豪炎寺の幼馴染。真顔でボケをかます性格。
オニキスの両翼
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星のない夜の空を
「これはね、オニキスって言う宝石なんだ。昔は魔除けに使われてたんだよ」
「まよけ?」
「悪いものを追い払うってことさ。君にはまだ難しいかな」
母親に連れられて入った宝石店でその名前を知った。
入店して早々若い女性店員と話し込んでしまった母の手を放し、フラフラと店内をうろついていた私の足を止めた黒い宝石。それに食い入るように見つめる私を見かねてか、あるいは幼い子供が商品に悪さしないようにとの監視のためか、初老の店員はその宝石のことを丁寧に語ってくれた。
当時小学校に上がったばかりの私では細かなところまでわからなかっただろうに、取り憑かれたように熱心に聞いていたと後に母は言っていた。その時の母の目的は友人の安産祈願のための宝石だったので、買えないと言うとぐずられて大変だったと今でも事あるごとに愚痴られる。「大きくなったら買いにおいで」という店員さんの言葉でその場は収まったらしいが、残念ながら黒い宝石に魅入った事以外の都合の悪いことはすっかり忘れた。
その買いもしなかったパワーストーンの効果が発揮されたのは、母がブレスレットを贈った友人──幼馴染の修也のお母さん──が2回目の出産を無事に終え、妹の夕香ちゃんが生まれ、母の祈りも虚しく修也のお母さんが亡くなって、彼女を失った傷もある程度塞がってしばらく経った頃だった。
小学校に上がった頃から修也と二人で通い始めたサッカースクールの帰り道。学校のことや友達のことを途切れなく喋る私と、時折返事をする程度でほとんど聞き役の修也、といういつもの光景に割って入るように自転車が前から来た。
学校の制服を着た女の人だった。修也の視線がまっすぐに彼女を見つめて、それからハッとして頭を下げた。私の知らない人だった。母親がいなくなり、父親も多忙で家にいない事が多い豪炎寺家を母が心配して、私と修也は学校外でもできるだけ一緒にいるようにと言い聞かせられていたから、修也が知っていて私の知らない人がいることに驚いた。
挨拶した修也に気づいたのか、女の人は微笑んで自転車を止め、私たちに──正確には修也に手を振った。綺麗な人だった。夕焼けに反射して長い髪がきらきら光った。
「気をつけて帰るんだよー」
「はい、ありがとうございます」
丁寧にもう一度頭を下げた修也にならって私も頭を下げかけて、止めた。それが失礼な事だと知っていたのに、なぜだかしたくなかった。彼女は楽しそうに笑って(それがまた不快に思えた、)じゃあねと言って去っていった。
「知り合い?」
彼女の後ろ姿が小さくなってもなおその背中を見つめて一向に歩き出そうとしない修也に苛立って、投げやり気味に聞いた。
「いや、全然。前にクラブで飛ばしたボール拾ってくれた事があるだけで、名前も知らない。……でも、そのあとも時々見かけるし、監督の知り合いとかクラブの人なのかも……」
普段口数が多い方ではないのに修也の口からすらすらと滑り出る私の知らない女の人の話は、何か不確かで不気味な呪文でも唱えているように聞こえた。
知らない女の人の話なんて聞きたくなかった。いつもなら拾ってくれる私の苛立ちに気づかないで、熱心に誰かを見つめる修也なんて見たくなかった。何よりそんな小さなことがこんなにも嫌になる自分が嫌で。
体の中が
私の心臓の中の汚い心が腐って泥になって、どんどん膨れ上がって
もう聞きたくない、やめて欲しいと叫び出す一歩手前で、ふと頭によぎったのはあの鈍い光を放つオニキス。魔除けの石。邪気を祓い悪霊から身を守る石。同じ黒に埋まるのならあっちの黒がいい。そう思ったら体の中の泥は冷えて固まって、まるで自分が石膏像になったかのように体が重たくなった。それでも、泥に飲まれるよりは動けるだけまだずっとマシだった。
「修也、ごめん。お母さんに用事頼まれてたの忘れてた。今日は先に帰るね」
笑えていたかどうかまでは定かではない。とにかくその場から逃げ出したくて、逃げ出さなくては自分が
翌日、修也に昨日の逃走について聞かれたが、何でもないと言い張った。
ただ、その時に中学に上がったらサッカーはやらないことに決めた。
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