ハロウィンと小さなリンゴ
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ルーカスと付き合い始めてから、初めて迎えるハロウィンの夜。ティナは今日、ベイカー家のハロウィンパーティーへと招かれていた。何度か遊びに来たことのあるルイジアナの邸宅は今夜ばかりはいつもと違い、ハロウィンらしい華やかさと温かい手作りの装飾で彩られていた。
ダイニングと隣り合う広いリビングの二部屋には、至るところに可愛い蜘蛛の巣やジャック・オー・ランタン、色鮮やかなカボチャの飾りが散りばめられている。部屋の隅でふわりと温かな光を灯すルームキャンドル。お菓子の詰まったバスケットがあちこちに置かれ、どれも本格的な手作りの温もりに満ちていた。
みんなで賑やかにゲームを楽しみ、心ゆくまで談笑した後は、待ちに待ったディナーの時間だ。マーガレットはティナのために腕を振るい、テーブルから溢れんばかりの品数のご馳走を用意してくれていた。ベイカー家の温かい歓迎に、ティナは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
「マーガレットさん、このミートローフすごく美味しいです!」
「本当? あら嬉しいわ。遠慮なんてしないで、たくさん食べていってちょうだいね」
ご馳走がズラリと並んだテーブル。ティナはマーガレット自慢の料理を口いっぱいに頬張り、幸せそうに頬を緩ませた。ティナの両隣にはルーカスとゾイが並び、向かい側にはジャックとマーガレットが満足そうに座っている。嬉しそうに笑うティナの隣で、ルーカスは頬杖をついたまま、不機嫌そうにフォークで自分のミートローフをボロボロと解体していた。
「それにしても、さっきのゲームの時のティナは本当に面白かったよね。顔ごとバケツに突っ込んで、服がビショビショになるまで本気になっちゃってさ」
ゾイがクスクスと笑いながら、ディナーの前に行われた『アップルボビング(水に浮かべたリンゴを口だけで食いつくゲーム)』の思い出を語る。せっかくのハロウィンだからと彼女が提案したゲームだったが、ジャックもマーガレットもまるで童心に帰ったかのように大はしゃぎしていた。
「でも、ゾイの服が借りられて良かったわねぇ。私の服じゃちょっと地味で趣味に合わなかったでしょう?」
「ハハハッ! そりゃそうだ! それにしてもティナ、今日はうちに来てくれてありがとうな。まだまだゆっくり楽しんでいってくれ」
ジャックは大きな声で豪快に笑い、ティナに向かって温かい眼差しを向けた。
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます! 本当に素敵なパーティーで、すごく楽しいです」
「ねぇ、もう夜も遅いし、いっそのこと今夜は泊まっていったら? ルーカスも、絶対にその方が嬉しいでしょ?」
ニヤニヤしながら話すゾイの言葉に、ルーカスのフォークを動かす手がピタリと止まった。自分を完全に置き去りにして話を進める4人を、彼は恨めしそうにジロリと睨みつける。その不器用な視線に気づいたティナは、照れくさそうに肩をすくめてはにかんだ。
「でも……急にお邪魔したら、ご迷惑じゃないですか?」
「迷惑だなんて思うわけないじゃないの。私たちは大歓迎よ?」
「ああ、その通りだマーガレット。ティナさえ良ければ、ずっとうちに居てくれたって構わんのだぞ?」
「おいおい……いい加減にしてくれよ、ったく……」
「そんなこと言って嬉しいくせに。本当、ルーカスには勿体なさすぎるくらい良い子だよね」
「……っせぇな! 黙って飯食えよ! ……おいティナ、もう食ったろ? 部屋行くぞ!」
ガタッと激しい音を立てて椅子から立ち上がったルーカスは、隣で呆然としていたティナの手を力任せに掴むと、冷やかしの声を振り切るようにしてさっさとダイニングを飛び出した。
「あ、ルーカス待って! ご、ごちそうさまでした!」
腕を引っ張られながら、ティナは閉じかけのドアの隙間から慌てて感謝を伝える。テーブルに残された三人が、温かい笑顔でヒラヒラと手を振って見送ってくれるのが見えた。
ルーカスはティナの手を固く握りしめたまま階段を駆け上がり、昔使っていた子ども部屋へと彼女を引き入れた。バタンと乱暴に扉を閉めると、そこらにあった木製の椅子を引きずり寄せ、ドアノブに斜めに立てかけて固定してしまう。
「はぁ〜……マジでめんどくせぇ。あいつら、余計なことばっか言いやがって……」
