君と奏でる音楽。
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「丁度良いところで会った、市姫。貴様、放課後に生徒会室へ来い」
「はぁ?お断りします」
移動教室ということで、千加が廊下を歩いていると、目の前からやってきた夢ノ咲学院副会長、蓮巳敬人は端的にそう告げた。
「貴様に拒否権があると思うのか?」
眼鏡をクイッと持ち上げる動作に似合う動作だよな、と少し感心する。
「あんたにそんな強い行使権あんのかよ」
「何を言っている、俺は副会長だぞ」
まぁ、当然の回答で。はぁ、と自然にため息が漏れる。
「生徒会室とかこの学院内一、行きたくない場所なんだけど」
「安心しろ。今日、生徒会室に英智が来る予定はない」
千加の懸念点もしっかり把握している副会長はそう告げると、「必ず来い」とだけ告げてその場を去った。
全くもってこっちに拒否権なんてあるわけがなかった。
「邪魔するよ」
ノックもせずに部屋に入ると、机に座り、黙々と書類整理をする蓮巳敬人の姿があった。
なんというか、本当に高校生か、ていうくらい似合う姿だよなぁ。ヘタをすれば、アイドル姿より似合うんじゃないか?
「貴様な、せめてノックくらいはしろ」
「あんたが呼んだんだし、生徒会室に限っては礼儀は使いたくない」
「全く、度し難い」
千加の慇懃無礼な態度にふぅ、と蓮巳敬人のため息が聞こえた。高校生だと言うのにストレスを貯めすぎているんじゃなかろうか。
「それで?用件はなに。こんなところ、本当に1分1秒も長くいたくないんだけど」
その原因を作っている恐らくは奴の席だろう奥にある一際立派な机を睨みつける。
「貴様な……。まぁいい、市姫、」
蓮巳敬人の言葉を遮るように生徒会室のノックが聞こえたと思うと、「失礼しまーす」と赤髪の男子生徒がドアを開ける。ネクタイの色を見る限り2年生だ。
「すんません。ちょっとやり残した仕事があったんで、と思ったんですけど、もしかして取り込み中でした?」
蓮巳敬人だけだと思ったのだろう、客がいると分かった途端、居住まいを正し、慌てて出て行こうとする。
「いや、別にこいつと話している内容を聞かれたところで何の問題もない。貴様さえ良ければ気にせず仕事をしてくれてかまわんぞ、衣更」
衣更、と呼ばれたその生徒は会話内容的にどうやら、生徒会の人間のようだ。
ブレザーの内側にパーカーを着ているその装いは全然生徒会らしくない装いだけど。まぁ、この学院、校則とか諸々緩いところは緩いしな。
衣更と呼ばれた生徒は、蓮巳敬人から許可が降りると、「そんじゃ、すいません、お言葉に甘えます」といそいそと生徒会室に入ってきた。
「……あれ誰、蓮巳敬人」
純粋に気になったので疑問を問いかける。
「俺の後輩であり、有能な部下だ」
「ふーん。なぁ、名前は?どっかで見た気がするんだけど」
自分の席らしい場所に座った衣更と呼ばれた学生に近付くと、「貴様は絡むな」と過保護な副会長からお叱りの声。おかげさまで、千加の目の前の学生は「いやぁ、はは」と答えて良いのか困っている様子だ。
「名前は?って聞いてんだけど」
だが、そんなことを気にせずその学生の机をドンと強めに叩くと、蓮巳敬人から「備品に当たるな」と一言。突然強めに叩かれた机にビクッとするもその学生はどこか臆する様子は感じられない。
「全く、度し難い。衣更」
「あぁ、えーっと、俺は衣更真緒って言います。一応、Trickstarっていうユニットに所属してます」
名前を呼ばれたことで許可を得たのだろうと認識した学生は千加の圧に押されたのか、蓮巳敬人からの圧に押されたのか、たじろんだ様子で答えた。困ったように笑う顔。だが、決して臆した様子はなく、意外と肝は据わってるな、と千加は印象を書き換えた。蓮巳敬人はと言えば、「余計なことを……」と呟くばかり。
「衣更真緒、衣更真緒……。んー、分かんねぇや」
気のせいだったかな、と思いかけたところで、衣更真緒が「Trickstar」と答えたことに気付く。
「え?は?あんたTrickstarなの?Trickstarってことは何、蓮巳敬人あんた、生徒会の人間にまんまと寝首掻かれたわけ?だっさ」
