「審神者さまのおっしゃることもごもっともではございますが…。あ、しょうしょうお待ちください。なにやら、政府より入電がございました。…ふむ、このかたたちの身柄は、ひとまず審神者さまがあずかるように、とのおったしでございます」
「…はあ、また勝手なことを…。わかったわ、政府の命令じゃ、ことわれないものね。…というわけだから、本丸にご案内します」
「ですが主、このかたがたが敵ではないという保証はどこにも…」
「そうだけど、どうせ政府は審神者はおろか、男士も使いすての道具としか思っていないもの。なにを言ってもむだですよ、太郎さん」
時の政府にとっては、審神者も刀剣男士も、いくらでも変えのきくものでしかないのだ。さからえば、切りすてられる可能性だってあるはずだ。
「一応、自己紹介はしておきますね。私は
名無七子。ここの本丸で、彼ら刀剣男士をたばねています。それから、この白いのは鶴丸国永。こちらの赤い着物は和泉守兼定。1番おおきいのは太郎太刀。こっちのはなやかな着物は次郎太刀。黒いのが燭台切光忠で、もう1人は堀川国広です」
「オレは星矢。
天馬星座の星矢」
「
龍星座紫龍」
「
白鳥星座氷河だ」
「
アンドロメダ星座の瞬です。彼は僕の兄で、
鳳凰星座の一輝」
彼らは戦いの女神であるアテナの青銅聖闘士で、アテナを守るための戦士なのだという。
「それで、その鎧、というわけでしたか。それでは、うちの男士がずいぶんとはやとちりをしていたようです。すみません」
「でも、彼らはあんたを守るのも仕事なんだろ? なら、ただしいことをしただけじゃないか。そうとわかれば、べつに、オレたちは気にしてないぜ?」
「まあ、そう言わないで。うちの主は、こういう子なんだよ。僕たちも、最初はとまどったんだよねえ」
「まあねー。あたしらはあんたの部下なんだからって言っても、いつまでも敬語がぬけなかったよね」
「だって次郎さん、なまじちいさいころからみなさんを見てきたから、突然部下だ命令しろと言われてもむずかしいですよ」
ここにはいない刀たちも、主だからといきなりうやまうようなことを言われたりして、よくとまどったものだ。
「みなさんは仮にも神さまなんですから、当然のことだと思いますけど」
「神さまあ!?」
「はい。彼らは何百年とだいじにされてきた、刀にやどった魂ともいえる存在、付喪神が人間のすがたになったのです。末端だとは言われていますが、神さまですよ?」
「つーこった。オレらは主の霊力によって作りだされた、人ならざるものなんだよ。人間とやってることは変わらねーけどな」
審神者になにかがあれば、自分たちはただの刀にもどってしまう。正確には刀にもどるのではなく、刀の付喪神にもどるだけであって、人間には見えない存在になるというだけのことではあるのだが。
「だからこそ、われわれには主が必要なのです」
「僕たちにとっての主さんは、親でもあり上司でもあり、世界のすべてでもあるんです」
「兄弟って呼べる、おなじ鍛冶師の打った刀がいるやつもいるが、主の存在はそれ以上に特別なものだ。だから、なかには自分の認めた主にしか仕えない…なんて刀も、まれにいるんだぜ?」
「まあ、うちにはそんな刀はいないけどね。母が、そのへんはちゃんとしていてくれたから」
「それだけじゃあないと、いつも言っているだろう? きみは、ちゃんと主のつとめははたしているさ」
やさしく笑いかける鶴丸に、審神者はちいさく苦笑をかえす。
「本丸につきました。まずはみなさんのお部屋をご用意しますから、広間でお待ちください」
聖闘士たちを広間にすわらせると、ちいさい子たちがあつまってきた。お客さまだから、しつれいのないように、と審神者が釘をさして行く。
→
お題配布元:
紅い空