ねえ、セバスチャン、私……今ならわかる気がするの。悪魔がなぜ、人間の魂を食べなければ生きていけないのか。だって、悲しいわ。哀しみも愛もやさしさも知らない悪魔なのに、哀しみも愛もやさしさも知っている人間がいなければ、生きていけない。
神さまはときどき、いじわるをするの。哀しみも愛もやさしさも知る人間には死ぬくるしみをあたえ、哀しみも愛もやさしさも知らない悪魔には、永遠の命をあたえた。永遠の命とひきかえに、たいせつな感情をうばわれてしまった悪魔と、命の代わりにたいせつな感情をもらった人間。皮肉なものよね。
つよい力や美しさ、強靭な肉体がない代わりに、永遠に生きるくるしみから解放された人間。でもだからこそ、悪魔は人間に、あこがれにも憎しみにも似た愛おしさを感じているのではないかしら。
「魂だけの存在になってしまった幽霊のあなたが、なぜ、そのようなことを言うのです?」
そうね、おかしな話。……でも、魂だけになってしまった今だからこそ、あなたが人間ではないと気づけたのよ。
「ぼっちゃんに、人間らしくふるまえと、命令されていますからね」
ねえ、セバスチャン。この世で1番つらいのは、生きることなの。だから私は、つぎの生なんてのぞんでないわ。
「…それで? 私にどうしろとおっしゃるのです?」
悪魔に食べられてしまえば、生まれ変わるようなことも、ないと思わない? だから私、あなたのところへきたの。
「だから?」
私、どうせならセバスチャンに食べられたいわ。だめかしら?
「…安物の魂には、興味はありませんよ」
私、そんなにまずそうかなあ……。まあ、しかたないね。セバスチャンがそう言うなら、ほかをあたることにするよ。
「…待ちなさい。…そこまでの覚悟があるなら、魂の奥底まで私をきざみこんであげますから」
……うん、うれしい。セバスチャン、ずっと、いっしょにいてね。
「言われずとも、そうしてさしあげますよ」
こんな私がもしゆるされるのならば、この世も捨てたものでもないのかもしれない。ねえ、セバスチャン、愛していたわ。
「…知っていますよ」
こんどからはあなたのなかで、あなたを見守っているわ、セバスチャン。
「さようなら、
七子」
──ありがとう、セバスチャン……。
「…私は、あなたになんら感情なぞ、抱いておりませんでしたよ。ええ、すこしも、ね」
降りだした雨が、セバスチャンのほおをつたう。それが涙なのか雨なのかは、本人しかしらない……。
Ende. 150324
悪魔は涙を流さないというけれど、本当に心を動かされる事があったら、無意識に流してたらいいなという願望(^q^)
お題配布元:
想像バトン91