「五月蝿い。だから貴様には知られたくなかったんだ」
蓮巳敬人は深いため息をつきながら、やれやれといった様子だ。千加にバレれば即絡まれると思っていたのだろう。全くもってその通りで。こんな面白いネタを使わない訳がない。
Trickstarと言えば、千加のにっくき天祥院英智率いるfineを倒し、革命を起こしたユニットだと瀬名泉から聞いた。2年生しかいない生意気なやつらばかり、とも言っていたっけ。一人、金髪の『ゆうくん』は別だと言っていたが、千加の目の前の男は赤髪なので違うだろう。あの瀬名泉が気持ち悪いくらいに溺愛をしている、と言っていたのはいつも眠たそうにしている朔間凛月の言葉。
まぁ、瀬名泉の嗜好なんぞ興味ないけど。男が好きだとは意外だった。
「へぇ。あんた、Trickstarの一員なんだ。生徒会に入ってぬけぬけと生徒会ユニットを倒してここにいる図太い神経してる、と。良いねぇ、そういうの好きだよ。蓮巳敬人、あんたは別に何も感じてないの?」
ニヤニヤと蓮巳敬人の顔を見ると「貴様には関係ない」と何事も無いかのように一蹴される。
大人だねぇ。
「ええっと!先輩は市姫先輩っすよね?つい最近、復学したとかって」
蓮巳敬人の機嫌を気にしたのか、慌てて話を変えようとする後輩を横目に見ながら、千加は「あぁ、そうだけど。市姫千加、よろしく」と答えた。
全く。良い後輩をお持ちで。
「先日もKnightsと対峙したジャッジメントライブに出てたとか!暫く休んでたのにあのKnightsと渡り合ったり、会長にも遅れを取ってないって聞いてどんな人かな、て思ってたんすよ」
あはははー、と乾いた笑い付きで話題変えに必死なのが伺えた。
「そりゃどーも。……あんた出来た後輩だな。そんな必死に話題変えなくても大丈夫だよ。こんな時でもないと蓮巳敬人を弄れないと思って深く突っ込んだだけだし」
なぁ、蓮巳敬人?と言ってやると、ふん、とどうも認めたくない様子がついおかしい。
衣更真緒は2人の距離感が分からないのか、どういった対応をすれば正解なのか思案している様子だった。
「いい加減にしろ。貴様がそうこうしていると、衣更も仕事ができんだろう。さっさと用件を告げてやる」
「あぁ、はいはい。何の用で呼んだの」
千加が聞く姿勢になると、蓮巳敬人は居住まいを正し、一息ついた。
「貴様、部活に入ってないだろう」
「は?いや、まあ不登校になる前は入ってなかったな。必須じゃなかったし」
なんの話かと思えば、部活の話とは。
「我が夢ノ咲学院は部活入部は絶対条件となった。貴様が休んでいる間にな。と言うことでだ、貴様も部活に入れ」
「はぁ?聞いてないけど」
「聞こうが聞くまいがそれが校則だ」
「つーか俺、高3だよ?しかももう秋。今更じゃない?」
「貴様が何を喚こうが、校則は校則だ。例外は認めん。貴様が将来どうなるか知らんが、これは将来的な成績、内申点にも関わる。入っておいて損はないだろう。いいか、3日猶予をやる。その間に決めろ。むしろ3日も猶予を作ったことを光栄に思って欲しいくらいだな」
「とは言っても、今どこに何部が活動してるかなんて俺知らないし」
本当に頭が固いな、蓮巳敬人。とは言え、現部活動がどんなものがあるかなんて本当に分からない。
どうしたもんかと思案していると、困ったように突っ立っている真緒と目がばっちりとあった。千加がにっこりと笑顔を作ってやると、ヒクヒクとマズい、という顔をし始める。
「蓮巳敬人、じゃあ、こいつ借りてくわ。な、案内してよ、衣更真緒」
真緒を親指で指を指しながら言うと、予想された展開に指された本人はやっぱりか、という顔をされる。
「衣更は何も関係ないだろう!そいつを巻き込んでやるな」
「関係なくはないだろ。今日、この時間にこの場所に来た運命ってやつじゃねーの。……で?ダメなの?衣更真緒」
「いや、まぁ、ははは」
どっちを立たせるべきか思案している様子だったので、千加はその腕をつかみ、「じゃあ借りてくなー」と生徒会室から連れ出した。「おい、貴様!」と後ろから聞こえるが聞こえていないふりをし、その場を後にした。
◇
