「なんでいつも、くるしい恋ばかりしちゃうのかなあ…」
好きになっちゃいけない人で、むしろ人ですらなくて、彼はなんなのだろう。人間でも神でも、ましてや妖怪でもなく。
「…はあ…」
「どうしたんじゃ、おぬしがため息をつくなど、めずらしいの」
……こんなときにかぎって、人間界バージョンですか。そのイケメンでおしゃぶりはどうなの。なにか意味があっておしゃぶりしてるらしいけど。あ、でも、今日はしてない。
「コエンマさまは、なやみとかなさそうで、うらやましいです」
「失礼じゃな! わしはいつも、仕事やおぬ…いや、いろいろなことに頭をかかえておるぞ! 人間界のこと、魔界のこと。問題はやまずみじゃからのう…」
「そのわりには、ひんぱんに人間界で遊んでらっしゃいますよね?」
「…う…」
それどころか、最近はずっと人間界にいるような気がするけど。
「霊界に帰らなくても、いいんですか?」
「それがのう、おしゃぶりをはずすとどうなるのか、まずはその説明からせねばならんわけじゃが…」
「…はい?」
人間界に霊界ハンターという魔界と人間界の拮抗を守る、霊界のエリートらしい人たちの手にも負えないほどの危機がおとずれたとき、コエンマさまや彼のお父うえ……エンマ大王がちょくせつ手をくだすことがあるらしい。
「基本的にはな、わしらエンマ族は人間界にも魔界にもノータッチなんじゃ。監視するのが役目じゃからな。すくなくともわしの生まれたこの500年は、使うことはなかったんじゃ…」
「おしゃぶりを?」
「媒介は、おしゃぶりである必要はない。わしの場合は、まだ子どもだから、という理由だ」
エンマ大王さまから見たら、コエンマさまはまだまだ子どもなんだと、いつぞや聞いたけれど……。
「エンマ族が手をくださねばならんほどの危機がおとずれたとき用に、ふだん身につけるものに膨大な霊気を貯める。だから、エンマ族は弱く見られがちなんじゃ」
「本当に危険なときにしか、力を使わないってことですか?」
「そういうことだ。だが先日、その力を使わなければいかんときがきてな…。ただまあ、わしの行動は、結果として無意味だったのでな…。おやじに、すこし人間界で修行をつんでこいと、おこられてしまった…」
へー。エンマ大王さまは、きびしい人らしい。父親としての親心も、あるみたいだけど。
「それでな、玄海のところで世話になろうかと思ったんじゃが…」
人間や妖怪で言ったら、あんたはいいおとなだ。だいの男が、1人で暮らしていけないわけがなかろう! 自分でなんとかせい! と言われてしまったとか。
「はあ、それで…?」
「行くとこがなくて、こまっておる」
「…はあ…?」
「おぬし、たしか実家暮らしと言っていたな。友人だとでも言って、おいてもらえんか」
「…は?」
いやいや、待ってください。本当に友人だとしても、見た目は若い男性にしか見えない人を、年頃の娘といっしょにおく親がどこにいるか。
「霊界に帰れ」
「冗談じゃ、そんなにおこらんでくれ」
冗談に聞こえなかったんですけど。
「しばらく玄海のところにおるでの、用があったら呼べと、幽助たちにもつたえておいてくれ」
「なんで私が!?」
笑って行ってしまうコエンマさまに、ため息しかでない。
「…人の気も知らないで…」
霊界のトップで、エンマ大王の息子。こんな人を好きになってしまったことが、ただうらめしい。だけど、好きになってしまったものは、しかたないか……。
「それとな」
「ひゃあ!?」
「人間界にきたついでに、おぬしにみやげじゃ」
霊界で評判のものだと、ちいさなつつみをわたされる。
「さーて、きょうの夕食はなにかのー」
じゃっかん照れていたような気がするけれど、気のせいだろうか。
「え、これって…」
魔よけだと書いてはあるが、指輪だ。しかもなにやら、左の薬指にはめるものらしい。
「…こんなことされたら、期待しちゃうよ…」
「期待して、いいみたいですよ」
「っ…!? く、蔵馬!? …まさかとは思うけど、ぜんぶ見られてた…?」
「ええ、9割がた」
……ほぼぜんぶじゃん……。
「知ってます? 結婚指輪って、魔よけなんですよ」
「…え…」
「いやー、あのコエンマが、あんなに顔真っ赤にしてたんですよ。あなたにも見せたかったなあ」
地雷を投下だけして去っていく蔵馬に、私までほおが熱くなった──。
Ende. 170818
多分、この方でちゃんとした文章を書いたのは初です。あべまのアニメ放送見て再燃して、某アンソロを今更読んで、今更コエンマが好きになりそうです…
おしゃぶりしてるのにあのイケメンっぷりはなんだ、けしからん(すこ)
お題配布元:
月夜の逢瀬