっと千加を見つめる凛月に対し、「それなら文句ないだろ」と一蹴。そんな千加に対して「本当に最悪」と嘆く凛月の声が聞こえた。
「それで。話を元に戻すけど、どうやら朔間零が知人から教会の横の広場で行われるちょっとした祭りでライブをして欲しい、て言われたらしくてさ。朔間零のユニット的に教会でライブは合わないからどうしたものかと考えた結果、リハビリとしてどうか、とこっちに話が来ちゃってさ。余計なお世話だったんだけどまぁ、なし崩し的に」
妙に歯切れが悪く終わった話に何かがあったことが匂う。
「それでなんでこっちに話が回ってくるわけ?」
「2ユニットくらいの出演が向こうさんの希望らしくて。あんたのとこならコンセプト騎士だし、教会でのライブでも問題ないだろ、と思ってレオに相談したら2つ返事で了承もらった、てとこ」
千加からの説明が終わるや否や、「ちょっと王さま……?」と泉の静かに怒る声。
「あんたさぁ、何勝手に物事決めちゃってんの!」
「だってライブだぞ!?やらない手はないだろ〜」
「それにしたってせめて相談くらいはしなよねぇ!だいたいくまくんはどうするの」
「リッツ?リッツがどうかしたか?あ、待って!今考えるから!」
レオ同様、凛月に何かあっただろうかと考えてみるが、思い当たる節がない。零との絡みくらいだろうかも思ったが、それはどうとでもなる。泉も珍しく言い倦ねているようで益々想像がつかなかった。
「……セッちゃん、もしかして俺が吸血鬼なの心配してくれてるの?」
凛月がキョトンとした顔で泉を見る。カアッと少し顔を赤らめているところを見るとどうやら正解のようだ。
確かに吸血鬼と教会の組み合わせは中々ない。どちらかというとあまり良くない組み合わせの部類だろう。
「瀬名先輩……?さすがに凛月先輩も教会は大丈夫だと思いますよ?」
凛月をただの眠たがりで吸血鬼の話を冗談だと信じている司は「うるさいよ、クソガキ」と何故か当たられる始末。当然嵐もそんな心配は一切無かったのだが、泉は一応心配したようだ。本人も何バカなことを、と思っているのだろう、先程からずっと顔が赤い。横からは「理不尽です」と呟く声が聞こえてついつい苦笑いになってしまう。
「ふふふ、ありがとうセッちゃん。まぁ、大丈夫なんじゃないかなぁ。やるのはあくまでも広場のほうなんだろうし。それよりも陽の下、のほうが俺的には最悪なんだけど」
確かに陽に弱い凛月にとってはそっちのほうが深刻な問題だろう。
「良くは分かんないけど話はまとまった?ということでライブするから。内容はまぁ、あんずと考えてるところだからちょっと待ってて。本当なら企画書作って明日来るつもりだったんだけど」
「何?あんたとあんずだけでライブ構想してるわけ?こっちにも相談とかしなよ」
Knights側に相談がない、ということに泉が反応する。
「朔間零から貰った案件とは言え、あんたたちは完璧に俺が巻き込んだだけだし、内容を纏めてから持ってくる、ていうのが筋だろ。あんたたちの実力は大体分かったし、無茶な企画書は作らないから安心して」
千加から出た発言は嵐の中のイメージとは違う回答で、それでも引かない泉と千加のやりとりを背景に今までを思い返す。
「ねェ司ちゃん……?前、市姫先輩が来てたとき、レッスン終わりに何か言われてるようだったけど、あれは何を言われてたのかしら?」
「えっ……。あの時ですか?あれはその……」
誰だって叱られたときのことを言うのは憚られるものだろう。それでも無言で待っていると観念したかのように司はその重たそうな口を開いた。
◇
「ねぇ。どう見てもやっぱりあんたが1番この中で未熟だよね。追いつきたい、追いつきたいけど敵わない、ていうのが見て分かる。1歩後ろに下がってさ。未熟だから?先輩方には取るに足らない自分だから?そんなのでKnightsだなんて聞いて呆れるね。そんなだったら俺があんたのポジション奪おうか?ブランクあってもあんたよりはそのポジション全うできると思うけど」