全く、なんでこんなことになったのだろうか。昨日作った資料のミスに気付いたのでそれを直そうと生徒会室に寄っただけなのだが、とんでもないものに巻き込まれた。元々巻き込まれ性質なのは知っていたが、今回の巻き込まれ方は結構質が悪い。
「で?どこから連れて行ってくれるわけ?」
案内してくれること前提の物言いの千加にあははは、と真緒は今日で何度目かの愛想笑いをする。生徒会室から出るなり腕は放してくれたが、正直何を考えてるか分からないし、何より強引すぎて正直苦手なタイプだ。
スバルも強引なタイプだとは思っていたが、スバルの強引さとは何か違う。
「あぁ、ちなみに俺、絶対運動部には入らないから。文化部だけ紹介して」
で?あんたは何部なの?と聞かれたので「バスケ部っすけど」と答えると「じゃあ、それ以外だな」と言われてしまった。とは言ったものの、何部が良いかなんて、初めましての先輩のことを知る由もないので真緒は案内しあぐねていた。
「あんま活動とかしないんですよね?」
「まぁ、入った以上は幽霊にはならないつもりだけど、あんまり活動ないところが良いかな」
部活なんて、形だけ入っても何もおとがめもないのだが。意外と律儀な性格のようだ。
「あぁ、じゃあ紅茶部とかどうっすか?」
「紅茶部?何その優雅な部活名」
「俺の幼馴染みもいるし、今日は確か活動日って言ってたんで、行ってみるだけ行ってみますか?」
「まぁ、行くだけなら」
あまり派手に動かない部活だし、Knightsと親しそうだし、ナイトキラーズで英智とも一緒にユニットを組んだ仲なので、千加にピッタリだろうと選び連れて行った部活を真緒は後々後悔することになる。
◇
「衣更真緒、あんた本当に最悪」
「ふふ、僕の可愛い有能な後輩を虐めないでくれるかな、市姫くん」
衣更真緒に連れられ向かったガーデンテラスにいたのは千加のにっくき相手、天祥院英智だった。優雅に座って紅茶なんぞを飲んでいらっしゃる。
「ちょっとエッちゃん、俺の、まーくんなんだけど?」
「はわわ、お客様ですか?今紅茶淹れますね」
その天祥院英智に対峙する形で紅茶を飲んでいるのがKnightsのメンバーである朔間凛月。その横に立ってお茶を奉仕しているのは見たこともない1年生の学生だった。しかも仁兎なずなに劣らず可愛い。男だよな?と疑いたくなる出で立ちだ。
なんだこの部活。
部活名に負けず劣らず本当に紅茶を飲んでいる、そんな部活だった。
「それでなんの用事かな、市姫くん」
「……蓮巳敬人に言われて部活の見学会してるだけだよ。あんたがいるなら紅茶部には絶対入らないから安心しろ」
にっこりと微笑む天祥院英智に対し、ため息交じりに伝えると「おや残念」と本当に残念には思ってなさそうな顔で返答される。「紅茶でも飲んでいくかい?」と聞かれたが、「あんたと飲むと美味しいもんも不味くなる」と返すとまたもや残念には思ってなさそうな顔で「おや残念」と返された。
「君とはゆっくりお話でもして友好を深めたいと思ったのだけれど」
にこりと微笑むその顔に嘘偽りはなさそうだった。
こいつのこういうところ、本当に大っ嫌いだ。
その後、「俺もまーくんと一緒に行く」と駄々をこね出した朔間凛月をどうにかこうにか宥め、2人は学院内の廊下を歩いていた。しまいには、「俺のまーくん困らせたらただじゃおかないから」とまで言われる始末だったが。
俺の、と譲らない朔間凛月に2人は出来ているんじゃないかとどうでもいい疑問に駆られたので、「2人って付き合ってんの?」と聞くと凄い勢いで首を振られて全否定された。てっきり出来てるもんだと思ったが。
「はぁ、天祥院英智の顔見るとか本当最悪。……つーか、あんたの言ってた幼馴染みって朔間凛月?」
「え?あぁ、そうっすよ」
「だからあんた何となく見覚えあったんだ。……ふーん。朔間凛月のあんな心許した感じ初めて見たから新鮮だったわ」
真緒を見たことあると感じた感覚は恐らく凛月と一緒にいたか何かだったのだろう。そりゃ覚えて無くて当然か。
「何かすんません、生徒会長とまさか因縁があったとは知らず」
相変わらず困ったように笑う真緒に、根っからの苦労性なのだろうと感じる。蓮巳敬人とといい、生徒会には苦労人しか集まってないのか?
