禁忌に触れた指先
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(使うときは立体にするものをよく選ぶように……)
真依子の頭の中に紅子のあの言葉がふと蘇る。大きく開けていた口をそっと閉じ、じっと『立体焼き』を見つめた。
リッカーは大好きな推しだし、もし現実にいてくれたらどれだけ幸せだろうと何度も妄想してきた。けれど、あの恐ろしい生物兵器がそっくりそのままこの場に出てきたとしたら……もし、自分の顔を見た瞬間襲ってきたとしたら……何度もゲームをプレイしリッカーに倒され、ゲームオーバーになった記憶が蘇る。しかしこれは現実だ。ゲームじゃない。もし最悪の結末が待っていたとしたら……ゲームのようにリトライすることなんてできないのだ。
(落ち着いて、よく考えよう……リッカーと安全に触れ合える方法が何かあるはず……)
真依子は必死に知恵を絞り、やがてパッと目を輝かせた。急いでスマートフォンを取り出すと、お気に入りに保存しておいたリッカーのフィギュアの商品ページを開く。
(これだ……! これならずっと欲しかったリッカーのフィギュアを生きた形で手に入れられる!)
画面に映っているのは、精巧に作られた6分の1スケールのフィギュア。サイズは子猫並みに小さい。これなら賃貸アパートのワンルームでも無理なく飼育できるし、万が一のことがあっても抑え込めるはずだ。
覚悟を決め、真依子は『立体焼き』を口に含んだ。香ばしい生地ととろけるような餡の甘みを味わいながら、息を呑んでスマホの画面にそっと触れる。次の瞬間、画面の中のフィギュアが生き物のようにぬめぬめと蠢き、すべり出すように手元へと躍り出た。
「……で、できた!すごい……本当に生きてるんだ……」
目の前に現れたのは、子猫ほどの小さな小さなリッカーだった。まるでペットを飼ってもらった子供のように、真依子の胸は躍った。小さなリッカーは、舌をちろりちろりと揺らしながら周囲を見回すと、突然ぴょんと力強く跳ね上がった。そのままカーテンをスルスルとよじ登り、エアコンの上へと飛び移る。やはり高い場所が好きなのだろうか。バイオハザードの設定資料集が整然と並ぶ本棚の上や、冷蔵庫のてっぺんをぴょんぴょんと軽快に飛び回る姿は、まるでムササビを飼育しているかのようだった。
「か、かわいい……っ!」
真依子は部屋中を縦横無尽に跳び回るリッカーを見つめ、心臓が甘く締め付けられるのを感じた。そのときめきを胸に、急いで衣装ケースをひっくり返す。中に入っていた洋服が床に散乱し、その中から柔らかい古着を選ぶとたっぷりと衣装ケースの底へ敷き詰めた。さらに冷蔵庫から取り出した生の豚肉を小さく切り、小皿に盛って衣装ケースの中へと置く。肉の匂いを察知したのか、エアコンの上にいたリッカーは目にも留まらぬ速さで衣装ケースへと飛び込み、夢中で生肉に食らいつき始めた。
「お腹空いてたんだね?お肉美味しい?」
「リッカー、本当にかわいいね?特にこのお尻とか……ぷりんとしてて堪らない……」
「やっと夢が叶った……これからずっと一緒にいようね?」
