poison remover
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どくジムがマイナーリーグに降格した。
その報せはすぐにオレさまの耳に入り、ポケモンとジムトレーナー達のコンディションチェックやトレーニングを早めに切り上げて、あのやさぐれたジムリーダーに音声のみの電話をかける。
『…………なに』
何度目かのコールの後、ようやく繋がったと思えば、聞こえてきたのは不機嫌全開って声で。
これは相当キてんな、とある程度予想していた相手の様子に内心苦笑する。
「よお、なまえ。最近調子どうよ」
『用がないなら切るぞ』
「おい、ちょっ、待て待て! 用ならあるって!」
わざと明るく声をかけてみたら容赦なく通話を切られそうになり、慌てて取り繕う。
しかし参った。用があるとは言ったものの、その実特に用があって電話したわけじゃねーんだよな。
強いて言うなら、なまえの今の状態が心配になって、というのが電話をかけた理由だが、そんなことを素直に言っちまえば本気で通話を切られかねない。
「あー、その、なんだ。ポプラさんに渡してぇ書類があんだけどよ。あの人、今ジムにいるか?」
何とか話題をと思い咄嗟に浮かんだ言葉。
そういえばルミナスメイズの森の環境調査結果をまとめた資料を、この間のジムリーダー会議で欠席していたポプラさんに渡すようオリーヴに言われていたんだった。
それを思い出してなまえに伝えてみたが、返ってきたのは呆れた声で。
『あのな、俺はフェアリージムの人間じゃねーんだぞ。そんなこと、俺じゃなくてジムに直接電話すりゃいいだろ』
「そんな固いこと言うなって。別にいいじゃねーか、オレさまあのジム苦手なんだよ」
『…………ハァ。ポプラさんなら今日はオフだから、多分家にいると思うぞ』
用件はそれだけか、なんてそっけなく言われる。
なんだかんだ冷たい言い方をしていても、根は優しいなまえはきっとオレさまの質問に答えてくれると信じてた。
思った通りになってくれたことに、自然と口角が吊り上がる。
「そっか。じゃあこれからそっちに向かうわ。ついでにお前のとこにも寄るからよろしくな」
『はぁ!? おまえ何勝手なこと言って、』
ブチ、なまえの抗議を無視して通話を切り、いそいそと出かける準備を始める。
さて、今日はどうやってあのジムリーダーに解毒を施してみようか。
いきなり電話を切られてまた機嫌が悪くなっただろうあいつの姿ににやけながら、オレさまは手持ちからフライゴンを呼び出した。
***
「てめぇ、何しにきやがった」
ちゃーんとポプラさんに資料を渡したあと、アラベスクタウンの外れにあるどくジムのトレーニングルームに顔を出せば、一緒に鍛錬していたであろうドクロッグとどくジムのユニフォームを着たなまえに思い切り睨まれる。
おー、こわ。今日も荒れてんなー。
「電話でも言ったじゃねーか、なまえんとこ寄るって」
「あーそうですか。さすがトップジムリーダー様はこんなマイナージムと違って、ずいぶん余裕があると見受けられますねー」
今日もばつぐんに毒を吐くなまえに、思わず苦笑する。
この対応の冷たさはいつものことだから慣れてはいるけど、今日はまた一段と声に棘がある。
ハードなトレーニングをしたんだろう、首にかけたタオルで頬を伝う汗をぬぐいながら息をただすなまえに笑顔で歩み寄る。
「オレさま、ただなまえに会いたかっただけなんだけどなー」
「ドクロッグ、れいとうパンチ」
「ちょ、まてストップ! 人に向かって技を指示すんじゃねぇ!」
なまえの冷ややかで理不尽な指示にも忠実に従って拳に冷気を纏わせ始めたドクロッグに身の危険を感じ、両手で待ったをかける。
何気にオレさまが苦手なこおりタイプの技を出そうとするあたり、タチが悪いというかなんというか。
ていうか、いつの間にれいとうパンチなんて覚えさせやがったんだ。
なんとかなまえを宥めて技を不発にさせ、ほっとため息を吐く。
おいそこの性悪ポケモン、舌打ちしたの聞こえてっからな。
「それで? 俺のジムが降格されたことでも笑いに来たのか?」
知ってんだろ、とドクロッグを撫でながら自嘲するように吐き捨てるなまえに、またため息を吐く。
どうしてそんなひねくれた考え方しかできないんだよ。
「ちげーよ。オレさまが来たのは、まぁ、ちょっとしたお説教だな」
「……は?」
何言ってんだ、と睨み付けるなまえの目をまっすぐ見返す。
オレさま自身も言いたかったことでもあるが、ポプラさんにもさっき頼まれちまったからな。
「お前さ、仮にもひとつのジム背負ってんだから、もう少し上手く立ち回れ。確かにスポンサーやお偉いさん方は、時々こっちの都合を無視したオーダーを要求してくる。だけどそれをただ『やりたくねぇ』ってガキみてーな突っ張り方してっから、降格ってことになんだろ。お前のわがままのせいで、ジムで働く他の連中にまで迷惑がかかんだ。そこをもっと理解しろ」
「っ……」
ぎり、と奥歯を噛みしめる音が聞こえる。
オレさまもちょっと大人げなく正論をぶつけちまったが、こいつにはこれくらい言ってやらねーと。
心配そうになまえを見上げるドクロッグに、なまえは気まずそうにしたあとで力なく笑う。
「……トップジムリーダー様にそう言われると、なんも言い返せねーわ」
「そういうことじゃなくてだな……」
「わりぃな。ジムのこと思ってくれたんだろ。心配しなくても、なんとか元のリーグに戻ってみせっから……」
「オレさまは、お前のことを心配してんだよ」
ぐい、となまえの顎を掴んでオレさまの方を向かせる。
身長差のせいでずいぶんなまえに上を向かせることになっちまったが、そんなの構わねぇ。
目をぱちくりとさせるなまえに顔を近付け、その深紫色の瞳をまっすぐに見つめる。
「お前はイラつくとガキみてーに癇癪起こすくせに、なんでも一人で抱え込んじまうクセがあっからな。今日のことも、ひとりで抱え込んじまってんじゃねーかって思ったら放っておけなかったんだよ」
「なっ……」
「それに周りが何て言おうと、オレさまはなまえのどくタイプに対する情熱と信念を持ったバトルスタイルが好きだし、こんなに頑張ってるなまえがマイナー落ちして、なまえのポケモンバトルが世間に見られる機会が減っちまうのが寂しいって思ってんだ」
「……っ!」
「まぁつまり、だ。なんでも突っぱねてないで、つらいなら少しは周りとか、オレさまのことを頼れよな」
そこまで言ってなまえの顎から手を離してやると、なまえはふらりと後ずさってオレさまから目を逸らし、手の甲で口元を隠した。
その顔がカジッチュみてーに真っ赤になってて、内心ほくそ笑む。
これで、ちょっとはオレさまのことを意識してくれればいいんだけどな。
と、上手く目論見通りに行けば良かったんだが。
「っ……ドクロッグ、ダストシュートッ!」
「っはぁ!? てめ、照れ隠しでそれはねーだろ!」
「う、うるせえ! 今日こそそのいけ好かねぇツラ、ドロドロにしてやる!」
真っ赤になって叫ぶ主人の指示に嬉々として技を繰り出そうとするドクロッグに、流石のオレさまもヤバいと思って咄嗟にジュラルドンをその場に出す。
そっからはまぁ、互いにヒートアップして散々ポケモンバトルをやったわけだが。
バトル中、いつの間にか普段みてぇに笑うようになったなまえが見れただけで、オレさまは大満足だった。