時給$200の清掃作業
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返済期限は1週間後。金額は10,000ドル。
なぜこんな多額の借金を背負わされることになったのか。それは自分がお人好しだったからだ。上辺だけの友情の涙に騙され、友人の借金の連帯保証人になってしまったのがすべての始まりだった。
友人は厄介な相手から金を借りており、彼らが言うには友人とは一切連絡が取れず、自宅もすでにもぬけの殻。そう、友人は私に多額の借金と裏切りを置き土産に逃げ出したのだ。返済期限を過ぎれば連帯保証人の私もただでは済まない。
自分に残された時間が1秒、また1秒と過ぎ去っていく。もし過去にタイムスリップできたら、あの時の自分に会って忠告しに行きたい。現実逃避をしたいのか私の脳はそんな解決策のない妄想が湧き始めていた。どこか手っ取り早く稼げる高収入の仕事を探さなければ。スマホを片手に求人情報を片っ端から漁った。
「高収入 即日払い 日雇い」
条件を絞り検索をかける。何件か条件とマッチした求人情報が現れ、その中で一際目立つ報酬額の求人に目を奪われた。
「製薬会社の研究施設での簡単な清掃作業。未経験者歓迎……時給$200!?」
あり得ない。絶対にヤバい仕事だ。そう自身の勘が告げる。最近問題になっている闇バイトでもこんな時給設定にはしないだろう。しかし、この仕事が上手く行けばなんとか返せるはず。今自分が地獄へと通じる奈落の淵に立たされている事を思い出す。どっちに転んでも地獄なら、少しでも希望のある方へ。そう思い私は時給$200の清掃作業へ応募した。
求人情報に書かれた住所を頼りにたどり着いたその場所には、見るからに立派な会社という雰囲気を醸し出す建物がそびえ立っていた。さすがは高額時給を提示しているだけはあると言った感じだ。中に入ると製薬会社らしくクリーンで清潔感のある内装。そして微かな消毒液の臭い。受付を済ませると面接のある部屋へと案内された。
部屋についてからの数分後、白衣を着た女性社員が現れた。彼女は私にニッコリと笑顔を向けると、いきなり契約書を差し出してきた。
「内容がよろしければこちらにサインをお願いします」
そう言われペンを渡される。
「あ、あの、面接は……」
「あなたのことは受付の時から見させていただきました。その結果、是非あなたに弊社でお仕事をしていただきたいと思ってます。あとはあなたのお気持ち次第ですので……」
そう言うと女性は契約書に視線向けた。こんな面接の仕方は初めてだ。そう驚きながらも私にこの仕事を辞退する理由なんてない。私は指示された場所にサラサラとサインを書き終えた。契約書を返し女性がそれを受け取る。私の名前を確認すると、彼女はまたニッコリと笑顔を向け話し始めた。
「それではティナさん。さっそく今からお仕事をされますか?」
「は、はい!頑張ります!」
「手荷物や貴重品はこちらのロッカーへお入れください」
私は部屋の隅にあるロッカーへ荷物を入れる。あっさりと仕事が決まりほっと安堵したのも束の間、言いようのない不安感が私の中に芽生えるのを感じた。しかし、その感情について深く考える前に現場へと案内されていく。作業する場所は地下にあり、小型のエレベーターを使って地下3階まで下がっていった。
エレベーターが開くと地上の社内とは違う異質の空気が流れ込む。薄暗い研究施設、冷たいタイル張りの床と無機質な壁が私を出迎えた。
エレベーターを出て長い廊下を歩く間、女性社員は前を向いたまま私に話しかけてきた。
「先ほどの契約書を読まれたかと思いますが、念の為説明させていただきますね。弊社は業務中に従業員、つまりティナさんにとって何かしらのトラブルや不具合が発生したとしても、一切責任を負いませんのでご理解の程よろしくお願いします。業務に必要な物はこちらで全て用意しておりますが、作業のやり方などはお任せしておりますので」
「わ、わかりました。でも仕事内容はお掃除ですよね?トラブルや不具合って……例えばどんなことがあるのですか?」
私の言葉に女性は歩みを止めることなく進み続ける。自分たちの足音しか聞こえないような静かなこの空間で声が届かないことがあるだろうか。もしかして無視されているのか?そう思いもう一度同じ質問をしようとした時、目の前の彼女は歩みを止め、電子扉の前で立ち止まった。
「もちろんお仕事の内容はお掃除ですのでご安心ください。それでは、こちらの部屋になります。必要な物は中に揃えてありますので。どうぞ」
そう言うと彼女はその優しい声色からは想像できない強い力で私の背中を押した。私はよろめきながら扉の向こうへ押し込まれる。咄嗟のことに慌てて振り向いたがそこにはもう彼女の姿はなく、電子扉は固く閉ざされてしまっていた。壁に設置されたインターホンから女性社員の声が響く。
「清掃が終了しましたらこちらのインターホンからお知らせください。こちらで室内の状況を確認した後、解錠します」
「はい……」
私はそう返事をするしかなかった。背中を押された感覚がまだ残っている。インターホンからはもう何も聞こえない。もう戻ることはできない。そう思うと後悔の念が私の心をじんわりと染め始める。