「ふふ、ルーカスの家族ってみんな本当に仲良しなんだね」
「どこがだよ。ただ鬱陶しいだけだろ?」
「またそんなこと言って……ねぇ、ここってルーカスとゾイさんの部屋?」
「ガキの頃のな。今は滅多に使ってねぇけど……まあ、広い方が都合が良いだろ」
「あ! すごい、大きなワニのぬいぐるみ!」
初めて入る幼少期の兄妹部屋を見回していたティナは、真っ先に目に入った大きなワニのぬいぐるみに目を輝かせた。少し年季が入っていて所々の縫い目がほつれているが、つぶらな瞳が酷く愛らしい。ルーカスはぬいぐるみの方へ歩き出そうとする彼女の腰を、後ろから容赦なく抱きすくめた。そのまま引きずるようにしてベッドへ倒れ込み、自分の上に彼女を乗せるようにして座らせる。
「きゃっ……! くすぐったいよ、ルーカス」
笑って身をよじるティナの言葉を完全に無視し、ルーカスは彼女の細い身体をぎゅっと力強く抱きしめた。首元に顔を埋め、彼女の甘い匂いを肺いっぱいに深く吸い込む。
「ぬいぐるみなんかどうでもいいだろ……俺のこと構えよ」
「あらあら、今日のルーカスは一段と甘えん坊さんだね?」
「……うっせぇ」
ティナがわざとらしくよしよしと優しく頭を撫でるとルーカスは不貞腐れながらも満更でもないと言った表情をこぼす。しばらくして二人はベッドの上でゆっくりと向き合い、自然と抱き合い直した。そして互いの体温を感じながらそっと唇を重ね合わせる。一度、二度と深く熱いキスを交わすと、ルーカスの大きな手が吸い寄せられるようにティナの細い腰元へと滑り落ちていった。『やっと、邪魔者なしで二人きりになれた』――そう口の中で呟く彼の声が酷く甘い。
「あ、だめ……ルーカス、下におじさん達がいるのに……」
「ちょっと触るくらい良いだろ。ほら、手ぇ退けろよ……」
「んっ……もう……っ」
シャツの裾から忍び込んできた彼の冷たい指先が、肌を確かめるように滑らかに撫で上げていく。ダメと言いながらも頬を真っ赤に染めたティナは、身をよじりながら彼にしがみついた。下唇を甘噛みするようにして何度も口付けを繰り返し、ルーカスの行動はどんどん情熱を増していく。彼女が羽織っていた大きめのカーディガンを脱がそうと肩に手をかけた時、ルーカスはそのポケットに「何か重いもの」が入っていることに気づいて手を止めた。
「ん?……なんだこれ、何入れてんだ?」
「あ……これ? さっきのアップルボビングで取ったリンゴだよ」
「は? なんでそんなもんポケットに突っ込んでんだよ」
「だって……せっかく一回で取れたから、大事にしたくて」
そう言ってティナは、ポケットから小さな赤いリンゴを取り出し、ルーカスに見せた。そのツヤツヤとした丸い表面には、彼女が水の中から懸命に咥え上げた時についた、小さな可愛らしい歯型が刻まれていた。
「大事って……ただのリンゴだろ?」
「ルーカス、知らないの? アップルボビングの言い伝え」
「言い伝え?」
ふふ、と照れくさそうに笑いながら、ティナはそっと教えてあげた。それは、水に浮かぶリンゴを口だけを使い一発で射止めた未婚の女性は、近いうちに生涯の伴侶を得て、次の結婚が許される――という、古いロマンティックな言い伝えだった。
「私……ルーカスと、ずっと一緒にいたいから……」
ぽつりと、消え入りそうな声で紡がれた愛しい告白。ティナは願いを込めるように、歯型のついた小さなリンゴを両手で優しく包み込んだ。こんな乙女チックなジンクスを真に受けている自分を、彼はバカにして笑うだろうか。そう思いながら、恐る恐るルーカスの顔を見上げた。視線の先にあるルーカスの顔は驚いたように目を見開き、どこか呆れたような、そしてたまらなく嬉しそうな不思議な表情を浮かべていた。しばらくの間、無言で見つめ合っていた二人だったが、どちらからともなく可笑しそうに笑いがこぼれた。
「……ティナ、お前、可愛すぎなんだよ……ッ」
ルーカスは照れ隠しに乱暴に髪を掻き回すと、リンゴを握しめる彼女の小さな手を、自分の大きな手で丸ごと包み込んだ。そして、心底愛おしそうに目を細めてくしゃりと笑う。
「まあ……そんな心配すんなって。リンゴのジンクスなんかに頼らなくたって、俺はお前を絶対に離さねぇから」
自信満々に、けれどどこか照れくさそうに紡がれたその言葉。
ティナは胸が甘く締め付けられるような愛しさに包まれ、二人の体温でじんわりと温かくなった小さなリンゴを、そっとベッドの脇へと置いた。秋の夜の静けさの中、二人はどちらからともなく再び引き寄せ合い、今度は永遠を確かめ合うような深い口づけを交わすのだった。
end.