「まぁ、俺もそんなこと伝えてなかったからあんたが気にすることはないんじゃないの。ただ紅茶部は無いな、無い。後何部があんの?」
「文化部……で言うと……、あ、先輩忍者にご興味は?」
「一切ない」
「ですよねー。つーか、とてもじゃないけど、仙石には預けられないか。
んー……。海洋生物学部とかはどうですか?俺も詳しく活動内容は知らないんすけど、海洋生物を大切にする部活でたまに水族館や海に行ったり、部室にいる生物を育てたりしてる部活なんすけど」
「なんだその部活。まぁ、水族館とかはわりと好きなほうだけど……。……ちなみに誰がいんの、その部活」
先程の紅茶部のような二の舞だけはごめんだ。先にメンバーを聞くことは大切。
「えっと……誰がいたっけな……。3年生で言うと深海先輩と羽風先輩だったっけか?流星隊とUNDEADの」
「却下」
「へ?」
「だから却下」
羽風薫がいるとかあり得ない。天祥院英智もあり得なかったが、羽風薫もあり得ない。なんだ?まともな部活はないのか、この学院。
部活がまとも云々ではなく、その部活に所属する人間に千加にとって問題があるのだがそれは棚に上げる。
「それも却下となると後は……ゲーム研究会とか手芸部とか演劇部とかっすかね」
「ゲームも手芸も興味ない。俺不器用だし。演劇とかこれ以上演じるのは無理」
ポロッとこぼした言葉に衣更真緒が「え?」と反応する。
ただでさえ男役を演じているのだ。これ以上誰かになりきるなんて無理だと思ったのだが、つい言葉として漏れてしまった。「こっちの話」とだけ告げると「はぁ……」と詳しくは詮索しない衣更真緒に感謝した。
「それで我輩たちの部室に来たのかぇ?」
軽音部の部室に何故か置いてある棺桶の中で片膝を立てて座っている朔間零に言われ、千加は「そうだ」としか言うことができない。
衣更真緒はユニット練に参加しないとさすがにまずい、ということで軽音部の部室に千加を連れた後、事情を軽く説明して去ってしまった。薄情なやつめ、とも思うが、それよりも気になる存在が千加の目の前に2人いた。
「朔間先輩朔間先輩、この人どなたですか」
「前Knightsと戦ってたときにいたっていう噂の引きこもりさんじゃないかな、ゆうたくん」
全く同じ顔、同じ身長の彼らはいわゆる双子というやつだろう。千加自身が双子という存在を人生で初めて見るのでやはり少し物珍しく、まじまじと見つめてしまう。
というか、そんなに噂になってるのか。ナイトキラーズのこと。Knightsの影響力を思い知る。
「我輩のクラスに所属しておるひなたくんの言うとおり、市姫千加くんじゃよ」
「思った通り!あ、俺は2winkとして活動してる葵ひなたです。こっちが弟の」
「葵ゆうたです。よろしくね、市姫先輩」
「朔間零。全く見分けつかないんだけど」
2人並んで笑顔で挨拶をされるも、もうすでにどっちがどっちか把握できていない。
「あはは、良く言われるんですよ。イヤホンの色で見分けて貰えれば」
「ピンクがひなたで、水色がゆうたです」
「はぁ。まぁ努力はする。俺は市姫千加。よろしく」
ダブルサウンドで言われても正直見分けられる自信は全くなかった。
「leaderぁぁ!? 弓道場で寝てはいけませんと何度言えば分かるのですか!?そもそも、こんなところで作曲を始めないで下さい!」
「わははは!相変わらずスオ〜はうるさいやつだな!こっちのスオ〜はこんなにもなつっこくて良いやつだって言うのにな!」
レオが周りにいる猫を撫でると「にゃあ」と気持ちよさそうな猫の声。
「くぁぁぁ!だから猫にその名前を付けるのもやめてくださいと何度も言っているのに」
「やぁだよ。だってこんなに馴染んでんのに。なぁ、セナ-、ナルー」
先程とは違う猫をツンツンとつつくと、ゴロゴロと喉を鳴らして猫たちはレオに甘えていた。
何やってんだか。
ていうか、Knightsのメンバーの名前を猫につけてることにも千加は最早半笑いである。レオらしいと言えばレオらしいが。
軽音楽部の部室を後にし、千加はそっと弓道場を覗いていた。レオの部活姿をふと見たくなったからである。覗いてみると、確かに弓道着姿のレオはいたが、弓を射っている様子はなく、ただ寝転がって五線譜に音符を並べたり、猫と戯れたりしている姿しか見ていない。そんな寝転がっている姿のレオに先程とはまた別の1匹の猫が擦り寄って甘えていた。
ていうか、こんなところで私も何やってんだか。
「あれ?そんな猫いましたっけ?凄くleaderに懐いている様子ですが……」
「おぉ!?良く気が付いたな!さすがスオ〜。こいつはつい最近拾ってきた!凄い甘えん坊のさみしがり屋なのか、始終くっついてるぞ、こいつ。なぁ、ヒメー」
レオが軽く頭を撫でると気持ちよさそうに更にレオに擦り寄っている猫の姿を見かけ、千加はその場に崩れ落ちそうになる。
よりにもよってなんでその名前なんだよ、という突っ込みは千加の心の中に消えていく。
「市姫、そこで何をしている」
蓮巳敬人に声を掛けられたのはそんなときだった。
「いや、まぁ……見学?」
何事も無い風を装い敬人に返答する。
「貴様が?弓道部にか?」
「うるさい。ほら、これ、入部届!これで文句はないだろ!」
零に許可をもらい書いた入部届を敬人の顔に突き出すように渡すと、千加はその場を後にした。
「……あいつは何にキレているんだ?全く度し難い」
訳が分からない、と言った風の敬人の呟きは千加に聞こえることはなかった。
「はぁ?お断りします」
移動教室ということで、千加が廊下を歩いていると、目の前からやってきた夢ノ咲学院副会長、蓮巳敬人は端的にそう告げた。
「貴様に拒否権があると思うのか?」
眼鏡をクイッと持ち上げる動作に似合う動作だよな、と少し感心する。
「あんたにそんな強い行使権あんのかよ」
「何を言っている、俺は副会長だぞ」
まぁ、当然の回答で。はぁ、と自然にため息が漏れる。
「生徒会室とかこの学院内一、行きたくない場所なんだけど」
「安心しろ。今日、生徒会室に英智が来る予定はない」
千加の懸念点もしっかり把握している副会長はそう告げると、「必ず来い」とだけ告げてその場を去った。
全くもってこっちに拒否権なんてあるわけがなかった。
「邪魔するよ」
ノックもせずに部屋に入ると、机に座り、黙々と書類整理をする蓮巳敬人の姿があった。
なんというか、本当に高校生か、ていうくらい似合う姿だよなぁ。ヘタをすれば、アイドル姿より似合うんじゃないか?
