君と奏でる音楽。
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閑静な住宅街。そこから少し外れたところ、小高い丘の上に一つの公園があった。遊具などは一切なく、必要最低限の椅子とだだっ広い芝生が生い茂った静かな公園。そんな公園に今日も歌声が響き渡る。男にしては少し高めの、しかし女にしては少し低めのハスキーがかった歌声は性別を聞かなければ男とも女とも判断しがたい、だが素人とは形容しがたい澄んだ歌声だった。
歌っている本人自身は上手いと感じたことはない。たが歌いたいから歌う、世界に歌を届けたいから歌う、歌を歌うことはその人にとって息をすることと同じくらいに大事なものになっていた。
「お前、歌うまいな」
「俺、アイドル目指すんだ」
歌いながら思い返す過去の記憶。まるで夕日のようにきれいな赤味がかったオレンジ色の髪をした男が屈託ないの笑顔を向け言う。もう随分と昔のことなので、思い出す顔は子供の顔なのだが、つい最近のように感じる。歌っているといつも流れてくる記憶という名の映像。その記憶を遠くへと押し込むように今日も公園に歌声は響き渡る。だが、一生懸命押し込もうとしても歌っている歌はその男の作った歌なので押し込めるわけもなかった。
そうしていつものように無我夢中に歌い切った後、どこからともなく小さな拍手が聞こえた。
公園内で唯一、街を一望できる場所で街中に向け歌を歌っていた千加は突然の拍手にハッとした。たまに公園に来た人たちが足を止めて聞いてくれることもあるが、元々人通りが少ないからか、拍手を貰うことはあまりない。自信なく聞こえる拍手は千加の後ろから聞こえるようだった。 お礼を言おうと千加がくるりと振り返るとそこに見えるは特に特徴のない普通の女子高生。女子高生が一人で公園に来ていることも珍しいので少し驚きもしたが、彼女は千加と目が合うと何かを言おうと口をパクパクとさせた。しかし、遠慮をしているのか、それとも何を話せば良いのか分からないのか、ただただ顔を赤くしてもう一度彼女は小さく拍手をした。
その拍手の長いこと。言葉を発することなくただただ続く拍手に耐えかねた千加は彼女に向け、ぎこちなく口を開いた。
「えっと……。拍手ありがとう。拍手はもう良いよ。拍手されるほどの歌声でもないし。……ここら辺の人?」
この公園に人が来ることも珍しいからさ、と付け加えながら女子高生に声をかける。そこでようやく拍手をやめた女子高生は顔を小さく横に振りながら口を開いた。
どうやら彼女は最近引越して来たようだ。とは言ってももう半年くらいにはなるそうなので、最近と言って良いかは微妙だ。そんな彼女が初めて会ったであろう千加に向け、驚きの言葉をかけた。
「は?夢ノ咲学院に戻って来てほしい?なんであんたがそんなこと言うわけ」
彼女の突然の発言に少し棘のある言い方になってしまったが、千加には彼女からそんないわれを受ける理由が思い当たらなかった。
この街には夢ノ咲学院という学校がある。普通科はもちろんのことアイドル科と言う男子専門の科があるその学校に市姫千加は高校3年生として通っていた。とある事情により2年の春休み少し前から引きこもりになり、それでも歌うことはやめられない千加は毎日この公園で歌を歌っていた。
彼女はどうやらその学校に新しく新設される男女共学のプロデュース科第一号、お試しとして転入して来たようだ。そこで色々なユニットのプロデュースとして手助けをしていき、仲良くなっていくうちに市姫千加と言う存在を知った。正確には瀬名泉から聞いた、だ。
泉は千加が学院に通っていた頃所属していたユニット「Knights」、そのメンバーの一人。千加が学院に行かなくなった後、レオが学校に行かなくなったことは彼の妹から聞いた。
「千加さんが学校に行かなくなってすぐにお兄ちゃんも学校に行かなくなっちゃって……。お兄ちゃん何も言わないし、学校で何かあったんですか?」
家が近所なので昔から月永家とは交流もあり、レオの妹、ルカとも親交は深かった。深かっただけに心配そうに掛けてくれた声を曖昧な返事で誤魔化し、妙な罪悪感を抱いたことはまだ記憶に新しい。互いに学校に行かなくなってからはレオとも連絡を取ることもなくなり、疎遠になっていたが、どうやらそのレオが学院に戻って来たようだ。