全体合わせが終わった後、千加は一目散に司の元へ来て矢継ぎ早にそう告げた。千加の当たらずとも間違っていない指摘につい口をつぐむ。ただただ悔しくて千加を見つめることしかできなかった。
「……そんな顔できんじゃん。はっ、闘争心丸出しでさ。お利口な坊っちゃんじゃない顔。あんた、どっか武道の名家の坊っちゃんなんだろ?それくらいの気概のほうがKnightsらしくて良いんじゃないの。あんたたちがファンの子達を大切にするユニットであることも、あんたの末っ子的なポジションもここ数日で理解できたけどさ、せめて練習の時くらいはさ周りに飲まれないそのくらいの顔すべきだと思うけど。
……それと。あんたがいつも躓いているとこのステップ。あの動き方はどうせレオが考えたんだろうけどさ、あんたの動きの癖的には難しいんじゃないの。あんたの動きを見る限りはこっちのほうが良いと思うけど」
そう言ってステップを踏んだ千加を見て正直驚いた。絶対に嫌われていると思った。練習中も司のほうをじっと見ていることは知っていたし、その顔がいい顔でないことも知っていた。だからこそ、罵られこそすれど、まさかアドバイスを貰えるなんて思ってもいなかった。しかも千加が踏んだステップは確かに司に合っている動きで、これならば少し練習すれば周りに遜色ない動きには仕上がりそうだった。
「ちょっと。聞いてんの?」
何も言わない司に業を煮やしたのか、しかめ面で問うてきた千加に司は「ありがとうございます」と素直にお礼を言った。
◇
「だからでしょうか。私はあの方は苦手ではあるのですが、不思議と嫌いではないのです」
困ったように笑う司を見ながら嵐は自身の中で千加の印象を書き換えていた。
そりゃあ泉ちゃんと気が合うはずだわァ。要は似たもの同士、てことじゃない。
「うふふ、司ちゃん、ごめんなさいねェ。アタシも苦手、て言っちゃったけど思ったより好きになれそうよ」
「えぇ!?そんな、鳴上先輩!」
裏切られた、という司の顔を横目に、未だに何かを言い合っている泉と千加の元へと行き、2人をなだめた。突然何、と怪訝な顔を千加にされるが今はあまりその顔も怖くない。
「あら、まだ市姫先輩だけなの?」
教会でのライブを控え、今日は千加とKnightsの合同練習の日だった。
放課後にレッスン室に向かうとそこにはまだ千加の姿しか見えない。練習着に着替え、軽く柔軟を始めている姿を見るとやる気は満々のようだ。練習の時ですらパーカーを被るその姿によほど何かコンプレックスを抱えているのかと思っていたが、練習の時に見えたその顔は、特に素顔がどうということはない。むしろ綺麗な顔の部類と言っても過言ではない。
じっと千加のほうを見ていたからか、怪訝な顔で「何?」と言われてしまった。
「王さまとは一緒に来なかったのねェ?」
「レオなら朝から見てないけど。そもそも今日学院来てんのかすら不明」
そう言って千加は「はぁあ」とため息をついた。その仕草一つ一つはやはり、綺麗と言っても過言ではない。
「……だから何?あんたさっきからこっち見すぎ」
「あら、ごめんなさいねェ。せっかくだから市姫先輩と仲良くなりたいわァ、と思っちゃって。そうだわ、これを機に千加ちゃんって呼んでも良いかしら!」
嵐がその場で服を着替え始める一方、千加は脚を広げ前屈する体操を始める。
「……はぁ?何突然。湧いてんの?」
「やだ、その言い方、千加ちゃんからだったのォ?泉ちゃんたら口が悪くなっちゃって、て思ってたのよ」
「呼び方許可した覚えないんだけど」
ナチュラルに千加と呼んだことに反応される。
「でもいやだ、とも言われてないわよ」
「はぁ……。まぁ呼び方くらい何でも良いけど」
「ウフフ、よろしくね、千加ちゃん」
そう言ってウインクを飛ばすと「素でウインクしてくるやつ初めて見た」と呆れ顔。
「ていうかあんたら集まるの基本緩くない?放課後にすぐ集まってる記憶がないんだけど」
「そこら辺はアタシたち緩いのよねェ。特に凛月ちゃんと王さまがね、どうしても。そもそもKnightsは個々を大事にするユニットだから、こんなに集まるようになったのもそれこそ王さまが戻ってきてからかしら」
