飲み物に口をつけながら、ぽつりぽつりと自分の話しをする
七子につられ、氷河も自分の話しをしていた。
「じゃあ氷河のマーマは、ロシアの人なの?」
「ああ。この髪と瞳は、マーマゆずりなんだ」
氷河がマーマと言っても、すこしも気にした様子がないせいか、すっと言葉がでてくる。
「へー。氷河がこんなイケメンなんだから、おかあさん、きっときれいな人なんだろうね」
「まあ、そうだな。だが、こういう話しはなかなか、他人にはしないんだ。マザコンだとか言われてしまいそうでな…」
2人して苦笑い。
「うん、それはあるかも。私はむしろ、ふつうのことだと思うけど」
どんなにおとなのふりをしても、まだまだ自分たちは子どもなのだ。
「子どもなんだし、親ばなれしてなくてあたりまえって、ひらきなおるわけじゃないんだけど…」
たいせつに思っている人がいるというのはしあわせなことで、かんたんな言葉で切り捨てたり、ばかにしたりするのはおかしいのではないか。
「それに、だれかを想うって、やさしいからできることだもの。すてきなことだと思うよ」
「…そういうきみこそ、やさしいと思うぞ?」
「そう、かな? …ありがとう」
ほめられたら、たとえ自分はそうは思っていなくとも、あいての言葉を否定するのではなくすなおに礼を言いなさい。そう言ったのは、母だったか
歌仙兼定だったか。
「どうしてだろうな。きみと話していると、ふだんなら言わないであろうことまで、話してしまいたくなる気がする」
「氷河が話したいなら、時間のゆるすかぎりは、いくらでも聞くよ?」
「そうか。それはよかった。…だが、これ以上ここにいたら、みなを心配させるかもしれん。そろそろもどろう」
話しをしたいだけなら、本丸に帰ってからでもできるのだから、心配をかけるのはよくない。
「そうだね。もどろっか」
堀川のところへもどりながら、心配させたくないから、迷子になったところにたまたま氷河がとおりかかったことにしてほしい。そうつげる。
「ああ、わかった」
「堀川ちゃん、あれでかなり心配性なんだ…」
「ふ、たしかに、そんな感じがするな」
「相方の兼さんも、なかなかの心配性だけど」
苦笑いのなかにも、たしかな愛情が感じられて、聞いている自分までしあわせな気持ちになるようだ。
「迷子になったってだけでも、また心配されちゃいそうだよ…」
「はは、それはきっと、ふだんから迷子になっているからじゃないか?」
「うう、たしかに、そうなんだけど…」
そんなにいつもいつも迷子になっているわけでもないのだから、いい加減、なれてほしいと思わなくもない。
「本当に、だいじにされているんだな」
「もともとは『物』だから、だいじにされればされただけ、おなじものをかえしたくなるんだって」
「なるほど」
氷河が思わず納得したところで、堀川が見えてきて、2人の会話は1端とぎれた──。
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お題配布元:
星明かり