「貴様な、せめてノックくらいはしろ」
「あんたが呼んだんだし、生徒会室に限っては礼儀は使いたくない」
「全く、度し難い」
千加の慇懃無礼な態度にふぅ、と蓮巳敬人のため息が聞こえた。高校生だと言うのにストレスを貯めすぎているんじゃなかろうか。
「それで?用件はなに。こんなところ、本当に1分1秒も長くいたくないんだけど」
その原因を作っている恐らくは奴の席だろう奥にある一際立派な机を睨みつける。
「貴様な……。まぁいい、市姫、」
蓮巳敬人の言葉を遮るように生徒会室のノックが聞こえたと思うと、「失礼しまーす」と赤髪の男子生徒がドアを開ける。ネクタイの色を見る限り2年生だ。
「すんません。ちょっとやり残した仕事があったんで、と思ったんですけど、もしかして取り込み中でした?」
蓮巳敬人だけだと思ったのだろう、客がいると分かった途端、居住まいを正し、慌てて出て行こうとする。
「いや、別にこいつと話している内容を聞かれたところで何の問題もない。貴様さえ良ければ気にせず仕事をしてくれてかまわんぞ、衣更」
衣更、と呼ばれたその生徒は会話内容的にどうやら、生徒会の人間のようだ。
ブレザーの内側にパーカーを着ているその装いは全然生徒会らしくない装いだけど。まぁ、この学院、校則とか諸々緩いところは緩いしな。
衣更と呼ばれた生徒は、蓮巳敬人から許可が降りると、「そんじゃ、すいません、お言葉に甘えます」といそいそと生徒会室に入ってきた。
「……あれ誰、蓮巳敬人」
純粋に気になったので疑問を問いかける。
「俺の後輩であり、有能な部下だ」
「ふーん。なぁ、名前は?どっかで見た気がするんだけど」
自分の席らしい場所に座った衣更と呼ばれた学生に近付くと、「貴様は絡むな」と過保護な副会長からお叱りの声。おかげさまで、千加の目の前の学生は「いやぁ、はは」と答えて良いのか困っている様子だ。
「名前は?って聞いてんだけど」
だが、そんなことを気にせずその学生の机をドンと強めに叩くと、蓮巳敬人から「備品に当たるな」と一言。突然強めに叩かれた机にビクッとするもその学生はどこか臆する様子は感じられない。
「全く、度し難い。衣更」
「あぁ、えーっと、俺は衣更真緒って言います。一応、Trickstarっていうユニットに所属してます」
名前を呼ばれたことで許可を得たのだろうと認識した学生は千加の圧に押されたのか、蓮巳敬人からの圧に押されたのか、たじろんだ様子で答えた。困ったように笑う顔。だが、決して臆した様子はなく、意外と肝は据わってるな、と千加は印象を書き換えた。蓮巳敬人はと言えば、「余計なことを……」と呟くばかり。
「衣更真緒、衣更真緒……。んー、分かんねぇや」
気のせいだったかな、と思いかけたところで、衣更真緒が「Trickstar」と答えたことに気付く。
「え?は?あんたTrickstarなの?Trickstarってことは何、蓮巳敬人あんた、生徒会の人間にまんまと寝首掻かれたわけ?だっさ」
「五月蝿い。だから貴様には知られたくなかったんだ」
蓮巳敬人は深いため息をつきながら、やれやれといった様子だ。千加にバレれば即絡まれると思っていたのだろう。全くもってその通りで。こんな面白いネタを使わない訳がない。
Trickstarと言えば、千加のにっくき天祥院英智率いるfineを倒し、革命を起こしたユニットだと瀬名泉から聞いた。2年生しかいない生意気なやつらばかり、とも言っていたっけ。一人、金髪の『ゆうくん』は別だと言っていたが、千加の目の前の男は赤髪なので違うだろう。あの瀬名泉が気持ち悪いくらいに溺愛をしている、と言っていたのはいつも眠たそうにしている朔間凛月の言葉。
まぁ、瀬名泉の嗜好なんぞ興味ないけど。男が好きだとは意外だった。