ダイニングと隣り合う広いリビングの二部屋には、至るところに可愛い蜘蛛の巣やジャック・オー・ランタン、色鮮やかなカボチャの飾りが散りばめられている。部屋の隅でふわりと温かな光を灯すルームキャンドル。お菓子の詰まったバスケットがあちこちに置かれ、どれも本格的な手作りの温もりに満ちていた。
みんなで賑やかにゲームを楽しみ、心ゆくまで談笑した後は、待ちに待ったディナーの時間だ。マーガレットはティナのために腕を振るい、テーブルから溢れんばかりの品数のご馳走を用意してくれていた。ベイカー家の温かい歓迎に、ティナは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
「マーガレットさん、このミートローフすごく美味しいです!」
「本当? あら嬉しいわ。遠慮なんてしないで、たくさん食べていってちょうだいね」
ご馳走がズラリと並んだテーブル。ティナはマーガレット自慢の料理を口いっぱいに頬張り、幸せそうに頬を緩ませた。ティナの両隣にはルーカスとゾイが並び、向かい側にはジャックとマーガレットが満足そうに座っている。嬉しそうに笑うティナの隣で、ルーカスは頬杖をついたまま、不機嫌そうにフォークで自分のミートローフをボロボロと解体していた。
「それにしても、さっきのゲームの時のティナは本当に面白かったよね。顔ごとバケツに突っ込んで、服がビショビショになるまで本気になっちゃってさ」
ゾイがクスクスと笑いながら、ディナーの前に行われた『アップルボビング(水に浮かべたリンゴを口だけで食いつくゲーム)』の思い出を語る。せっかくのハロウィンだからと彼女が提案したゲームだったが、ジャックもマーガレットもまるで童心に帰ったかのように大はしゃぎしていた。
「でも、ゾイの服が借りられて良かったわねぇ。私の服じゃちょっと地味で趣味に合わなかったでしょう?」
「ハハハッ! そりゃそうだ! それにしてもティナ、今日はうちに来てくれてありがとうな。まだまだゆっくり楽しんでいってくれ」
ジャックは大きな声で豪快に笑い、ティナに向かって温かい眼差しを向けた。
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます! 本当に素敵なパーティーで、すごく楽しいです」
「ねぇ、もう夜も遅いし、いっそのこと今夜は泊まっていったら? ルーカスも、絶対にその方が嬉しいでしょ?」
ニヤニヤしながら話すゾイの言葉に、ルーカスのフォークを動かす手がピタリと止まった。自分を完全に置き去りにして話を進める4人を、彼は恨めしそうにジロリと睨みつける。その不器用な視線に気づいたティナは、照れくさそうに肩をすくめてはにかんだ。
「でも……急にお邪魔したら、ご迷惑じゃないですか?」
「迷惑だなんて思うわけないじゃないの。私たちは大歓迎よ?」
「ああ、その通りだマーガレット。ティナさえ良ければ、ずっとうちに居てくれたって構わんのだぞ?」
「おいおい……いい加減にしてくれよ、ったく……」
「そんなこと言って嬉しいくせに。本当、ルーカスには勿体なさすぎるくらい良い子だよね」
「……っせぇな! 黙って飯食えよ! ……おいティナ、もう食ったろ? 部屋行くぞ!」
ガタッと激しい音を立てて椅子から立ち上がったルーカスは、隣で呆然としていたティナの手を力任せに掴むと、冷やかしの声を振り切るようにしてさっさとダイニングを飛び出した。
「あ、ルーカス待って! ご、ごちそうさまでした!」
腕を引っ張られながら、ティナは閉じかけのドアの隙間から慌てて感謝を伝える。テーブルに残された三人が、温かい笑顔でヒラヒラと手を振って見送ってくれるのが見えた。
ルーカスはティナの手を固く握りしめたまま階段を駆け上がり、昔使っていた子ども部屋へと彼女を引き入れた。バタンと乱暴に扉を閉めると、そこらにあった木製の椅子を引きずり寄せ、ドアノブに斜めに立てかけて固定してしまう。
「はぁ〜……マジでめんどくせぇ。あいつら、余計なことばっか言いやがって……」
「ふふ、ルーカスの家族ってみんな本当に仲良しなんだね」
「どこがだよ。ただ鬱陶しいだけだろ?」
「またそんなこと言って……ねぇ、ここってルーカスとゾイさんの部屋?」
「ガキの頃のな。今は滅多に使ってねぇけど……まあ、広い方が都合が良いだろ」
「あ! すごい、大きなワニのぬいぐるみ!」
