わが国の皇帝陛下は、まったく後宮にはきてくださらない。かと思ったら、最近は朱雀の巫女とかいうのにご執心らしい。
(私たち、なんのためにここにいるのかな)
私、いまだに皇帝陛下の顔知らないや。
「はあ…」
後宮をぬけだし、いつものお気に入りの場所へ。だけど、今日は人がいる。
(いつもは誰もいないのにな…)
――しかたない、ひきかえそう。
音をたてないように、と思ったのに、そんなときにかぎって音をたててしまった。
「誰だ」
「あ、えっと…あやしいものではなくて、ですね…。ちょっと後宮をぬけだ…あ…」
「後宮を…?」
「あ、ち、ちがいます! ぬけだしてきたりなんか、してないです!」
あ、こら、私のばか!
「…ぬけだしてきたんだな…?」
「…はい…」
「…名を、きいてもよいか…?」
「え、あの…」
「今夜のことは、見なかったことにする」
おれいとともに、名前をつげた。そんなことがあって、翌日。
「皇帝陛下よ! 後宮にいらしたんですって!」
……へー。1度、顔が見てみいわ。なんて、のんきに考えていると。
「うそ、こっちにいらしたって!」
「失礼する。こちらに、
七子はいるか?」
……私?
「…って、あれ?」
昨日のお兄さんだ。
「ちょっと
七子! そのかたは皇帝陛下よ!」
「…え、ええーっ!? あ、あなたが…!」
うそでしょ!?
「名を、名乗っていなかったな。
彩賁帝、星宿だ」
「さ、昨晩は皇帝陛下と知らず…ご無礼を…」
「よい。気にするな。…それより、そなたと…すこし話がしたい。よいかな」
「はっ、はいっ」
苦笑う星宿さまに、緊張してしまう。
「そう緊張せずとも、昨夜のように、普通に話してくれていいのだぞ?」
「そうはいきません! 昨夜は知らなかったからともかく、皇帝陛下に失礼があっては…」
「…そうだな。しかし…私は、昨晩そなたと話して…たのしませてもらった。だから、今だけでいい。普通に話をさせてくれないか? たのむ」
「…あ…は、はい…」
その後もなんどとなく、星宿さまは私をたずねてきてくれて。
「
七子、たのみがある」
「はい? 私にできることなら…」
「うむ…。私の…妃になってはくれぬか? もちろん、正式な」
あまりにもあっさりとつげられた言葉に、一瞬、意味がわからなかった。
「え、あの…私が、ですか? というか、私でいいんですか?」
「そなたでなければ、だめなんだ」
「あ…はい!」
うれしい。すなおに。
「…よかった」
……とまあ、ざっとこんな経緯で、私は今星宿さまの正妻をしている。正妻……なんて言っても、陛下はあいかわらず、後宮には行かないのだけれど。
「陛下、りっぱなお世継ぎをつくるのも、男子たるあなたのお仕事です。たまには後宮に…」
「よい。…私には、そなたがいればいいのだ」
女としてはうれしいけれど、皇帝の正妻としては複雑な言葉に、苦笑いをかえした――。
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いつまでも一途なのは、妻としては嬉しいことなんですが、立場を考えたらあかんやろーとなるから高貴な人は大変です…
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お題2120405