「へぇ。あんた、Trickstarの一員なんだ。生徒会に入ってぬけぬけと生徒会ユニットを倒してここにいる図太い神経してる、と。良いねぇ、そういうの好きだよ。蓮巳敬人、あんたは別に何も感じてないの?」
ニヤニヤと蓮巳敬人の顔を見ると「貴様には関係ない」と何事も無いかのように一蹴される。
大人だねぇ。
「ええっと!先輩は市姫先輩っすよね?つい最近、復学したとかって」
蓮巳敬人の機嫌を気にしたのか、慌てて話を変えようとする後輩を横目に見ながら、千加は「あぁ、そうだけど。市姫千加、よろしく」と答えた。
全く。良い後輩をお持ちで。
「先日もKnightsと対峙したジャッジメントライブに出てたとか!暫く休んでたのにあのKnightsと渡り合ったり、会長にも遅れを取ってないって聞いてどんな人かな、て思ってたんすよ」
あはははー、と乾いた笑い付きで話題変えに必死なのが伺えた。
「そりゃどーも。……あんた出来た後輩だな。そんな必死に話題変えなくても大丈夫だよ。こんな時でもないと蓮巳敬人を弄れないと思って深く突っ込んだだけだし」
なぁ、蓮巳敬人?と言ってやると、ふん、とどうも認めたくない様子がついおかしい。
衣更真緒は2人の距離感が分からないのか、どういった対応をすれば正解なのか思案している様子だった。
「いい加減にしろ。貴様がそうこうしていると、衣更も仕事ができんだろう。さっさと用件を告げてやる」
「あぁ、はいはい。何の用で呼んだの」
千加が聞く姿勢になると、蓮巳敬人は居住まいを正し、一息ついた。
「貴様、部活に入ってないだろう」
「は?いや、まあ不登校になる前は入ってなかったな。必須じゃなかったし」
なんの話かと思えば、部活の話とは。
「我が夢ノ咲学院は部活入部は絶対条件となった。貴様が休んでいる間にな。と言うことでだ、貴様も部活に入れ」
「はぁ?聞いてないけど」
「聞こうが聞くまいがそれが校則だ」
「つーか俺、高3だよ?しかももう秋。今更じゃない?」
「貴様が何を喚こうが、校則は校則だ。例外は認めん。貴様が将来どうなるか知らんが、これは将来的な成績、内申点にも関わる。入っておいて損はないだろう。いいか、3日猶予をやる。その間に決めろ。むしろ3日も猶予を作ったことを光栄に思って欲しいくらいだな」
「とは言っても、今どこに何部が活動してるかなんて俺知らないし」
本当に頭が固いな、蓮巳敬人。とは言え、現部活動がどんなものがあるかなんて本当に分からない。
どうしたもんかと思案していると、困ったように突っ立っている真緒と目がばっちりとあった。千加がにっこりと笑顔を作ってやると、ヒクヒクとマズい、という顔をし始める。
「蓮巳敬人、じゃあ、こいつ借りてくわ。な、案内してよ、衣更真緒」
真緒を親指で指を指しながら言うと、予想された展開に指された本人はやっぱりか、という顔をされる。
「衣更は何も関係ないだろう!そいつを巻き込んでやるな」
「関係なくはないだろ。今日、この時間にこの場所に来た運命ってやつじゃねーの。……で?ダメなの?衣更真緒」
「いや、まぁ、ははは」
どっちを立たせるべきか思案している様子だったので、千加はその腕をつかみ、「じゃあ借りてくなー」と生徒会室から連れ出した。「おい、貴様!」と後ろから聞こえるが聞こえていないふりをし、その場を後にした。
◇
全く、なんでこんなことになったのだろうか。昨日作った資料のミスに気付いたのでそれを直そうと生徒会室に寄っただけなのだが、とんでもないものに巻き込まれた。元々巻き込まれ性質なのは知っていたが、今回の巻き込まれ方は結構質が悪い。
「で?どこから連れて行ってくれるわけ?」
案内してくれること前提の物言いの千加にあははは、と真緒は今日で何度目かの愛想笑いをする。生徒会室から出るなり腕は放してくれたが、正直何を考えてるか分からないし、何より強引すぎて正直苦手なタイプだ。
