自分に勝つために、運命にあらがうために。
「弱いから、ただ待っているだけの人生で、しっぱいばかりしてきた。だから、運命から逃げるためにはしりつづけてる」
「それを、強いって言うんだぜ? 本当に弱い人間なら、逃げるだけで終わっちまう。けど、ちゃんとはしってられるんだから、
攸日は強いよ」
「…そう、かな…。ありがとう」
そうだぜ、と笑う星矢に、
七子もてれたような笑顔をかえす。
「
七子がオレたちの世界にいたら、いい聖闘士になりそうだ」
「聖闘士って、女の子もなれるの?」
「ああ、なれるよ。仮面つけて、顔を見られたら、あいてを殺すか愛さなきゃいけないって決まりがあるらしいけどな」
「なにそれ、いやな決まりだね…」
「基本的には男社会だからなー。そのくらいの覚悟がないと、なれないってことなんだろうけど」
それにしたって、すがおを見られたら殺すか愛せとは、なんともめちゃくちゃな話しである。
「アテナを守る、って言ってたけど、アテナって女神の名前よね?」
「ああ。戦の女神だ。その生まれ代わりだとされる人が、沙織さんって人なんだけど、その人を守るのがオレたちの役目さ」
「生まれ代わり? じゃあ、人間なの?」
「まあな。
七子と、おない年だぜ? オレたちの育ての父親がいるんだが、その人の孫なんだ」
星矢たちはみなし子だとかで、全員、父親代わりの城戸光政という人に育てられたらしい。
「あ、みなし子なんていうと、変な誤解されるかな? べつに、不幸自慢とかじゃないんだぜ? 実際、不幸だとは思ったこともないけどな」
「いえ。星矢さんたちを見ていれば、なんとなくさっしがつきます。きらきらしてるから」
「そ、そうか?」
「はい。とても」
それに、他人からしたら不幸にも見える身の上だからと、本人がそう感じていないのであれば幸福ともいえるだろう。
「それに、うわべだけでものごとをはかるのは、好きじゃないので」
さすがに、あれだけの個性ゆたかな刀剣男士を、52人もしたがえているだけのことはある。将たるうつわを、きちんと持ちあわせている。すくなくとも星矢には、そう感じられた。
「ふところがふかいっていうのは、きみみたいな人のことを言うんだろうな」
「そうでしょうか? 母は、もっと寛大な人でしたよ? 母は私には、永遠のあこがれです」
あこがれても、けっしておいつけなどしない。それでも、そこを目ざしてすすまないのは、逃げるのとおなじことではないか。だから今も、あこがれつづけ、目ざして行ける対象だと考えているのだとつなぐ。
「そっか。けど、きみはきっと、そこにたどりついちゃうんじゃないか。オレには、そう見える」
「そう、ですか? だったらうれしいです」
てれたようにはにかむさまがなんとも言えず、星矢のほおがうっすら朱にそまったように見えた──。
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お題バトン