不信感を露わにした千加に対し、慌てて説明をした彼女の話をまとめると、学校にレオが戻って来たのは良いが、しかもレオを学校に戻したのは彼女だと言うのには千加も驚いたが、どうも 「Knights」には戻ってこないし、何がしたいか分からない。そんな折に「あいつ」だったら分かるのかな、と泉が漏らした「あいつ」に彼女は反応したようだ。その「あいつ」こそが千加であり、彼女は頼まれた訳でもなく、千加を探しにやって来た、ということらしい。
「それにしても……瀬名泉め。余計なことを」
溢れた言葉に彼女は慌てて首を降った。どうしても泉は関係ないと言いたいようだ。
「瀬名泉の話を聞いてあんたが勝手に行動したことだとしても、そんな話をしたあいつが悪い。しかもあんたをレオを連れ戻したプロデューサーと知ってだろ?……にしても本当にレオ学院に戻ったわけ?いや、最近、変な連絡が来たな、とは思っていたんだけどさ、あまりにも変な連絡すぎてあいつの連絡先乗っ取られたか、と思ってたら本当にレオだったとはねえ」
在学中も数えるほどしか携帯で連絡を取り合ったことのないレオから千加が急に連絡をもらったのはほんの1週間前。そこには、「うっちゅ〜★」から始まる謎の挨拶とともに、「皇帝」が負けたこと、レオが学院に戻ったこと、そして学院自体が少しずつ変化しており、「面白く」なって来ていることが書いてあった。学校に行かなくなる前のレオとは雰囲気の違うメール文章に今の今までなりすましだと思い放置していたが、彼女の話を聞く限りはそうではないようだ。
「仕方がない。なんだか面白くなって来たし、あんたもわざわざここまで来てくれたようだしね、行ってやるよ、学院。あのメールのレオが本物なら面白いことが起きそうだし。それに、俺は期限付きのアイドルだしね」
ため息交じりにそう告げると彼女は顔を輝かせ、地面に頭がつくのではないかと心配になるほどに頭を下げ、ありがとうございます、と言ったようだった。
それからというものの、学院に戻って早々、レオのよく分からない思いつきに巻き込まれ、ナイトキラーズとしてステージに出さされたことはまた別の機会に。
ていうかあいつ、引退する気満々だったじゃねぇか、この野郎。瀬名泉も訳分からんとお手上げになっても仕方ない。
歌っている本人自身は上手いと感じたことはない。たが歌いたいから歌う、世界に歌を届けたいから歌う、歌を歌うことはその人にとって息をすることと同じくらいに大事なものになっていた。
「お前、歌うまいな」
「俺、アイドル目指すんだ」
歌いながら思い返す過去の記憶。まるで夕日のようにきれいな赤味がかったオレンジ色の髪をした男が屈託ないの笑顔を向け言う。もう随分と昔のことなので、思い出す顔は子供の顔なのだが、つい最近のように感じる。歌っているといつも流れてくる記憶という名の映像。その記憶を遠くへと押し込むように今日も公園に歌声は響き渡る。だが、一生懸命押し込もうとしても歌っている歌はその男の作った歌なので押し込めるわけもなかった。
そうしていつものように無我夢中に歌い切った後、どこからともなく小さな拍手が聞こえた。
公園内で唯一、街を一望できる場所で街中に向け歌を歌っていた千加は突然の拍手にハッとした。たまに公園に来た人たちが足を止めて聞いてくれることもあるが、元々人通りが少ないからか、拍手を貰うことはあまりない。自信なく聞こえる拍手は千加の後ろから聞こえるようだった。 お礼を言おうと千加がくるりと振り返るとそこに見えるは特に特徴のない普通の女子高生。女子高生が一人で公園に来ていることも珍しいので少し驚きもしたが、彼女は千加と目が合うと何かを言おうと口をパクパクとさせた。しかし、遠慮をしているのか、それとも何を話せば良いのか分からないのか、ただただ顔を赤くしてもう一度彼女は小さく拍手をした。
その拍手の長いこと。言葉を発することなくただただ続く拍手に耐えかねた千加は彼女に向け、ぎこちなく口を開いた。
「えっと……。拍手ありがとう。拍手はもう良いよ。拍手されるほどの歌声でもないし。……ここら辺の人?」