「ふぅん。まぁ、だいぶあんたたちの内情も分かってきたけど」
千加は一通りの柔軟が終わったのか、鞄から楽譜を取り出しジッと見据える。その顔はやはり、レオを見る顔と同じだった。
「……ねェ、千加ちゃん」
頭の中で音楽が流れていたのだろう、ちょっと間が空いて「何?」と返ってくる。顔は楽譜に向けたままだ。
「千加ちゃんと王さまの関係ってどこまで進んでるのかしら?」
言うや否や、顔を赤くさせた千加が嵐のほうを振り向く。
「なっ!?どこまでも何もあるわけないだろ!」
「あらあらあら、泉ちゃんにも言ったけれど、恋に性別は関係ないのよォ?」
「はぁ!?レオに恋?はぁ?ないないない!鳴上嵐、あんた何言ってんの」
これまた無自覚とは。逆に嵐のほうが面食らってしまう。
「あら、違ったの?」
「おれはただ、レオが作る曲が好きで。……あいつが楽しそうに音楽と生きてる姿を見るのが好きなだけ」
無自覚に優しそうに笑う千加を見てつい微笑ましくなる。
その気持ちを恋と言うことに本人が気付いていない。これは前途多難そうだ。ましてやレオのあの性格だ。焦れったい、とはこのことだろう。
よくこんな2人を見守ってるわねェ。
こんな2人の傍にいる泉に軽く同情を覚えた。
「ふぅん。……そうだわ、千加ちゃん!」
両手を胸の前でパンッと叩きながら声を掛けるとまたもや怪訝そうに「何?」と聞かれる。
「今度あんずちゃんと3人で女子会しましょうよ!美味しいパフェでも食べながら。よくあんずちゃんと2人でやってるのよォ。どうかしら」
「つーか、女子1人しかいないし」
「あらやだ、アタシは心が女子だから良いのよ。ふふ、決まりね。やだ、すっごく楽しみになってきたわァ」
「いやだから、許可した覚えないんだけど」
「拒否された覚えもないわよ」
そうしてウインクをまた千加に向けると、「助けて瀬名泉」とポロッと呟くのが聞こえた。
千加との関係なんてもっとない。初めて泉に誘われ、凛月と初めて会ったあの練習の時に恐らく居たはず、それくらいの認識だ。それも今となっては、というだけで千加が戻ってきたときにはそんなことすっかり忘れていた。その時、凛月と千加は顔見知りのような反応をしていたが、嵐はその時が初対面で、向こうも別段話す気もなかったので会話もなかった。
なのでこうして彼らの関係性を知るのもレオが戻り、千加が戻ってからだった。
ある日突然、千加はやってきた。Knightsのユニット練習があるからとすっかり根城になっているスタジオに集合し、練習を始めようとしたときノックも無しに扉が開いた。
そうして入ってきた千加は「見学させてもらうから」とそれだけを言い、本当に壁に身体を預けて最初から最後まで何も言わずにKnightsのユニット練習風景を見ていた。それは何かを観察するようでもあり、何かを見極めているようでもあった。
しかし、泉を見る顔、Knights全体を見る顔、司を見る顔、そして……。
「あれはぜぇーーーったい、恋する顔よォ!」
「はぁ?何突然。頭湧いてんの?」
「やだっ!泉ちゃんたら、そんな言葉いつ覚えちゃったのよォ」
今日も今日とてユニット練習日だったが、スタジオに集まっているのはまだ泉と嵐だけだった。そこで嵐は最近気になっていることを考えているうちについつい言葉として出てしまったようだ。
嵐の横で雑誌を読む泉はページを捲りながら、あくまで顔は雑誌のほうに向けたままだ。
「それで?何の話なの」
「んもう、何だかんだ気になっちゃってるんだから、泉ちゃんたら。素直じゃないわねェ」
何だかんだと話に聞く耳をもってくれる泉の分かりづらい優しさ。もう少し素直になれば周りも泉という存在を勘違いしないと思うのだが。
「はぁ?別に聞かなくて良いなら聞く気ないんだけどぉ」
「ウフフ、仕方ないから教えてあげるわァ。市姫先輩の、王さまに対する気持ちよォ!乙女の勘が告げてるわァ。あれはぜぇーーーったい恋する顔よォ」
言い終わるや否や、「バカなんじゃないの?」とでもくるかと思ったが、泉は眉間にしわを寄せながらジッと嵐の顔を見ていた。
