朝の新宿駅。構内に設置された伝言板に向かっていた
七子は、駅の階段ですれ違った女性に、なにかしらの既視感を感じていた。それがなんなのか理解できず、しばしたたずむこと、約5分。はたと気づき、あわてて伝言板へと向かう。
「今日こそ依頼が…! …ない…」
がっくりと肩を落とし、今きた道を戻る。
「もうこれで、まるまる3ヶ月依頼なし、か…」
通帳とにらめっこをしてみるが、やはり残高は少なく。とてもではないが、あと1月持てばいいほうだ。
「それもこれも、リョウが依頼人に手をだすことがうわさで広まったせいなのよね…」
そんなうわさが広がったせいで、女性からの依頼がこなくなった。だが、リョウは女性からの依頼しかうけない! などと言っているわけで……。
「まあ、こうなることは必然なわけよね…」
かといって、あしでまといにすらなっている自分では、あまり強くは言えない。
「…はあ…」
大きなため息をつくと、マンションへと戻る。
「ただいま~…」
「おかえり~。依頼はあったか~?」
のんきにゲームをやっているリョウに、堪忍袋の緒が切れた。
「貴方が依頼人に手をだすから! ああっ、もうっ!」
「…なあ、
七子。カルシウムが不足してるんじゃないか?」
突然まじめな顔をしたかと思えば、この1言である。
「もういい。話したくない」
「…
七子ちゃ~ん? もしかしてー、本気で怒ってる?」
完全に無視されてしまったリョウが、苦笑いを浮かべた。
「はら~、僕ちゃんってば、本気で怒らせちゃったみたーい。いけなーい子」
目を合わせようともしない彼女に、ゲームをやる手をとめると。
「ほれ」
「…なに」
「依頼人の連絡先。お前にはちょっと危険すぎる仕事だから、黙ってようかとも思ったんだが…。まあ、なんとかなるだろ」
「…それって、また先回りして、伝言板を消したってことよね…? ねえ、リョウは私になにをさせたいの? 仕事の手つだいをさせたくないわけ?」
「そうじゃない。…ただ、お前を…亡くすのがこわいんだよ…」
大きく目を見開く。
「…そう言えば、許されると思ってるんでしょ? 甘いわ。…貴方のあしでまといになるくらいなら、死んでもいいと思ってるんだから。それに、リョウになにかあったら…私はどうすればいいの?」
「…わかってるつもりだ。だが、もう相棒が死ぬのはたくさんなんだ」
「私は死なない。死ぬときは、貴方も一緒に連れて行くわよ。じゃなきゃ、私があの世で寂しいもの」
一瞬目を見開くと、笑いだす。
「おまーが言うと、ほんとになりそうだな」
「言魂って言葉は、リョウも知ってるでしょ? そうなるって言っていたら、現実になるんだよ、案外」
「…はは、
七子らしいな」
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ツイッターの診断で「朝の階段」で登場人物が「すれ違う」、「ゲーム」という単語を使ったお話を考えて下さい。というのがでたので、形にしてみた…んですが…。これもかなり微妙な話になってもたわ…;;
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○○な色でお題バトン110717