初めて入る幼少期の兄妹部屋を見回していたティナは、真っ先に目に入った大きなワニのぬいぐるみに目を輝かせた。少し年季が入っていて所々の縫い目がほつれているが、つぶらな瞳が酷く愛らしい。ルーカスはぬいぐるみの方へ歩き出そうとする彼女の腰を、後ろから容赦なく抱きすくめた。そのまま引きずるようにしてベッドへ倒れ込み、自分の上に彼女を乗せるようにして座らせる。
「きゃっ……! くすぐったいよ、ルーカス」
笑って身をよじるティナの言葉を完全に無視し、ルーカスは彼女の細い身体をぎゅっと力強く抱きしめた。首元に顔を埋め、彼女の甘い匂いを肺いっぱいに深く吸い込む。
「ぬいぐるみなんかどうでもいいだろ……俺のこと構えよ」
「あらあら、今日のルーカスは一段と甘えん坊さんだね?」
「……うっせぇ」
ティナがわざとらしくよしよしと優しく頭を撫でるとルーカスは不貞腐れながらも満更でもないと言った表情をこぼす。しばらくして二人はベッドの上でゆっくりと向き合い、自然と抱き合い直した。そして互いの体温を感じながらそっと唇を重ね合わせる。一度、二度と深く熱いキスを交わすと、ルーカスの大きな手が吸い寄せられるようにティナの細い腰元へと滑り落ちていった。『やっと、邪魔者なしで二人きりになれた』――そう口の中で呟く彼の声が酷く甘い。
「あ、だめ……ルーカス、下におじさん達がいるのに……」
「ちょっと触るくらい良いだろ。ほら、手ぇ退けろよ……」
「んっ……もう……っ」
シャツの裾から忍び込んできた彼の冷たい指先が、肌を確かめるように滑らかに撫で上げていく。ダメと言いながらも頬を真っ赤に染めたティナは、身をよじりながら彼にしがみついた。下唇を甘噛みするようにして何度も口付けを繰り返し、ルーカスの行動はどんどん情熱を増していく。彼女が羽織っていた大きめのカーディガンを脱がそうと肩に手をかけた時、ルーカスはそのポケットに「何か重いもの」が入っていることに気づいて手を止めた。
「ん?……なんだこれ、何入れてんだ?」
「あ……これ? さっきのアップルボビングで取ったリンゴだよ」
「は? なんでそんなもんポケットに突っ込んでんだよ」
「だって……せっかく一回で取れたから、大事にしたくて」
そう言ってティナは、ポケットから小さな赤いリンゴを取り出し、ルーカスに見せた。そのツヤツヤとした丸い表面には、彼女が水の中から懸命に咥え上げた時についた、小さな可愛らしい歯型が刻まれていた。
「大事って……ただのリンゴだろ?」
「ルーカス、知らないの? アップルボビングの言い伝え」
「言い伝え?」
ふふ、と照れくさそうに笑いながら、ティナはそっと教えてあげた。それは、水に浮かぶリンゴを口だけを使い一発で射止めた未婚の女性は、近いうちに生涯の伴侶を得て、次の結婚が許される――という、古いロマンティックな言い伝えだった。
「私……ルーカスと、ずっと一緒にいたいから……」
ぽつりと、消え入りそうな声で紡がれた愛しい告白。ティナは願いを込めるように、歯型のついた小さなリンゴを両手で優しく包み込んだ。こんな乙女チックなジンクスを真に受けている自分を、彼はバカにして笑うだろうか。そう思いながら、恐る恐るルーカスの顔を見上げた。視線の先にあるルーカスの顔は驚いたように目を見開き、どこか呆れたような、そしてたまらなく嬉しそうな不思議な表情を浮かべていた。しばらくの間、無言で見つめ合っていた二人だったが、どちらからともなく可笑しそうに笑いがこぼれた。
「……ティナ、お前、可愛すぎなんだよ……ッ」
ルーカスは照れ隠しに乱暴に髪を掻き回すと、リンゴを握しめる彼女の小さな手を、自分の大きな手で丸ごと包み込んだ。そして、心底愛おしそうに目を細めてくしゃりと笑う。
「まあ……そんな心配すんなって。リンゴのジンクスなんかに頼らなくたって、俺はお前を絶対に離さねぇから」
自信満々に、けれどどこか照れくさそうに紡がれたその言葉。
ティナは胸が甘く締め付けられるような愛しさに包まれ、二人の体温でじんわりと温かくなった小さなリンゴを、そっとベッドの脇へと置いた。秋の夜の静けさの中、二人はどちらからともなく再び引き寄せ合い、今度は永遠を確かめ合うような深い口づけを交わすのだった。
end.
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