「泉ちゃん……?」
不安に思い、声を掛けると「はぁあ」と盛大な溜息。
「バカなんじゃないのぉ?そもそもあんた乙女でもないし。第一、男同士でそれはないでしょ」
「あらっ!恋に男同士も女同士も関係ないのよォ?現に泉ちゃんだって『ゆうくん』にはそんな顔してるじゃない」
「気安くゆうくんって呼ばないでくれるかなぁ?それと、俺のゆうくんに対する気持ちは親愛だから。だからってLOVEなわけないでしょ。家族に向けるそれと一緒だと思うんだけど。俺は『お兄ちゃん』だしねぇ」
無自覚はこれだから怖い。
だが、確かに泉の真に対する気持ちは行き過ぎているとは言えLOVEとは違う気もする。
「アタシは市姫先輩との付き合いはそんなに長くないけれど、泉ちゃんだったら分かってくれると思ったのに。市姫先輩が引きこもる前から王さまと3人で仲良くしてたんでしょ?それとももしかして、泉ちゃんが市姫先輩のこと好きだったりするのかしら!」
それはそれで面白い、とちょっとした思いつきで冗談のつもりだったのだが、泉のほうを見やると「あんた殺すよ?」とでも言いかねない顔。
「冗談でもやめてくれる?……はぁ、仲良くなんてしてないんだけど。ただの腐れ縁」
「ウフフ、腐れ縁、ねェ」
「ちょっと、何が言いたいわけぇー?なるくん」
不機嫌になり始めた泉に「いーえ、別に」と返すと丁度司たちがやって来て、その話はなし崩し的に終わった。
「今日はミーティングするから勝手に帰るなよ」
珍しくレオから召集がかかった。何事かと思っていると、身支度を整えたレオから「集合〜!」と声が掛かる。
「お前ら、ライブやるぞ〜!ライブ!」
「ちょっといきなり何。ちゃんと物事は順序立てて話してよねぇ」
突然の発言に泉も不機嫌そうだ。
それにしてもライブとは。丁度ハロウィンも終わり、今日はハロウィンライブの反省会だったのだが、次はクリスマスに向けたスタフェスを待つのみだと思っていた。あんずがどこからか持ってきたのだろうか。
「なんだ、セナ?いきなり答えを求めるのなんてつまらないだろ。考えを膨らませろよ!そうして生まれた答えに新しい音楽が隠れているかもしれないだろ。わはは!世界は音楽で溢れてるな」
「今はそういうの良いから。早く言いなよねぇ」
「ちぇー。相変わらず真面目やつだな。……えーっと、なんだったっけ?」
「はぁ?俺が知るわけないでしょ」
「あ、待って待って。忘れたところは憶測するから」
レオらしい回答に一同肩から崩れそうになる。見かねた凛月が眠たそうに欠伸をしながら口を開いた。
「王さま、いつ、誰からその話もらったの?あんず?」
「いや、今日ヒメからだ。お、そっかそっか!思い出した!教会でライブして欲しいらしくて」
「なんで教会でライブなの。ていうかひめくんがなんでそんな話持ってくるわけ?」
「えぇーっと……?わははは!忘れた!」
肝心なところを忘れているレオに今度こそ一同は崩れ落ちた。これではらちがあかないと感じ取った泉がどこかへと電話をかけ始める。恐らくは千加の元だろう。
先ほどから黙り込んでいる司のほうを見やると、難しい顔をしていた。
「あら、司ちゃん……?どうかしたのかしら。眉間にしわが寄っちゃってるわよォ」
「鳴上先輩……。いえ、なんて言うことはありません。ご指摘ありがとうございます」
嘘がヘタな後輩は眉を垂れ下げながら困ったように笑った。
「良いから、思ったことがあるなら言っちゃったほうが楽になるわよ?」
「いえ、本当にどうということはないのですが、その……」
いつもよりも歯切れが悪い司に「その?」と投げかける。
「……どうやら私はあの方が苦手みたいでして……。ですが、仕事である以上はきちんと全う致しますので安心してください」
あの方、とは先ほど話題に出て来た千加のことだろう。弱々しく笑う司に確かに、と嵐はここ数日のことを思い返していた。
Knightsのユニット練習をたまに見に来る千加だが、その目は何かを見定めているようでもあり、見守っているようでもあった。
