豪炎寺の幼馴染。真顔でボケをかます性格。
2:お守り
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フロンティアスタジアムに行くにはバスと電車を乗り継いで行く。車だとそう離れた距離でもないが、公共交通機関を使って行くとなると少々面倒な場所にあった。少し早く着いたので、待ち合いのベンチに座ってバスを待った。平日には長い列ができるバス停も、休日の早朝では人がまばらだった。
「じゃあ、中学校入ったらサッカーと高飛びどっちがやりたい?」
「サッカー!」
「あーん負けた。ショック」
大げさに、わざとらしく顔を覆う。それを見た夕香ちゃんはあたふたと小さな手を空中に彷徨わせた。
「でもでも!今度千晴おねーちゃんの飛ぶとこ見たらやりたいって思うかも!」
「ほんと?」
「うん!だから来週の大会、お兄ちゃんといっしょに観に行くね!」
「よーし、じゃあお姉ちゃんはりきっちゃうぞ」
「ゼッタイ一番になってね!」
「い、いちば……う、うん、頑張る。頑張って一番目指す」
少しふざけただけにしては痛すぎる反撃を食らった。このまっすぐな目に見つめられて、必ずゴールを決めてみせると約束できる修也の強さを思い知った。今の私の実力では、入賞できれば十分以上の御の字だ。一番なんて恐れ多いことこの上ない。
弱気で曖昧な返事だったが、夕香ちゃんにとってはイエスと言ったことに変わりないらしい。「じゃあまたお守り買ってこなきゃ! 」と楽しそうに目を輝かせた。
「お守り?」
「うん!昨日お兄ちゃんにもあげたんだ。かっこいいシュート決めて勝つって約束したの」
鞄の中に入れた不恰好な包み紙が思い浮かんだ。
間に合いはした。間に合いはしただけで出来は良くない。
「千晴おねーちゃんはあげないの?お守り」
「え、なんで」
見透かしたかのような夕香ちゃんの言葉に思わず顔が引きつった。
本当に間 に 合 っ た という結果しかないだけの酷さだった。心の歪 さがそれがそのまま形になったかのような。
私は物がうまくいかないと、どうもネガティブな考え方に拍車がかかる性分だ。た だ の 幼馴染なのに渡すのは変だろうかとか、あの後修也はあの人と何を話したんだろう、とか。もしかして告白したんじゃないか、と飛躍しすぎな考えを振り払いながらの作業だった。何やってるんだ私、と自嘲しながら手を止めた頃にはカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。とりあえず鞄の中には入れたものの、そこから取り出す気にはあまりなれなかった。
「いっぱいあったほうが、お兄ちゃんいっぱい頑張れると思うから」
夕香ちゃんは地面につかない足を見つめながら、ブランコを漕ぐようにぶらぶらと揺らした。
「少し前にね、お兄ちゃんにナイショでお父さんといっしょに買いに行ったの。本当はみんなで行きたかったけど、お兄ちゃんその日も練習だったから。またサッカーか、ってお父さんちょこっと怒ってた。呆れてたって言うのかな……でもね、お父さんもお兄ちゃんにゴール決めてほしいって言ってたんだよ」
お父さんの勝也さんは多忙な人だ。医者で、真面目な人だから、昔から仕事で忙しそうにしていた。それでも小さい頃は家族四人で過ごしているところをよく見かけたけれど、奥さんである二人のお母さんを亡くしてからは、それを忘れるように余計に仕事にのめり込んでいるようだった。
寂しくないわけがない、と思う。まだ小学校に上がったばかりで、母親はおろか父親すら近くに居てくれないのは。はっきりと態度に出されたことはないけれど、それはきっと修也も同じはずだ。そんな家族が何か繋がれるものがあるのなら。それが修也のサッカーだとしたら。
髪型を崩さないように夕香ちゃんの丸っこい頭を撫でる。夕香ちゃんは不思議そうに私を見上げたけれど、またパッと咲くような笑顔を見せた。
「だから、お兄ちゃんは夕香のぶんと、お父さんのぶんと、あとフクさんのぶんと、千晴おねーちゃんのぶんで4点決める!」
「私の分も?」
「そうだよ! だってお守りあげるんでしょ?」
ミサンガを贈ろうと思ったきっかけは、勝ってほしい、活躍してほしい、という願いがあったからだ。それがいつの間にか本来の願いをどこかに置き忘れて、自分の気持ちばかり考えていた。
今更都合がいいけれど、渡す時にもう一度ちゃんと願いをかけよう。
修也が活躍して、勝ってくれますように、と。
それに、切れたら願いが叶うのがミサンガだ。ある意味、出来が悪くてもいいのかもしれない。すぐに切れれば、それは願いが叶ったってことだから。初めてのことだし、きっと修也も笑って受け取ってくれるはず。
