一輝が鼻で笑う。
「あの女ですら、政府を信用してるようには見えん。そんな連中が、よそものの俺たちに、手をかすとは思えんが。審神者とやらや刀剣どもはともかく、俺たちは消してしまっても問題はない。むしろ、消してしまえば手間もかからず、一石二鳥だ。信用にたるのか?」
「兄さんの言いたいことはわかるよ? でもこの世界では、僕らは無力も当然だ。なら、彼女やこんのすけくんを信じるしか、すべはない。ちがう?」
「瞬は、人がよすぎる。あの女もあの管ぎつねも、政府の手先ではないという保証はどこにもない。警戒をするに、こしたことはないだろう」
「でもやっぱり僕には、彼女が悪い人には見えない。僕は、
七子さんを信じるよ。みんながどう言おうとね」
すぐに人をうたがってかかる兄の性格は熟知しているし、それが仲間を心配する不器用なやさしさからくるものだということも、理解している。だがそれでも、瞬は人を信じることを、やめたくはないのだ。
「オレも、瞬がそういうなら…信じるぜ」
「…ああ、今はそれしかないだろう」
「それが、今は最善策かもしれんな」
「うん。だめならだめで、また考えなおせばいいことだよ」
せきを立つ一輝を、一様に見ると。
「俺は勝手にさせてもらう」
「兄さん!」
こうなった一輝になにを言ってもむだなので、瞬がちいさくため息をつく音だけが、部屋にひびいた。
(まったく、あいつらはあますぎる…)
廊下のかどをまがるとどうじに、茶をすする青い着物をきた男士が目に入る。
「おぬしか、主の客人というのは。そのように気を立てていては、見えるものも見えなくなるぞ?」
「…あんたは?」
「三日月
宗近。うち除けが多いゆえ、そう呼ばれておる。天下五剣にして、1番美しいとも言うな。13世紀に打たれた。まあ、ようするにじじいさ。ははは」
百戦錬磨と自負する一輝でさえ、わかる。この男、ただものではない。となりにいる髪の長い男士は、
数珠丸恒次というらしい。三日月とおなじく天下五剣の1振で、僧を自称し、その目はひらかれていない。
「俺たちの主が、信用ならんか?」
「…あんたたちの主だけじゃない。政府とやらも、あの管ぎつねもだ」
「はっはっはっ、それはしかたないのう。人というのは、自分にとってえたいの知れんものは、おそれをいだくものよ。おぬしも、われらが神と聞いたり、その神をしたがえた人間がいるなどと、常識の範囲外だ。とてもかんたんに受け入れられんのも、しかたないであろうな」
「ですが、今はこれが現実ではありませんか? どんなに受け入れがたい現実であろうとも、それにさからうことはできません。それに、私たちの主は、あなたがすなおに感情をぶつけたくらいでへこたれたりはしません。それだけの、強さもお持ちのかたですよ」
この男士たちは、主の身が心配ではないのか。
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お題配布元:
光と闇