特に司に対してはジッと見つめてはレッスン後に一言二言交わしている。その内容までは把握していないが、司の態度からすると良い話ではなさそうだ。
「あらやだ、司ちゃんもなの?実はアタシも少し苦手なのよねェ」
「……鳴上先輩もですか?」
「とは言ってもアタシの場合はどんな人かまだ分からなくて、ていうほうが強いんだけどね」
味方が居たからか、司は先ほどより少し安堵していた。
そんな話をしているとガチャリとドアが開く音がした。千加にはドアをノックする、という概念がないのだろうか。ドアが開けられるときは決まって突然だ。
「邪魔するよ。突然呼び出すとか何、瀬名泉。こっちも暇じゃないんだけど」
「何、その言い草。こっちはあんたが持ってきた話で困ってるんだけど」
入ってくるなり早々に悪態をつく千加だったが、泉はその扱いにも慣れたもので、あしらい方もうまかった。レオはと言えば、「おお!ヒメ、あんずうっちゅ〜」と決まりの挨拶。どうやら、千加だけではなく、あんずもともについてきていることに嵐はそこで気付いた。
「はいはい、うっちゅ〜。まぁ、レオからだと話3割だと思ってたから呼び出されることは想定してたけど」
「だったら、最初っからあんたが来なよねぇ」
「レオが大丈夫だ、任せろ!て言うから任せただけ」
どこまでも憮然な態度で「文句があるならそっちに言って」と言う千加に対してレオは「お前たち本当に仲良いよな!」と見当外れな会話。
「鳴上先輩……、あれは仲がよろしいのでしょうか……?」
「うぅん、あの3人本当に良く分からないわねェ」
嵐も困り顔をするしかなかった。
「それで?どういう話なわけ」
「あぁ、今日、朔間零から、」
「俺はパ〜ス」
凛月が嫌いとする零の名前が出た瞬間、すかさず凛月が反応する。
「はぁ?なに」
「兄者からのお願いとか本当、願い下げなんだけど」
怪訝な顔をする千加をばっさりと切りつける凛月の言葉。
「あんたが嫌だろうと何だろうとリーダーの決定は絶対だろ。それに、朔間零から受けた俺からのお願いだから、これ」
何も言わずにじっと千加を見つめる凛月に対し、「それなら文句ないだろ」と一蹴。そんな千加に対して「本当に最悪」と嘆く凛月の声が聞こえた。
「それで。話を元に戻すけど、どうやら朔間零が知人から教会の横の広場で行われるちょっとした祭りでライブをして欲しい、て言われたらしくてさ。朔間零のユニット的に教会でライブは合わないからどうしたものかと考えた結果、リハビリとしてどうか、とこっちに話が来ちゃってさ。余計なお世話だったんだけどまぁ、なし崩し的に」
妙に歯切れが悪く終わった話に何かがあったことが匂う。
「それでなんでこっちに話が回ってくるわけ?」
「2ユニットくらいの出演が向こうさんの希望らしくて。あんたのとこならコンセプト騎士だし、教会でのライブでも問題ないだろ、と思ってレオに相談したら2つ返事で了承もらった、てとこ」
千加からの説明が終わるや否や、「ちょっと王さま……?」と泉の静かに怒る声。
「あんたさぁ、何勝手に物事決めちゃってんの!」
「だってライブだぞ!?やらない手はないだろ〜」
「それにしたってせめて相談くらいはしなよねぇ!だいたいくまくんはどうするの」
「リッツ?リッツがどうかしたか?あ、待って!今考えるから!」
レオ同様、凛月に何かあっただろうかと考えてみるが、思い当たる節がない。零との絡みくらいだろうかも思ったが、それはどうとでもなる。泉も珍しく言い倦ねているようで益々想像がつかなかった。
「……セッちゃん、もしかして俺が吸血鬼なの心配してくれてるの?」
凛月がキョトンとした顔で泉を見る。カアッと少し顔を赤らめているところを見るとどうやら正解のようだ。
確かに吸血鬼と教会の組み合わせは中々ない。どちらかというとあまり良くない組み合わせの部類だろう。
「瀬名先輩……?さすがに凛月先輩も教会は大丈夫だと思いますよ?」
