硝子玉の瞳
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今が昼なのか夜なのかすら分からない。時間を告げるものはなく、ただ無機質で冷たい白に支配された空間だった。日に日に増していく薬物の投与。毎回同じ位置へ容赦なく刺されるため、首筋から腕にかけての柔らかな肌は、酷く惨らしく変色してしまっていた。
ティナは真っ白なシーツが敷かれた殺風景なベッドの上に横たわっている。身体を固定する黒光りしたレザーベルトが、息を吸うたびに容赦なく肌へ喰い込んでくるが、そんな痛みにすら慣れてしまった自分に、彼女は心の中で深く苦笑した。その時、静寂を切り裂いて電子ロックの解除音が響き、重厚な扉が開かれた。足音もなく入ってきた黒衣の男は、ベッドの傍らに立つと静かに見下ろしてきた。
「……気分はどうだ?」
「相変わらず、最悪ですよ」
「そうか。それは良かった」
革手袋越しではない、冷たく滑らかな指先がティナの頬を優しく撫で上げていく。その触感に激しい嫌悪を抱き、あからさまに顔を背けた彼女を見て、アルバート・ウェスカーは皮肉めいた不敵な笑みを深めた。今や彼に対して提示できる抵抗など、その程度のささやかな拒絶しか残されていない。
「相変わらずお前の適合データは実に素晴らしい。やはり俺の目に狂いはなかった……。お前には、俺が創り上げる新たな世界に生き残る価値がある」
「……そんな資格も価値もいらない。お願いだから、もう殺して……」
「それは不本意だな。お前には俺の傍らで、誰よりも先に新世界の黎明を見せてやろうというのに」
冷ややかな吐息とともに耳元で囁かれ、そのまま変色した痛々しい首筋に冷たい唇が押し当てられた。ピクリと反射的に身体を跳ね上げさせると、ウェスカーはその反応を確かめるように、さらに深く口づけを落としていく皮膚を強く吸い上げ、時に容赦なく噛みつきながら、彼はティナの屈辱と痛みに満ちた反応を愉しんでいた。
「んっ……ぁ……っ、ハァッ……」
「生意気な口を叩く割に、身体は実に素直だな。……もっと激しく触れてほしいのだろう? ならばその口で、哀れにおねだりしてみてはどうだ?」
挑発するように囁く男の声に、胸の奥からドロリとした憎しみと怒りがこみ上げる。だが、その純粋な拒絶とは裏腹に、打ち込まれ続けた薬物の影響で身体の芯が恐ろしいほどの熱を帯び始めていた。心も魂もこの男を心底拒絶しているのに、抗えぬ生理現象として身体が熱を受け入れてしまう。そんな惨めな自分が嫌で、酷く惨めだった。
「誰が……あんたなんかに……ッ」
「まったく、強情で愚かな女だ。……興が冷めたよ」
漆黑のサングラスの位置を指先で微かに直しながら、ウェスカーは心底失望したように小さく溜め息をついた。そして傍らのステンレスケースから、禍々しい薬液の満ちた一本の注射器を取り出す。
「そろそろ、投薬の時間だ」
「い、嫌っ……! もうやめて……ッ!」
ティナの瞳から、耐えかねた涙が零れ落ちる。ギシギシと皮ベルトを軋ませ、唯一動かすことの許された首を振りながら、彼女は虚しい抵抗を試みた。
「嫌! やめて! 嫌だッ……!」
「暴れるな。あまり動くと針が目に刺さるぞ? ……それでも良いというなら構わんが」
ウェスカーは呆れたように低く呟くと、大きな手でティナの頭部をベッドへ強く押さえつけた。頭蓋骨が押し潰されそうなほどの力に恐怖し、強く目を瞑ると、溜まっていた涙が零れて頬を伝う。首筋の静脈へ、躊躇なく冷たい針が突き刺さった。チクリとした局所的な痛みに続いて、ドクドクと不快な熱が血液に乗って全身の神経へ急速に広がっていく。
「いッ……、ハァッ……ハァ、ハァッ……!」
「俺直々に投与してやっているんだ。少し感謝したらどうだ?」
拘束から解放された頭が重く沈み込む。だが頭の奥には鈍い痛みが残り、視界は熱のせいで白く霞んでいた。荒い息が漏れ、激しい鼓動が肋骨を内側から殴りつける。
「お前はただ、俺の言う通りにしていればいい。ここに横たわり、与えられた運命をただ受け入れろ……簡単なことだろう?」
汗ばんだ彼女の額に冷酷な口づけを落とし、苦しみに喘ぐティナをウェスカーは見下ろす。光を失い、焦点の合わない彼女の瞳はまるで硝子玉のように虚ろで、ただ目の前に立つ絶対的な支配者の影を、絶望とともに映し出すことしかできなかった。
end.
