「ん? きみはたしか、
七子さん…だったか…?」
「あ、紫龍さん…。よかったです、知り合いに会えて…」
ぽやーんとはしているのだが、変なところで運がいいのが
七子という審神者である。迷子だという不安もあったのか、紫龍の顔を見て、すこしだけほっとしたような表情をする。
「堀川さん、だったな。彼と、いっしょにいたのではないのか? 今は、1人のようだが…」
「じつは、1人でお手洗いに行くついでに、しっかり迷子になっちゃいました。だれもいないし、こまってたんです」
真顔でそうかえされて、紫龍はただ、ポカーンとした表情だ。
「ここはきみにとって、なれた店なんじゃないのか…? いつも、きているのだろう?」
「いえ、まあ、そうなんですが…」
くるたびにさまがわりしてるので、なれたようでいて、実はなれていないのがここよろず屋なのである。すこしだけいつものルートからはずれたら最後、みごとに迷子になるのだから、こまりもの。
「なるほど、きみは、結構おもしろい人だったのだな。まじめな人かと思っていたが…」
「私は、いたって大まじめのつもりなんですが…」
ふだんはしっかりしているのに、こうしたことをよくやる。そのために、刀剣男士たちにもよく天然認識をされてしまう。本人はまったくもって、大まじめにぼけている。というか、ぼけているつもりなど、これっぽっちもないのだが。
「天然か。なるほど、たしかに、そんな感じがする。すなおという意味では、とてもいいことだと思うが」
「天然なんじゃなくて、ときどき、ちょっとばかりぬけてるだけですよ?」
「いや、それを自分では言ってしまってはだめだろう? よけいに、天然と言われるぞ?」
「そ、そうですか? そっか、そうなんだ…。だから、天然だって決めつけられるんですね…」
それだけではないだろう、と思い、思わず笑いそうになる。だが失敗して、すこしだが笑っている紫龍に、苦笑をかえす。
「ところで、きみを追ってきていた男は、知り合いなのか? 俺を見て、あわてて去っていったように見えたが…」
「あ、やっぱり…。いえ、たぶんちがいます。お手洗いからずっと、あとをつけられているような気がして、さまよっていて迷子になったので…。でも、紫龍さんがいてくれて、ほんとにたすかりました」
笑顔をむけられ、かるく目をみはるが、すぐにおさめると。
「そうだったのか、それはよかった。…ああ、そうだ。昨日から言おうと思っていたんだが、紫龍さん、ではなく紫龍と呼んでくれてかまわない。敬語も、使わなくていいぞ」
「え、でも、たとえ1つでも年上は年上ですし…。母が、そういうことにはきびしい人だったので…」
たとえ1年でも数ヶ月でも、さきに生まれたのであれば、敬意をしめす。それが、私と母の信条なので。そうつぶやく。
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お題配布元:
勝手にお題やってみた!2