凛月をただの眠たがりで吸血鬼の話を冗談だと信じている司は「うるさいよ、クソガキ」と何故か当たられる始末。当然嵐もそんな心配は一切無かったのだが、泉は一応心配したようだ。本人も何バカなことを、と思っているのだろう、先程からずっと顔が赤い。横からは「理不尽です」と呟く声が聞こえてついつい苦笑いになってしまう。
「ふふふ、ありがとうセッちゃん。まぁ、大丈夫なんじゃないかなぁ。やるのはあくまでも広場のほうなんだろうし。それよりも陽の下、のほうが俺的には最悪なんだけど」
確かに陽に弱い凛月にとってはそっちのほうが深刻な問題だろう。
「良くは分かんないけど話はまとまった?ということでライブするから。内容はまぁ、あんずと考えてるところだからちょっと待ってて。本当なら企画書作って明日来るつもりだったんだけど」
「何?あんたとあんずだけでライブ構想してるわけ?こっちにも相談とかしなよ」
Knights側に相談がない、ということに泉が反応する。
「朔間零から貰った案件とは言え、あんたたちは完璧に俺が巻き込んだだけだし、内容を纏めてから持ってくる、ていうのが筋だろ。あんたたちの実力は大体分かったし、無茶な企画書は作らないから安心して」
千加から出た発言は嵐の中のイメージとは違う回答で、それでも引かない泉と千加のやりとりを背景に今までを思い返す。
「ねェ司ちゃん……?前、市姫先輩が来てたとき、レッスン終わりに何か言われてるようだったけど、あれは何を言われてたのかしら?」
「えっ……。あの時ですか?あれはその……」
誰だって叱られたときのことを言うのは憚られるものだろう。それでも無言で待っていると観念したかのように司はその重たそうな口を開いた。
◇
「ねぇ。どう見てもやっぱりあんたが1番この中で未熟だよね。追いつきたい、追いつきたいけど敵わない、ていうのが見て分かる。1歩後ろに下がってさ。未熟だから?先輩方には取るに足らない自分だから?そんなのでKnightsだなんて聞いて呆れるね。そんなだったら俺があんたのポジション奪おうか?ブランクあってもあんたよりはそのポジション全うできると思うけど」
全体合わせが終わった後、千加は一目散に司の元へ来て矢継ぎ早にそう告げた。千加の当たらずとも間違っていない指摘につい口をつぐむ。ただただ悔しくて千加を見つめることしかできなかった。
「……そんな顔できんじゃん。はっ、闘争心丸出しでさ。お利口な坊っちゃんじゃない顔。あんた、どっか武道の名家の坊っちゃんなんだろ?それくらいの気概のほうがKnightsらしくて良いんじゃないの。あんたたちがファンの子達を大切にするユニットであることも、あんたの末っ子的なポジションもここ数日で理解できたけどさ、せめて練習の時くらいはさ周りに飲まれないそのくらいの顔すべきだと思うけど。
……それと。あんたがいつも躓いているとこのステップ。あの動き方はどうせレオが考えたんだろうけどさ、あんたの動きの癖的には難しいんじゃないの。あんたの動きを見る限りはこっちのほうが良いと思うけど」
そう言ってステップを踏んだ千加を見て正直驚いた。絶対に嫌われていると思った。練習中も司のほうをじっと見ていることは知っていたし、その顔がいい顔でないことも知っていた。だからこそ、罵られこそすれど、まさかアドバイスを貰えるなんて思ってもいなかった。しかも千加が踏んだステップは確かに司に合っている動きで、これならば少し練習すれば周りに遜色ない動きには仕上がりそうだった。
「ちょっと。聞いてんの?」
何も言わない司に業を煮やしたのか、しかめ面で問うてきた千加に司は「ありがとうございます」と素直にお礼を言った。
◇
「だからでしょうか。私はあの方は苦手ではあるのですが、不思議と嫌いではないのです」
困ったように笑う司を見ながら嵐は自身の中で千加の印象を書き換えていた。
そりゃあ泉ちゃんと気が合うはずだわァ。要は似たもの同士、てことじゃない。
「うふふ、司ちゃん、ごめんなさいねェ。アタシも苦手、て言っちゃったけど思ったより好きになれそうよ」
「えぇ!?そんな、鳴上先輩!」
