時給$200の清掃作業
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しかし、清掃が終了するまではここを出してはもらえないのだ。やるしかない。幸い私は綺麗好きだ。掃除は日頃からよくやっているし、手際の良さにも自信があった。
「よし!やってやろうじゃない!ピカピカに綺麗にしてたっぷり報酬もらってやるから!」
そう自身を奮い立たせ用意されていた清掃用具に目をやった。数種類の洗剤、モップ、スポンジ、バケツ、ごみ袋。ゴム手袋とエプロン、マスクや水分補給用の水までも置いてある。
エプロンとゴム手袋とマスクを装着し、入ってきた扉とは反対側の扉の前へ立つ。この先に作業部屋となる研究室があるのだろう。気合を入れ直し、扉を開けるために開閉スイッチを押し込んだ。
「ウグッ!」
扉が開かれた瞬間、突如として鉄臭い強烈な悪臭が鼻腔を埋め尽くした。それはまるで消費期限が切れて腐りきった肉のような臭い。ゾワリと背筋に悪寒が走る。あまりの刺激臭に私はマスクの上から鼻をきつく押さえた。口で息をしていても気持ち悪い。
目の前に広がった赤。部屋は白を基調としているはずなのに、天井も床も壁も真っ赤な色で染められている。まるでバケツいっぱいの絵の具を思い切り投げつけたような感じだ。
「ゲホッ!ううっ……おえっ!」
野太い嗚咽が漏れる。嫌に酸っぱい胃液が口の中に広がる。やばい、吐きそうだ。慌ててマスクを外し置いてあったバケツに吐き戻す。この際全てを出しきってしまおうと胃をひっくり返すつもりで力を入れた。ひとしきり出し終え袖で口元を拭う。そしてもう一度確認するように目線を室内へと戻した。
「ハァッ、ハァッ、なんなの……これは、一体」
涙目になった目で部屋を見渡す。タイル張りの床一面に広がったどす黒い赤。これは絵の具なんかじゃない。血の海の中に浮かぶ小島のように何かの肉片もゴロゴロ転がっている。白い骨らしきものがむき出した塊も存在した。この悪臭には耐えられない。
「マスク、もう1枚あったよね……」
渡された荷物の中から予備のマスクを見つけ、2枚を重ねて着けてみる。少し空気が吸いにくく苦しいが悪臭が体内に入り込むのを少しでも防ぎたかった。
浅い呼吸でできるだけ体内にこの異臭を入れないように作業を始める。それでも強烈な臭いはまるでマスクの繊維に染み込んでいくかのように私の鼻腔に侵食してくる。それは肺にべっとりとへばりついてくるかのようで、一度吸い込めば強烈なムカムカ感が襲った。体中が拒否反応を起こしている。まだ何もしていないのにとてつもない疲労感に襲われた。
それでもこの作業を進めなければ。まずは足元の血溜まりを拭うことにした。水とは違う粘度のある血液。血を見たことがない訳では無いが、この異常な光景を前に改めて身がすくむ。モップ持つ手にグッと力を込め、意を決して血の海へと足を踏み入れた。汚れを絡め取るようにモップを動かすと、新品の真っ白な毛先をたちまち赤く染めあげた。
バケツに水を入れ真っ赤なモップを濯ぐ。申し訳程度にきれいになった毛先をまた血の海へと沈めていく。バケツの水もあっという間に赤く染まるため何度も頻繁に取り換えなければならない。グチュ、グチュ……と不快な音が静かな部屋に響く。長靴の中に水が入った時の音に似ているが、この状況に比べれば長靴の中に水など寧ろ心地良いと感じるかもしれない。
「こんなのいつ終われるんだろう。ずっと気持ち悪いし……頭も痛いし……」
正気を保つためにわざと大きなひとり言を漏らす。黙々とやっていると気が狂いそうだった。
あれからどれだけの時間が経っただろう。この部屋には時計がないせいで時間感覚を失っていた。それでもやっとのこと床の血溜まりは拭き取り終わることが出来た。
次に目についたのは謎の肉塊。ゴミ袋を取り出し、一つ一つ手で取り袋に詰めていく。塊は柔らかくペタペタとしていて、生のステーキ肉のようにも見える。しかし、これが牛か豚か、はたまたそれ以外の物か。とにかくボロボロになりすぎていて何だった物かは特定できなかった。
「今更だけど、ここって一応製薬会社の研究室だよね。こんな地獄みたいな研究があってたまるか!」
持っていた肉片を思い切りゴミ袋の中へ投げ捨てる。ベチャッと潰れた音が響いた。その瞬間、涙が込み上げボロボロと頬に流れ落ちる。
「もうやだ……家に帰りたい……」
