「主には、俺たちのだれかがついている。そのものが、主にちかよるのを、ゆるせば…だがな」
「今日の近侍はたしか、鶴丸どのですか」
「うむ。あのものは主を特別だいじにしておるからなあ。かんたんには、ちかよらせてはくれんか。錬度も、この本丸では1番高い」
なるほど、百戦錬磨なのは、おたがいさま……というわけかと納得する。
「おぬしも戦士だと聞いた。どれ、すこしこのじじいの相手をしてくれんか。最近めっきり強くなりすぎたようでな、弱い歴史修正主義者との戦いでは、身体がなまってしまいそうだったのだ」
「…いいのか、勝手にそんなことをして」
「はっはっはっ、主のことなら、俺が説得しておく。おぬしは客人なのだ、心配するな」
この三日月という男士の目には、1点のくもりもない。主も、そういえばそんな目をしていた。ペットは飼い主に似るというのは聞いたことがあるが、刀も持ち主? 主? に似るのだろうか。
「では、たのむぞ」
すらりと、細身の刀を抜く。その瞬間、一輝がかるく目を見張る。三日月の目が、一瞬でするどいものに変わったのだ。それはまさに、手練れといった感じの、戦士の目だ。
(こいつ、できる…!)
最初に対峙した刀剣男士も、刀を抜いた瞬間に目が飢えた獣のようなそれに変わったものだが、三日月のそれはまさに血に飢えたおおかみのもの。
「三日月宗近! 刀をおろしなさい!」
「…ふむ、主におこられてしまったな。すまんが、今日はここまでにするか。あらためて、手合わせねがうぞ。われらは、主の命にはさからえんのだ」
「おじいちゃん!」
「はっはっはっ、すまんすまん。主よ、このおのこ、なかなかおもしろいやつぞ?」
「もう! うちのおじいちゃんが、ごめんなさい。のほほんとしてたと思ったら、いきなりわけのわからないことする人なのです…」
おじいちゃんだとか言われておこられているというのに、三日月のほうはまったく意にかいさない。なるほど、わからないというか食えない男である。
(なんなんだ、こいつら…)
いっきに毒気をぬかれ、ちいさくため息をつく。
(案外こいつら、なにも考えていないだけなんじゃないか…?)
一輝の予想は、じつに的をいていたわけだが、このときはまだそのことを理解していなかった。
「ところで、主。なにか用事があったのではありませんか?」
「あ、そうだ。お夕飯ができたから、呼びにきたんですよ! もう、おじいちゃんのせいでわすれてたじゃないですか!」
「はっはっはっ、さて、めしにするかの。おぬし、好ききらいはないか? うちの歌仙と燭台切のめしは、最高だぞ? 最近は堀川も手つだってもるようでな、さらに腕をあげた」
「料理もできるのか、刀なのに」
「せっかく人の身をえたのですから、いろいろやってみたくなる。それも、より人間にちかづくこと、なのだそうです。そうですよね、主」
笑顔でうなずく。
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お題配布元:
光と闇