審神者の1言で、おとなしく刀をおさめるもの、しぶしぶおさめるもの。いずれにしても、みなおさめてはくれた。
「さて、迷い人のみなさま、こちらは2205年でございます。ここには刀剣の付喪神である刀剣男士を人の姿として顕現する、審神者なるものがおります」
「よくわからんが、その刀剣男士というのは、いったいなんだ」
「歴史を変えようともくろむ、歴史修正軍と戦うことが、彼らの仕事です。歴史を1つでも変えられてしまえば、タイムパラドックスによって、未来が変わってしまいます。それを阻止するべく、遡行軍と私や刀剣男士たちが日夜戦っています」
時間遡行軍の真の目的は、政府にもまだよくわからない。ゆえに、審神者にもこんのすけにも、説明のしようがない。
「こんなお嬢さんが、こいつらをたばねてるなんて、信じられねえぜ…!」
「せ、星矢、しつれいだよ…!」
「…この本丸は、つい先日まで母がはぐくんできた本丸ですから、むりもないです。…ですが、それでも私は、自分にあたえられた職務だけはきちんとこなしているつもりです」
「うちの主は、こう見えてかなりのちゃっかりものだし、芯もしっかりしてる。俺たちをたばねるのにふさわしいうつわは、きちんとそなえているさ」
めずらしく目をつりあげた鶴丸に、審神者もすこしだが、おどろく。
「審神者さま、このかたたちは迷い人でございます。政府でおあずかりすることも可能ですが、どうなさいますか?」
「さあ。私には決める権利はないでしょう? そちらに、決めてもらうしかないと思うわ。時の政府は、ハナからそれが目的なのでしょうし」
「かしこまりました。では迷い人のみなさま、この本丸で身柄をおあずかりするか、政府に身柄をおかれるかをおえらびくださいませ!」
えらべと言われても、なんとも答えられなかろう。
「なあ、管ぎつねさん。オレたちはもとの世界に帰って、守らなくちゃいけない人がいるんだ。帰ることはできないのか?」
「それはしょうしょう、むずかしい問題ですな。いかんせん、時空のさけめはもうとじてしまいましたし、つぎはいつどこの本丸にあらわれるかもわかりませんゆえ…」
「この時代には、ほかにもたくさんの本丸がある。政府でもすべての本丸に、100%すべてに目をくばれているわけじゃない。だから、時の政府はあてになりませんよ」
「さ、審神者さま、そのような言いかたは…」
「だってそうじゃない。あの人たち、母の病気に気づいたのだって、死ぬ直前だったもの」
以前ここで審神者をしていた彼女の母は、最近病で亡くなった。本来なら、たすかるはずだった病で。
「もうすこしはやく母の異変に気づいていたら、母は死ななかったわ」
「そのへんでやめとけよ、主。あんたは、できることはやったんだ。こんのすけを責めても、しかたねえだろ?」
「…兼さん…」
やさしく笑みをむけ、頭をなでてくれる和泉守のおおきな手は、いつもあたたかく審神者をつつみこんでくれる。
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お題配布元:
紅い空