怒りと悲しみ、不快と不安、多くの感情が入り混じり頭の中はもうグチャグチャだった。自分の体なのにコントロールが利かない。この地獄のような状況に涙しその場に崩れ落ちてしまった。
「よし!やってやろうじゃない!ピカピカに綺麗にしてたっぷり報酬もらってやるから!」
そう自身を奮い立たせ用意されていた清掃用具に目をやった。数種類の洗剤、モップ、スポンジ、バケツ、ごみ袋。ゴム手袋とエプロン、マスクや水分補給用の水までも置いてある。
エプロンとゴム手袋とマスクを装着し、入ってきた扉とは反対側の扉の前へ立つ。この先に作業部屋となる研究室があるのだろう。気合を入れ直し、扉を開けるために開閉スイッチを押し込んだ。
「ウグッ!」
扉が開かれた瞬間、突如として鉄臭い強烈な悪臭が鼻腔を埋め尽くした。それはまるで消費期限が切れて腐りきった肉のような臭い。ゾワリと背筋に悪寒が走る。あまりの刺激臭に私はマスクの上から鼻をきつく押さえた。口で息をしていても気持ち悪い。
目の前に広がった赤。部屋は白を基調としているはずなのに、天井も床も壁も真っ赤な色で染められている。まるでバケツいっぱいの絵の具を思い切り投げつけたような感じだ。
「ゲホッ!ううっ……おえっ!」
野太い嗚咽が漏れる。嫌に酸っぱい胃液が口の中に広がる。やばい、吐きそうだ。慌ててマスクを外し置いてあったバケツに吐き戻す。この際全てを出しきってしまおうと胃をひっくり返すつもりで力を入れた。ひとしきり出し終え袖で口元を拭う。そしてもう一度確認するように目線を室内へと戻した。
「ハァッ、ハァッ、なんなの……これは、一体」
涙目になった目で部屋を見渡す。タイル張りの床一面に広がったどす黒い赤。これは絵の具なんかじゃない。血の海の中に浮かぶ小島のように何かの肉片もゴロゴロ転がっている。白い骨らしきものがむき出した塊も存在した。この悪臭には耐えられない。
「マスク、もう1枚あったよね……」
渡された荷物の中から予備のマスクを見つけ、2枚を重ねて着けてみる。少し空気が吸いにくく苦しいが悪臭が体内に入り込むのを少しでも防ぎたかった。
浅い呼吸でできるだけ体内にこの異臭を入れないように作業を始める。それでも強烈な臭いはまるでマスクの繊維に染み込んでいくかのように私の鼻腔に侵食してくる。それは肺にべっとりとへばりついてくるかのようで、一度吸い込めば強烈なムカムカ感が襲った。体中が拒否反応を起こしている。まだ何もしていないのにとてつもない疲労感に襲われた。
それでもこの作業を進めなければ。まずは足元の血溜まりを拭うことにした。水とは違う粘度のある血液。血を見たことがない訳では無いが、この異常な光景を前に改めて身がすくむ。モップ持つ手にグッと力を込め、意を決して血の海へと足を踏み入れた。汚れを絡め取るようにモップを動かすと、新品の真っ白な毛先をたちまち赤く染めあげた。
バケツに水を入れ真っ赤なモップを濯ぐ。申し訳程度にきれいになった毛先をまた血の海へと沈めていく。バケツの水もあっという間に赤く染まるため何度も頻繁に取り換えなければならない。グチュ、グチュ……と不快な音が静かな部屋に響く。長靴の中に水が入った時の音に似ているが、この状況に比べれば長靴の中に水など寧ろ心地良いと感じるかもしれない。
「こんなのいつ終われるんだろう。ずっと気持ち悪いし……頭も痛いし……」
正気を保つためにわざと大きなひとり言を漏らす。黙々とやっていると気が狂いそうだった。
あれからどれだけの時間が経っただろう。この部屋には時計がないせいで時間感覚を失っていた。それでもやっとのこと床の血溜まりは拭き取り終わることが出来た。
次に目についたのは謎の肉塊。ゴミ袋を取り出し、一つ一つ手で取り袋に詰めていく。塊は柔らかくペタペタとしていて、生のステーキ肉のようにも見える。しかし、これが牛か豚か、はたまたそれ以外の物か。とにかくボロボロになりすぎていて何だった物かは特定できなかった。
「今更だけど、ここって一応製薬会社の研究室だよね。こんな地獄みたいな研究があってたまるか!」
持っていた肉片を思い切りゴミ袋の中へ投げ捨てる。ベチャッと潰れた音が響いた。その瞬間、涙が込み上げボロボロと頬に流れ落ちる。
「もうやだ……家に帰りたい……」
怒りと悲しみ、不快と不安、多くの感情が入り混じり頭の中はもうグチャグチャだった。自分の体なのにコントロールが利かない。この地獄のような状況に涙しその場に崩れ落ちてしまった。