ムシャムシャと生肉を食べるリッカーに語りかけるように呟く真依子の表情はまるで慈愛に満ちた母親のようだった。しばらくして皿の上の肉がなくなると、リッカーは満足そうに衣装ケースの中で四肢を伸ばす。そんなリッカーに真依子は恐る恐るゆっくりと手を伸ばした。するとリッカーは真依子の人差し指を見つめ、ぬるりと伸ばした長い舌で指を絡め取り、優しく舐め回し始めた。トクンッと大きく跳ねる心臓。ぶわりと全身を駆け巡る多幸感。まるでキャンディーを舐める子供のような仕草に真依子は完全に表情を溶かしていた。
「ふふっ……リッカー、くすぐったいよ」
その日から、真依子と小さなリッカーの奇妙で愛おしい同居生活が始まった。
リッカーは毎日欠かさず餌を与えてくれる真依子に完全に心を開いているようで、敵意を見せることは一切なく、真依子がソファでくつろいでいると、頭の上にちょこんと乗って懐いているような仕草さえ見せていた。真依子もそんなリッカーが愛おしくて堪らず、少しでも喜んでほしい一心で自分の食事代を削り、スーパーで高価な牛肉や厚切りのステーキ肉を買い与えるようになった。
初めの頃こそ、小皿にちょこんと乗る程度の量で満足していたリッカーだったが、日に日に食べる量は増えていった。やがて小皿に山盛りの肉を乗せなければ、低い咆哮を上げて真依子におねだりをするまでになっていた。そんな可愛い要求を断れるはずもなく、真依子は食事の時間以外にもリッカーに餌を与えていた。
「リッカーは食いしん坊さんだね?今日はお給料が入ったから奮発して、いつものスーパーじゃなくてお肉の専門店で買ったから美味しかったでしょ?」
真依子はそう言うと空になった皿を下げ、毎日のルーティンである食後のスキンシップをしようとリッカーを両手で抱き上げた。
「あれ……?」
ふと、手に伝わる重みとサイズ感に違和感を覚え、真依子はリッカーをまじまじと見つめた。『立体焼き』で取り出した当初は、間違いなく子猫くらいの大きさだったはずだ。それが今や、丸々とした小型犬ほどのサイズにまで大きくなっている。
「ふふっ……でもそれって、私の愛情をいーっぱい受け取ってくれてるってことだもんね? リッカー、大好きだよ」
真依子は愛おしさに溢れた笑みを浮かべ、愛するリッカーをぎゅっと胸に抱きしめた。リッカーもまた、その愛情に応えるかのようにゆっくりと長い舌を伸ばした。ヌルリとした湿り気のある筋肉質の舌が、真依子の首筋へとねっとりと滑り込む。そして、まるで獲物に絡みつく蛇のように、ゆっくりと深く巻きついていった。
end.
真依子の頭の中に紅子のあの言葉がふと蘇る。大きく開けていた口をそっと閉じ、じっと『立体焼き』を見つめた。
リッカーは大好きな推しだし、もし現実にいてくれたらどれだけ幸せだろうと何度も妄想してきた。けれど、あの恐ろしい生物兵器がそっくりそのままこの場に出てきたとしたら……もし、自分の顔を見た瞬間襲ってきたとしたら……何度もゲームをプレイしリッカーに倒され、ゲームオーバーになった記憶が蘇る。しかしこれは現実だ。ゲームじゃない。もし最悪の結末が待っていたとしたら……ゲームのようにリトライすることなんてできないのだ。
(落ち着いて、よく考えよう……リッカーと安全に触れ合える方法が何かあるはず……)
真依子は必死に知恵を絞り、やがてパッと目を輝かせた。急いでスマートフォンを取り出すと、お気に入りに保存しておいたリッカーのフィギュアの商品ページを開く。
(これだ……! これならずっと欲しかったリッカーのフィギュアを生きた形で手に入れられる!)