スバルも強引なタイプだとは思っていたが、スバルの強引さとは何か違う。
「あぁ、ちなみに俺、絶対運動部には入らないから。文化部だけ紹介して」
で?あんたは何部なの?と聞かれたので「バスケ部っすけど」と答えると「じゃあ、それ以外だな」と言われてしまった。とは言ったものの、何部が良いかなんて、初めましての先輩のことを知る由もないので真緒は案内しあぐねていた。
「あんま活動とかしないんですよね?」
「まぁ、入った以上は幽霊にはならないつもりだけど、あんまり活動ないところが良いかな」
部活なんて、形だけ入っても何もおとがめもないのだが。意外と律儀な性格のようだ。
「あぁ、じゃあ紅茶部とかどうっすか?」
「紅茶部?何その優雅な部活名」
「俺の幼馴染みもいるし、今日は確か活動日って言ってたんで、行ってみるだけ行ってみますか?」
「まぁ、行くだけなら」
あまり派手に動かない部活だし、Knightsと親しそうだし、ナイトキラーズで英智とも一緒にユニットを組んだ仲なので、千加にピッタリだろうと選び連れて行った部活を真緒は後々後悔することになる。
◇
「衣更真緒、あんた本当に最悪」
「ふふ、僕の可愛い有能な後輩を虐めないでくれるかな、市姫くん」
衣更真緒に連れられ向かったガーデンテラスにいたのは千加のにっくき相手、天祥院英智だった。優雅に座って紅茶なんぞを飲んでいらっしゃる。
「ちょっとエッちゃん、俺の、まーくんなんだけど?」
「はわわ、お客様ですか?今紅茶淹れますね」
その天祥院英智に対峙する形で紅茶を飲んでいるのがKnightsのメンバーである朔間凛月。その横に立ってお茶を奉仕しているのは見たこともない1年生の学生だった。しかも仁兎なずなに劣らず可愛い。男だよな?と疑いたくなる出で立ちだ。
なんだこの部活。
部活名に負けず劣らず本当に紅茶を飲んでいる、そんな部活だった。
「それでなんの用事かな、市姫くん」
「……蓮巳敬人に言われて部活の見学会してるだけだよ。あんたがいるなら紅茶部には絶対入らないから安心しろ」
にっこりと微笑む天祥院英智に対し、ため息交じりに伝えると「おや残念」と本当に残念には思ってなさそうな顔で返答される。「紅茶でも飲んでいくかい?」と聞かれたが、「あんたと飲むと美味しいもんも不味くなる」と返すとまたもや残念には思ってなさそうな顔で「おや残念」と返された。
「君とはゆっくりお話でもして友好を深めたいと思ったのだけれど」
にこりと微笑むその顔に嘘偽りはなさそうだった。
こいつのこういうところ、本当に大っ嫌いだ。
その後、「俺もまーくんと一緒に行く」と駄々をこね出した朔間凛月をどうにかこうにか宥め、2人は学院内の廊下を歩いていた。しまいには、「俺のまーくん困らせたらただじゃおかないから」とまで言われる始末だったが。
俺の、と譲らない朔間凛月に2人は出来ているんじゃないかとどうでもいい疑問に駆られたので、「2人って付き合ってんの?」と聞くと凄い勢いで首を振られて全否定された。てっきり出来てるもんだと思ったが。
「はぁ、天祥院英智の顔見るとか本当最悪。……つーか、あんたの言ってた幼馴染みって朔間凛月?」
「え?あぁ、そうっすよ」
「だからあんた何となく見覚えあったんだ。……ふーん。朔間凛月のあんな心許した感じ初めて見たから新鮮だったわ」
真緒を見たことあると感じた感覚は恐らく凛月と一緒にいたか何かだったのだろう。そりゃ覚えて無くて当然か。
「何かすんません、生徒会長とまさか因縁があったとは知らず」
相変わらず困ったように笑う真緒に、根っからの苦労性なのだろうと感じる。蓮巳敬人とといい、生徒会には苦労人しか集まってないのか?