ティナは真っ白なシーツが敷かれた殺風景なベッドの上に横たわっている。身体を固定する黒光りしたレザーベルトが、息を吸うたびに容赦なく肌へ喰い込んでくるが、そんな痛みにすら慣れてしまった自分に、彼女は心の中で深く苦笑した。その時、静寂を切り裂いて電子ロックの解除音が響き、重厚な扉が開かれた。足音もなく入ってきた黒衣の男は、ベッドの傍らに立つと静かに見下ろしてきた。
「……気分はどうだ?」
「相変わらず、最悪ですよ」
「そうか。それは良かった」
革手袋越しではない、冷たく滑らかな指先がティナの頬を優しく撫で上げていく。その触感に激しい嫌悪を抱き、あからさまに顔を背けた彼女を見て、アルバート・ウェスカーは皮肉めいた不敵な笑みを深めた。今や彼に対して提示できる抵抗など、その程度のささやかな拒絶しか残されていない。
「相変わらずお前の適合データは実に素晴らしい。やはり俺の目に狂いはなかった……。お前には、俺が創り上げる新たな世界に生き残る価値がある」
「……そんな資格も価値もいらない。お願いだから、もう殺して……」
「それは不本意だな。お前には俺の傍らで、誰よりも先に新世界の黎明を見せてやろうというのに」
冷ややかな吐息とともに耳元で囁かれ、そのまま変色した痛々しい首筋に冷たい唇が押し当てられた。ピクリと反射的に身体を跳ね上げさせると、ウェスカーはその反応を確かめるように、さらに深く口づけを落としていく皮膚を強く吸い上げ、時に容赦なく噛みつきながら、彼はティナの屈辱と痛みに満ちた反応を愉しんでいた。
「んっ……ぁ……っ、ハァッ……」
「生意気な口を叩く割に、身体は実に素直だな。……もっと激しく触れてほしいのだろう? ならばその口で、哀れにおねだりしてみてはどうだ?」
挑発するように囁く男の声に、胸の奥からドロリとした憎しみと怒りがこみ上げる。だが、その純粋な拒絶とは裏腹に、打ち込まれ続けた薬物の影響で身体の芯が恐ろしいほどの熱を帯び始めていた。心も魂もこの男を心底拒絶しているのに、抗えぬ生理現象として身体が熱を受け入れてしまう。そんな惨めな自分が嫌で、酷く惨めだった。
「誰が……あんたなんかに……ッ」
「まったく、強情で愚かな女だ。……興が冷めたよ」
漆黑のサングラスの位置を指先で微かに直しながら、ウェスカーは心底失望したように小さく溜め息をついた。そして傍らのステンレスケースから、禍々しい薬液の満ちた一本の注射器を取り出す。
「そろそろ、投薬の時間だ」
「い、嫌っ……! もうやめて……ッ!」
ティナの瞳から、耐えかねた涙が零れ落ちる。ギシギシと皮ベルトを軋ませ、唯一動かすことの許された首を振りながら、彼女は虚しい抵抗を試みた。
「嫌! やめて! 嫌だッ……!」
「暴れるな。あまり動くと針が目に刺さるぞ? ……それでも良いというなら構わんが」
ウェスカーは呆れたように低く呟くと、大きな手でティナの頭部をベッドへ強く押さえつけた。頭蓋骨が押し潰されそうなほどの力に恐怖し、強く目を瞑ると、溜まっていた涙が零れて頬を伝う。首筋の静脈へ、躊躇なく冷たい針が突き刺さった。チクリとした局所的な痛みに続いて、ドクドクと不快な熱が血液に乗って全身の神経へ急速に広がっていく。
「いッ……、ハァッ……ハァ、ハァッ……!」
「俺直々に投与してやっているんだ。少し感謝したらどうだ?」
拘束から解放された頭が重く沈み込む。だが頭の奥には鈍い痛みが残り、視界は熱のせいで白く霞んでいた。荒い息が漏れ、激しい鼓動が肋骨を内側から殴りつける。
「お前はただ、俺の言う通りにしていればいい。ここに横たわり、与えられた運命をただ受け入れろ……簡単なことだろう?」
汗ばんだ彼女の額に冷酷な口づけを落とし、苦しみに喘ぐティナをウェスカーは見下ろす。光を失い、焦点の合わない彼女の瞳はまるで硝子玉のように虚ろで、ただ目の前に立つ絶対的な支配者の影を、絶望とともに映し出すことしかできなかった。
end.
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