この公園に人が来ることも珍しいからさ、と付け加えながら女子高生に声をかける。そこでようやく拍手をやめた女子高生は顔を小さく横に振りながら口を開いた。
どうやら彼女は最近引越して来たようだ。とは言ってももう半年くらいにはなるそうなので、最近と言って良いかは微妙だ。そんな彼女が初めて会ったであろう千加に向け、驚きの言葉をかけた。
「は?夢ノ咲学院に戻って来てほしい?なんであんたがそんなこと言うわけ」
彼女の突然の発言に少し棘のある言い方になってしまったが、千加には彼女からそんないわれを受ける理由が思い当たらなかった。
この街には夢ノ咲学院という学校がある。普通科はもちろんのことアイドル科と言う男子専門の科があるその学校に市姫千加は高校3年生として通っていた。とある事情により2年の春休み少し前から引きこもりになり、それでも歌うことはやめられない千加は毎日この公園で歌を歌っていた。
彼女はどうやらその学校に新しく新設される男女共学のプロデュース科第一号、お試しとして転入して来たようだ。そこで色々なユニットのプロデュースとして手助けをしていき、仲良くなっていくうちに市姫千加と言う存在を知った。正確には瀬名泉から聞いた、だ。
泉は千加が学院に通っていた頃所属していたユニット「Knights」、そのメンバーの一人。千加が学院に行かなくなった後、レオが学校に行かなくなったことは彼の妹から聞いた。
「千加さんが学校に行かなくなってすぐにお兄ちゃんも学校に行かなくなっちゃって……。お兄ちゃん何も言わないし、学校で何かあったんですか?」
家が近所なので昔から月永家とは交流もあり、レオの妹、ルカとも親交は深かった。深かっただけに心配そうに掛けてくれた声を曖昧な返事で誤魔化し、妙な罪悪感を抱いたことはまだ記憶に新しい。互いに学校に行かなくなってからはレオとも連絡を取ることもなくなり、疎遠になっていたが、どうやらそのレオが学院に戻って来たようだ。
不信感を露わにした千加に対し、慌てて説明をした彼女の話をまとめると、学校にレオが戻って来たのは良いが、しかもレオを学校に戻したのは彼女だと言うのには千加も驚いたが、どうも 「Knights」には戻ってこないし、何がしたいか分からない。そんな折に「あいつ」だったら分かるのかな、と泉が漏らした「あいつ」に彼女は反応したようだ。その「あいつ」こそが千加であり、彼女は頼まれた訳でもなく、千加を探しにやって来た、ということらしい。
「それにしても……瀬名泉め。余計なことを」
溢れた言葉に彼女は慌てて首を降った。どうしても泉は関係ないと言いたいようだ。
「瀬名泉の話を聞いてあんたが勝手に行動したことだとしても、そんな話をしたあいつが悪い。しかもあんたをレオを連れ戻したプロデューサーと知ってだろ?……にしても本当にレオ学院に戻ったわけ?いや、最近、変な連絡が来たな、とは思っていたんだけどさ、あまりにも変な連絡すぎてあいつの連絡先乗っ取られたか、と思ってたら本当にレオだったとはねえ」
在学中も数えるほどしか携帯で連絡を取り合ったことのないレオから千加が急に連絡をもらったのはほんの1週間前。そこには、「うっちゅ〜★」から始まる謎の挨拶とともに、「皇帝」が負けたこと、レオが学院に戻ったこと、そして学院自体が少しずつ変化しており、「面白く」なって来ていることが書いてあった。学校に行かなくなる前のレオとは雰囲気の違うメール文章に今の今までなりすましだと思い放置していたが、彼女の話を聞く限りはそうではないようだ。
「仕方がない。なんだか面白くなって来たし、あんたもわざわざここまで来てくれたようだしね、行ってやるよ、学院。あのメールのレオが本物なら面白いことが起きそうだし。それに、俺は期限付きのアイドルだしね」
ため息交じりにそう告げると彼女は顔を輝かせ、地面に頭がつくのではないかと心配になるほどに頭を下げ、ありがとうございます、と言ったようだった。
それからというものの、学院に戻って早々、レオのよく分からない思いつきに巻き込まれ、ナイトキラーズとしてステージに出さされたことはまた別の機会に。
ていうかあいつ、引退する気満々だったじゃねぇか、この野郎。瀬名泉も訳分からんとお手上げになっても仕方ない。