彼女が赴任したとき、まだ戦艦がいなかった艦隊は、戦力にとぼしかった。しかもだいすきな姉もいないなかで、自分がなにをしたらいいのか、毎日のようになやんでいた。
「…扶桑ねえさま…」
ため息をついたところで、姉がこの艦隊に赴任されてくるわけではないのだが、それでも無意識にでてしまう。提督にたよりにされているのはわかっているが、自分では防御力が不足していることも知っている。
「山城、またたのむよ」
「はっ、はい!」
ぼーっとしていたことに気づいて、すこし気はずかしい。提督はそのことに気づかないのか、気づいていてなのか、見て見ぬふりをしてくれたようだ。
「…山城、この任務が終わったら、ゆっくりときみのおねえさんのこと…聞かせてもらうよ」
「…え?」
「おねえさんが、いるんだろう? …今はむりでも、必ずここに呼んであげるから、それまでの辛抱だ」
「はっ…はい!」
駆逐艦や重巡がおおくて、すこしだけ肩身のせまいこの艦隊。だがそれでも、やっていけるのは……たぶん提督のおかげ。
「て…提督…。提督のこと、ねえさまのつぎに好き…です」
「…はは、ねえさまのつぎか。山城は本当に、おねさんがだいすきなんだな」
そう言って笑ってくれる提督に、山城も、すこしだけ笑顔になる。
「ねえさまは、私の希望ですから…」
「そうか。私には兄弟姉妹や両親がいないからわからないが、家族はだいじにしなさい」
「はい!」
たいせつにすべき家族がいない提督にとっては、艦娘たちが家族だと、いつも言われている。ならば、たいせつにするべき対象は、提督もなのだが。
「ねえさまと提督は、山城がまもります」
「…ありがとう。だがくれぐれも、生きて帰ること。いいね?」
「…はい」
先日島風と赤城が沈んだときの提督のとりみだしようは、艦娘たちのあいだでも話題にあがっていたが。
「生きて…帰ります」
「待っている」
「戦艦・山城、出撃します!」
すこしだけはれた心で、山城は任務へとむかった……。
「やだ、魚雷…? 各艦は私をかえりみず前進して! 敵を撃滅してくださーい!」
あちこちいたむ。おそらく大破だろう。服も、はずかしいくらいにはだけてしまっている。
こんな格好で帰ったら、また提督にいやみを言われそうだが、仕方ない。
「ねえさま…山城、がんばります…」
敵の追撃に、もうだめかと思ったとき。
「軽空母千代田、提督の命により、山城の撤退を援護します!」
「駆逐艦全艦と木曽は、千代田の援護にまわるのですっ!」
「…えっ…?」
「そーゆーわけだから! あなたが千歳おねえじゃなくて残念だけど! ほら、はやく行った行った!」
戦況を見て、中破ていどですんだ艦娘たちを山城の左右に配置し、撤退を決めた。奇跡的に無傷だった千代田は、撤退の前線だ。
「…私なんかのために…ごめんなさい…」
「そういうのは母港に帰投してからよ!」
千代田に背を押されつつ、母港へと帰投した艦娘たちであった。
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山城の話にするつもりが、もはや誰が主役なのやら…( ̄▽ ̄;)
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いろは唄でお題140331