「スタジアム着いたら、修也探さないとね」
「うん!お兄ちゃんもきっと喜ぶと思う!」
「……だといいな。4点取って勝ってもらわないとだし」
私たちは顔を見合わせて、ふふ、と笑った。
結局、私たちは修也の活躍を見るどころか、バスに乗る事さえ叶わなかった。時間に遅れていたバスより先に、中型のトラックがバス停に突っ込んだからだ。
衝撃でどこかに飛ばされたのか、事故後に返してもらった私物の中に不恰好な包み紙とその中身は入っていなかった。
「じゃあ、中学校入ったらサッカーと高飛びどっちがやりたい?」
「サッカー!」
「あーん負けた。ショック」
大げさに、わざとらしく顔を覆う。それを見た夕香ちゃんはあたふたと小さな手を空中に彷徨わせた。
「でもでも!今度千晴おねーちゃんの飛ぶとこ見たらやりたいって思うかも!」
「ほんと?」
「うん!だから来週の大会、お兄ちゃんといっしょに観に行くね!」
「よーし、じゃあお姉ちゃんはりきっちゃうぞ」
「ゼッタイ一番になってね!」
「い、いちば……う、うん、頑張る。頑張って一番目指す」
少しふざけただけにしては痛すぎる反撃を食らった。このまっすぐな目に見つめられて、必ずゴールを決めてみせると約束できる修也の強さを思い知った。今の私の実力では、入賞できれば十分以上の御の字だ。一番なんて恐れ多いことこの上ない。
弱気で曖昧な返事だったが、夕香ちゃんにとってはイエスと言ったことに変わりないらしい。「じゃあまたお守り買ってこなきゃ! 」と楽しそうに目を輝かせた。
「お守り?」
「うん!昨日お兄ちゃんにもあげたんだ。かっこいいシュート決めて勝つって約束したの」
鞄の中に入れた不恰好な包み紙が思い浮かんだ。
間に合いはした。間に合いはしただけで出来は良くない。
「千晴おねーちゃんはあげないの?お守り」
「え、なんで」
見透かしたかのような夕香ちゃんの言葉に思わず顔が引きつった。
本当に
私は物がうまくいかないと、どうもネガティブな考え方に拍車がかかる性分だ。
「いっぱいあったほうが、お兄ちゃんいっぱい頑張れると思うから」
夕香ちゃんは地面につかない足を見つめながら、ブランコを漕ぐようにぶらぶらと揺らした。
「少し前にね、お兄ちゃんにナイショでお父さんといっしょに買いに行ったの。本当はみんなで行きたかったけど、お兄ちゃんその日も練習だったから。またサッカーか、ってお父さんちょこっと怒ってた。呆れてたって言うのかな……でもね、お父さんもお兄ちゃんにゴール決めてほしいって言ってたんだよ」
お父さんの勝也さんは多忙な人だ。医者で、真面目な人だから、昔から仕事で忙しそうにしていた。それでも小さい頃は家族四人で過ごしているところをよく見かけたけれど、奥さんである二人のお母さんを亡くしてからは、それを忘れるように余計に仕事にのめり込んでいるようだった。
寂しくないわけがない、と思う。まだ小学校に上がったばかりで、母親はおろか父親すら近くに居てくれないのは。はっきりと態度に出されたことはないけれど、それはきっと修也も同じはずだ。そんな家族が何か繋がれるものがあるのなら。それが修也のサッカーだとしたら。
髪型を崩さないように夕香ちゃんの丸っこい頭を撫でる。夕香ちゃんは不思議そうに私を見上げたけれど、またパッと咲くような笑顔を見せた。
「だから、お兄ちゃんは夕香のぶんと、お父さんのぶんと、あとフクさんのぶんと、千晴おねーちゃんのぶんで4点決める!」
「私の分も?」
「そうだよ! だってお守りあげるんでしょ?」
ミサンガを贈ろうと思ったきっかけは、勝ってほしい、活躍してほしい、という願いがあったからだ。それがいつの間にか本来の願いをどこかに置き忘れて、自分の気持ちばかり考えていた。
今更都合がいいけれど、渡す時にもう一度ちゃんと願いをかけよう。
修也が活躍して、勝ってくれますように、と。
それに、切れたら願いが叶うのがミサンガだ。ある意味、出来が悪くてもいいのかもしれない。すぐに切れれば、それは願いが叶ったってことだから。初めてのことだし、きっと修也も笑って受け取ってくれるはず。
「スタジアム着いたら、修也探さないとね」
「うん!お兄ちゃんもきっと喜ぶと思う!」
「……だといいな。4点取って勝ってもらわないとだし」
私たちは顔を見合わせて、ふふ、と笑った。
結局、私たちは修也の活躍を見るどころか、バスに乗る事さえ叶わなかった。時間に遅れていたバスより先に、中型のトラックがバス停に突っ込んだからだ。
衝撃でどこかに飛ばされたのか、事故後に返してもらった私物の中に不恰好な包み紙とその中身は入っていなかった。