画面に映っているのは、精巧に作られた6分の1スケールのフィギュア。サイズは子猫並みに小さい。これなら賃貸アパートのワンルームでも無理なく飼育できるし、万が一のことがあっても抑え込めるはずだ。
覚悟を決め、真依子は『立体焼き』を口に含んだ。香ばしい生地ととろけるような餡の甘みを味わいながら、息を呑んでスマホの画面にそっと触れる。次の瞬間、画面の中のフィギュアが生き物のようにぬめぬめと蠢き、すべり出すように手元へと躍り出た。
「……で、できた!すごい……本当に生きてるんだ……」
目の前に現れたのは、子猫ほどの小さな小さなリッカーだった。まるでペットを飼ってもらった子供のように、真依子の胸は躍った。小さなリッカーは、舌をちろりちろりと揺らしながら周囲を見回すと、突然ぴょんと力強く跳ね上がった。そのままカーテンをスルスルとよじ登り、エアコンの上へと飛び移る。やはり高い場所が好きなのだろうか。バイオハザードの設定資料集が整然と並ぶ本棚の上や、冷蔵庫のてっぺんをぴょんぴょんと軽快に飛び回る姿は、まるでムササビを飼育しているかのようだった。
「か、かわいい……っ!」
真依子は部屋中を縦横無尽に跳び回るリッカーを見つめ、心臓が甘く締め付けられるのを感じた。そのときめきを胸に、急いで衣装ケースをひっくり返す。中に入っていた洋服が床に散乱し、その中から柔らかい古着を選ぶとたっぷりと衣装ケースの底へ敷き詰めた。さらに冷蔵庫から取り出した生の豚肉を小さく切り、小皿に盛って衣装ケースの中へと置く。肉の匂いを察知したのか、エアコンの上にいたリッカーは目にも留まらぬ速さで衣装ケースへと飛び込み、夢中で生肉に食らいつき始めた。
「お腹空いてたんだね?お肉美味しい?」
「リッカー、本当にかわいいね?特にこのお尻とか……ぷりんとしてて堪らない……」
「やっと夢が叶った……これからずっと一緒にいようね?」
ムシャムシャと生肉を食べるリッカーに語りかけるように呟く真依子の表情はまるで慈愛に満ちた母親のようだった。しばらくして皿の上の肉がなくなると、リッカーは満足そうに衣装ケースの中で四肢を伸ばす。そんなリッカーに真依子は恐る恐るゆっくりと手を伸ばした。するとリッカーは真依子の人差し指を見つめ、ぬるりと伸ばした長い舌で指を絡め取り、優しく舐め回し始めた。トクンッと大きく跳ねる心臓。ぶわりと全身を駆け巡る多幸感。まるでキャンディーを舐める子供のような仕草に真依子は完全に表情を溶かしていた。
「ふふっ……リッカー、くすぐったいよ」
その日から、真依子と小さなリッカーの奇妙で愛おしい同居生活が始まった。
リッカーは毎日欠かさず餌を与えてくれる真依子に完全に心を開いているようで、敵意を見せることは一切なく、真依子がソファでくつろいでいると、頭の上にちょこんと乗って懐いているような仕草さえ見せていた。真依子もそんなリッカーが愛おしくて堪らず、少しでも喜んでほしい一心で自分の食事代を削り、スーパーで高価な牛肉や厚切りのステーキ肉を買い与えるようになった。
初めの頃こそ、小皿にちょこんと乗る程度の量で満足していたリッカーだったが、日に日に食べる量は増えていった。やがて小皿に山盛りの肉を乗せなければ、低い咆哮を上げて真依子におねだりをするまでになっていた。そんな可愛い要求を断れるはずもなく、真依子は食事の時間以外にもリッカーに餌を与えていた。
「リッカーは食いしん坊さんだね?今日はお給料が入ったから奮発して、いつものスーパーじゃなくてお肉の専門店で買ったから美味しかったでしょ?」
真依子はそう言うと空になった皿を下げ、毎日のルーティンである食後のスキンシップをしようとリッカーを両手で抱き上げた。
「あれ……?」
ふと、手に伝わる重みとサイズ感に違和感を覚え、真依子はリッカーをまじまじと見つめた。『立体焼き』で取り出した当初は、間違いなく子猫くらいの大きさだったはずだ。それが今や、丸々とした小型犬ほどのサイズにまで大きくなっている。
「ふふっ……でもそれって、私の愛情をいーっぱい受け取ってくれてるってことだもんね? リッカー、大好きだよ」
真依子は愛おしさに溢れた笑みを浮かべ、愛するリッカーをぎゅっと胸に抱きしめた。リッカーもまた、その愛情に応えるかのようにゆっくりと長い舌を伸ばした。ヌルリとした湿り気のある筋肉質の舌が、真依子の首筋へとねっとりと滑り込む。そして、まるで獲物に絡みつく蛇のように、ゆっくりと深く巻きついていった。
end.
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