「まぁ、俺もそんなこと伝えてなかったからあんたが気にすることはないんじゃないの。ただ紅茶部は無いな、無い。後何部があんの?」
「文化部……で言うと……、あ、先輩忍者にご興味は?」
「一切ない」
「ですよねー。つーか、とてもじゃないけど、仙石には預けられないか。
んー……。海洋生物学部とかはどうですか?俺も詳しく活動内容は知らないんすけど、海洋生物を大切にする部活でたまに水族館や海に行ったり、部室にいる生物を育てたりしてる部活なんすけど」
「なんだその部活。まぁ、水族館とかはわりと好きなほうだけど……。……ちなみに誰がいんの、その部活」
先程の紅茶部のような二の舞だけはごめんだ。先にメンバーを聞くことは大切。
「えっと……誰がいたっけな……。3年生で言うと深海先輩と羽風先輩だったっけか?流星隊とUNDEADの」
「却下」
「へ?」
「だから却下」
羽風薫がいるとかあり得ない。天祥院英智もあり得なかったが、羽風薫もあり得ない。なんだ?まともな部活はないのか、この学院。
部活がまとも云々ではなく、その部活に所属する人間に千加にとって問題があるのだがそれは棚に上げる。
「それも却下となると後は……ゲーム研究会とか手芸部とか演劇部とかっすかね」
「ゲームも手芸も興味ない。俺不器用だし。演劇とかこれ以上演じるのは無理」
ポロッとこぼした言葉に衣更真緒が「え?」と反応する。
ただでさえ男役を演じているのだ。これ以上誰かになりきるなんて無理だと思ったのだが、つい言葉として漏れてしまった。「こっちの話」とだけ告げると「はぁ……」と詳しくは詮索しない衣更真緒に感謝した。
「それで我輩たちの部室に来たのかぇ?」
軽音部の部室に何故か置いてある棺桶の中で片膝を立てて座っている朔間零に言われ、千加は「そうだ」としか言うことができない。
衣更真緒はユニット練に参加しないとさすがにまずい、ということで軽音部の部室に千加を連れた後、事情を軽く説明して去ってしまった。薄情なやつめ、とも思うが、それよりも気になる存在が千加の目の前に2人いた。
「朔間先輩朔間先輩、この人どなたですか」
「前Knightsと戦ってたときにいたっていう噂の引きこもりさんじゃないかな、ゆうたくん」
全く同じ顔、同じ身長の彼らはいわゆる双子というやつだろう。千加自身が双子という存在を人生で初めて見るのでやはり少し物珍しく、まじまじと見つめてしまう。
というか、そんなに噂になってるのか。ナイトキラーズのこと。Knightsの影響力を思い知る。
「我輩のクラスに所属しておるひなたくんの言うとおり、市姫千加くんじゃよ」
「思った通り!あ、俺は2winkとして活動してる葵ひなたです。こっちが弟の」
「葵ゆうたです。よろしくね、市姫先輩」
「朔間零。全く見分けつかないんだけど」
2人並んで笑顔で挨拶をされるも、もうすでにどっちがどっちか把握できていない。
「あはは、良く言われるんですよ。イヤホンの色で見分けて貰えれば」
「ピンクがひなたで、水色がゆうたです」
「はぁ。まぁ努力はする。俺は市姫千加。よろしく」
ダブルサウンドで言われても正直見分けられる自信は全くなかった。
「leaderぁぁ!? 弓道場で寝てはいけませんと何度言えば分かるのですか!?そもそも、こんなところで作曲を始めないで下さい!」
「わははは!相変わらずスオ〜はうるさいやつだな!こっちのスオ〜はこんなにもなつっこくて良いやつだって言うのにな!」
レオが周りにいる猫を撫でると「にゃあ」と気持ちよさそうな猫の声。
「くぁぁぁ!だから猫にその名前を付けるのもやめてくださいと何度も言っているのに」
「やぁだよ。だってこんなに馴染んでんのに。なぁ、セナ-、ナルー」
先程とは違う猫をツンツンとつつくと、ゴロゴロと喉を鳴らして猫たちはレオに甘えていた。
何やってんだか。
ていうか、Knightsのメンバーの名前を猫につけてることにも千加は最早半笑いである。レオらしいと言えばレオらしいが。
軽音楽部の部室を後にし、千加はそっと弓道場を覗いていた。レオの部活姿をふと見たくなったからである。覗いてみると、確かに弓道着姿のレオはいたが、弓を射っている様子はなく、ただ寝転がって五線譜に音符を並べたり、猫と戯れたりしている姿しか見ていない。そんな寝転がっている姿のレオに先程とはまた別の1匹の猫が擦り寄って甘えていた。
ていうか、こんなところで私も何やってんだか。
「あれ?そんな猫いましたっけ?凄くleaderに懐いている様子ですが……」
「おぉ!?良く気が付いたな!さすがスオ〜。こいつはつい最近拾ってきた!凄い甘えん坊のさみしがり屋なのか、始終くっついてるぞ、こいつ。なぁ、ヒメー」
レオが軽く頭を撫でると気持ちよさそうに更にレオに擦り寄っている猫の姿を見かけ、千加はその場に崩れ落ちそうになる。
よりにもよってなんでその名前なんだよ、という突っ込みは千加の心の中に消えていく。
「市姫、そこで何をしている」
蓮巳敬人に声を掛けられたのはそんなときだった。
「いや、まぁ……見学?」
何事も無い風を装い敬人に返答する。
「貴様が?弓道部にか?」
「うるさい。ほら、これ、入部届!これで文句はないだろ!」
零に許可をもらい書いた入部届を敬人の顔に突き出すように渡すと、千加はその場を後にした。
「……あいつは何にキレているんだ?全く度し難い」
訳が分からない、と言った風の敬人の呟きは千加に聞こえることはなかった。