君に煩う
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名前変換佐久間に一目惚れした雷門女子。
残念美人。染岡曰く喋らなきゃそれなり。
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春が来た。確かに今は4月だけれど、そういう物理的な話ではなくて。
事の発端は母が返却し忘れた図書館の本だった。
学校から帰ってきたら机の上に「仕事入れたの忘れてたから返しといて!」と走り書きのメモと料理の本が数冊置いてあった。「ハァ( ゚д゚)?自分で返してきてよ!」とその下に書いてから、本だけ鞄に詰め込んで制服のまま家を出た。返却期限を忘れていた母が悪いが、図書館の本は期限内に返さなくては他の人に迷惑がかかる。他人に迷惑をかけてはいけない、とは母の教えだ。母の失態は娘がカバーしてやらねばなるまい。
家から一番近い図書館でも電車で4駅も離れている。出る前に一言文句を残して行きたくなるのも無理もない距離だ。ちょうど帰宅時間に重なってしまったので、車内はそこそこ人が多かった。お疲れ気味のくたびれたサラリーマン達に混じって外をすごい勢いで流れていく景色をぼんやりと眺めていた私の視線は、車両を移ってきた一人の男の子に奪われてしまった。
女の子かと思った。まつ毛が長くて髪が綺麗で、何より美人さん。制服がズボンじゃなかったら間違いなく間違えていた。
その子が私のいる車両に移ってきた時に、一瞬だけ、本当に一瞬だけだったと思うけど、目が合った。琥珀色の瞳に撃ち抜かれた。本当に心臓に穴が開いたんじゃないかと思うくらい心臓がバクバクした。なんだかすごく恥ずかしくなって、慌てて視線を外に向けた。向けたけれど、景色なんて何も頭の中に入って来なかった。さっきの子の琥珀色の瞳だけが、頭の中でぐるぐる回っていた。
その後はもう駄目だった。返却中も上の空、帰宅途中も上の空、夕飯の最中も上の空、もっと言うなら翌日の授業中まで上の空だった。流石におかしいと思ったのか、休み時間に隣の席のマックスが訝しげに聞いてきた。
「なんかあったの?」
「えっ、あー、んー、いや、なんでも」
「絶対なんかある間じゃん今の。誤魔化す気ある?」
「ん?んー……え、何だっけ?」
「ダメだこりゃ」
わかってるわかってる。ダメなんだよ、ホント。昨日あの目を見た時からおかしいんだよ。心臓をあの電車の中に落っことしてきちゃったんだ。あわよくばあの子が拾って届けてくれないかと思ってるくらいには頭がおかしくなってるんだ。
「じゃあ当てよう。ずばり好きな人ができたんでしょ?」
「なっ!? え? いや、な、なんで!?」
「うわぁ図星だ」
焦って返すとマックスは驚いたように身を引いた。何も聞かれていないのに、今まで一目惚れなんてした事なかったし誰彼構わず好きになっちゃうような惚れっぽい性格でもないよ!これが初めてだから自分でも困ってるんだ!と、言い訳を並べたくなった。
「誰?このクラスの人?」
「い、言わない」
「あれ、じゃあ好きな人ができた事は認めるのか」
「えっ、何、私今誘導尋問に引っかかったの!?」
「いいからいいから。良いじゃん名前くらい教えてよ。誰にも言わないからさ。イニシャルだけでもいいけど」
「名前……」
その時になって初めて、私は自分が置かれている立場がいかに前途多難であるか思い至った。
「知らない……」
「はぁ?」