甘い孤独
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最初に彼をそういう目で見たのは、いつからだっただろう。
服の上からでも分かる程のしっかりした身体つきと、黄金色の瞳がやたらと綺麗だなと思った時からか。
彼をチャンピオンとしてではなく、ひとりの友人として接するようになってからか。
「ねぇ、ダンデ」
「ん? どうしたなまえくん」
夜、たまに彼を連れて訪れる居酒屋で、好きなつまみを味わいながら向かいの席に座る彼に話しかける。
私よりもずっとお酒が強い彼に合わせて飲んでいたら、少しどころではなく酔いが回ってしまったようだ。
頭がぼんやりとしてるし、なんだか身体も熱い。
「ダンデは好きな人とか、いないの?」
「なんだ急に。キミが恋愛関係の話題を振るなんて珍しいじゃないか」
恋愛の話はあまり好きじゃないだろう、と目を伏せて笑いながら、ダンデはグラスに入ったお酒を飲み干した。
もうだいぶ飲んだというのに、どんだけザルなんだこいつは。
彼の酒豪ぶりに若干引きつつ、手元にあったチェイサーを一口飲む。
「そうね……少し酔ってるからかも。で? いないの、好きな人」
「そうだなぁ、特に思い浮かぶ相手はいないかもしれないな」
「あら、幼馴染のあの人は違うのかしら?」
「ソニアのことか? 彼女とは付き合いが長いだけで、お互い特別な感情はないぞ」
表情を変えずに話すから、きっと彼の言う事は本当なのだろう。
『特に思い浮かぶ相手がいない』ことも含めて。
「そういうキミはどうなんだ? オレばかり打ち明けるのも不公平だろう」
「……私もいないわね。まだ遊んでいたいもの」
自嘲気味に笑うと、ダンデがキョトンとした顔をした。
その顔があまりに可笑しいものだったから思わず吹き出してしまうと、笑うことないだろう、だなんて可愛く怒られてしまった。
「恋をすることと遊ぶことは、関係ないんじゃないのか?」
「普通に友達と遊ぶのならね」
「……違う遊びがあるのか?」
ダンデの言葉に、今度は私のほうが驚いてしまった。
以前からポケモンバトル以外のことは興味ないんだろうなと思っていたが、そういう知識もないだなんて。
「ガラルの無敵のチャンピオン様が、こんなに純粋だったなんてねぇ」
「……キミの反応で、何となく良くない類の遊びだということは理解したぞ」
だけどまだ理解できない、といった様子のダンデに、今更ながら話していいものか一瞬悩んでしまう。
だけど、お酒であまり頭が回らないからか、どうしようという迷いはすぐに溶けてしまった。
「……私ね、こう見えて結構寂しがり屋なの」
「なまえくんが寂しがり屋なのは、わりとすぐに気づいていたぞ」
「なにそれ恥ずかしい」
机に突っ伏して恥ずかしがる素振りをすると、大きな手に頭を優しく撫でられる。
あぁ、ダンデのこういう優しいところは、とても好ましく思っているわ。
本人には言わないけれど。
「私……何人かとセフレになってるの」
突っ伏したまま小さく打ち明けると、頭を撫でていた手がピクリと動きを止めた。
流石の彼も、セフレの意味は知っているみたい。
「……相手は」
「ダンデの知らない人よ。寂しくなった時に会って、することしてサヨナラ。それだけの関係」
「そんなこと今すぐ、」
「やめろって? いやよ。だって止めたら、誰が私の寂しさを埋めてくれるの?」
とうとう彼の手が私から離れた。
あぁ、きっと彼は私に幻滅している。
もう気軽に飲みに行ける関係じゃなくなるのかな。
彼の反応を見るのが何故だか怖くなって、突っ伏した顔を上げられない。
「……それでもオレは、キミには自分の身体を大切にして欲しい。今すぐ止めて欲しいと思っている」
「あっそ、優しいのね。……だったらさ」
意を決して、顔を上げる。
もう嫌われることは分かっているんだ。
だったら最後に、一度彼に言ってみたかったことを言おう。
「あなたが私の寂しさを埋めてくれないかしら?」
視線の先、黄金色の瞳が動揺で大きく揺らいだことに、私は他人事のように自嘲した。
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