裏切られた、という司の顔を横目に、未だに何かを言い合っている泉と千加の元へと行き、2人をなだめた。突然何、と怪訝な顔を千加にされるが今はあまりその顔も怖くない。
「あら、まだ市姫先輩だけなの?」
教会でのライブを控え、今日は千加とKnightsの合同練習の日だった。
放課後にレッスン室に向かうとそこにはまだ千加の姿しか見えない。練習着に着替え、軽く柔軟を始めている姿を見るとやる気は満々のようだ。練習の時ですらパーカーを被るその姿によほど何かコンプレックスを抱えているのかと思っていたが、練習の時に見えたその顔は、特に素顔がどうということはない。むしろ綺麗な顔の部類と言っても過言ではない。
じっと千加のほうを見ていたからか、怪訝な顔で「何?」と言われてしまった。
「王さまとは一緒に来なかったのねェ?」
「レオなら朝から見てないけど。そもそも今日学院来てんのかすら不明」
そう言って千加は「はぁあ」とため息をついた。その仕草一つ一つはやはり、綺麗と言っても過言ではない。
「……だから何?あんたさっきからこっち見すぎ」
「あら、ごめんなさいねェ。せっかくだから市姫先輩と仲良くなりたいわァ、と思っちゃって。そうだわ、これを機に千加ちゃんって呼んでも良いかしら!」
嵐がその場で服を着替え始める一方、千加は脚を広げ前屈する体操を始める。
「……はぁ?何突然。湧いてんの?」
「やだ、その言い方、千加ちゃんからだったのォ?泉ちゃんたら口が悪くなっちゃって、て思ってたのよ」
「呼び方許可した覚えないんだけど」
ナチュラルに千加と呼んだことに反応される。
「でもいやだ、とも言われてないわよ」
「はぁ……。まぁ呼び方くらい何でも良いけど」
「ウフフ、よろしくね、千加ちゃん」
そう言ってウインクを飛ばすと「素でウインクしてくるやつ初めて見た」と呆れ顔。
「ていうかあんたら集まるの基本緩くない?放課後にすぐ集まってる記憶がないんだけど」
「そこら辺はアタシたち緩いのよねェ。特に凛月ちゃんと王さまがね、どうしても。そもそもKnightsは個々を大事にするユニットだから、こんなに集まるようになったのもそれこそ王さまが戻ってきてからかしら」
「ふぅん。まぁ、だいぶあんたたちの内情も分かってきたけど」
千加は一通りの柔軟が終わったのか、鞄から楽譜を取り出しジッと見据える。その顔はやはり、レオを見る顔と同じだった。
「……ねェ、千加ちゃん」
頭の中で音楽が流れていたのだろう、ちょっと間が空いて「何?」と返ってくる。顔は楽譜に向けたままだ。
「千加ちゃんと王さまの関係ってどこまで進んでるのかしら?」
言うや否や、顔を赤くさせた千加が嵐のほうを振り向く。
「なっ!?どこまでも何もあるわけないだろ!」
「あらあらあら、泉ちゃんにも言ったけれど、恋に性別は関係ないのよォ?」
「はぁ!?レオに恋?はぁ?ないないない!鳴上嵐、あんた何言ってんの」
これまた無自覚とは。逆に嵐のほうが面食らってしまう。
「あら、違ったの?」
「おれはただ、レオが作る曲が好きで。……あいつが楽しそうに音楽と生きてる姿を見るのが好きなだけ」
無自覚に優しそうに笑う千加を見てつい微笑ましくなる。
その気持ちを恋と言うことに本人が気付いていない。これは前途多難そうだ。ましてやレオのあの性格だ。焦れったい、とはこのことだろう。
よくこんな2人を見守ってるわねェ。
こんな2人の傍にいる泉に軽く同情を覚えた。
「ふぅん。……そうだわ、千加ちゃん!」
両手を胸の前でパンッと叩きながら声を掛けるとまたもや怪訝そうに「何?」と聞かれる。
「今度あんずちゃんと3人で女子会しましょうよ!美味しいパフェでも食べながら。よくあんずちゃんと2人でやってるのよォ。どうかしら」
「つーか、女子1人しかいないし」
「あらやだ、アタシは心が女子だから良いのよ。ふふ、決まりね。やだ、すっごく楽しみになってきたわァ」
「いやだから、許可した覚えないんだけど」
「拒否された覚えもないわよ」
そうしてウインクをまた千加に向けると、「助けて瀬名泉」とポロッと呟くのが聞こえた。