「あっつ…!」
料理をおぼえたいといったのは
七子だというのに、彼女ときたら包丁の使いかたはあぶなっかしい、やけどはする。あなた、それでも女ですかと、あきれてしまうほどに不器用ではありませんか。
「またやけどしましたね? まったく、人間というのは脆弱でいけません」
「…ごめんなさい…」
水にやけどをした部分をつけてやりながら、ため息をつく。
「どうしようもない不器用さんですね、あなたは。裁縫においては器用だというのに、どうして料理になるとそうなるのか、理解にくるしみます」
「り、料理とは、相性が悪いんですよ…」
「相性が悪いのであれば、相性をひっくりかえすだけの努力をなさい。火炎放射機をつかわないだけ、バルドよりはましですがね」
バルドやメイリンよりはましですが、彼女もいい加減、おっちょこちょいではかたづけられない不器用な部分があります。本当にどうして、天然ボケというらしいのですが、あの天然はなおらないものなのか。
「天然ボケとやらでですませられるレベルではありませんね」
「うっ…。セ、セバスチャンさんには言われたくないですし! セバスチャンさんだって、私から見たら、天然でおもしろいこと言ったりやったりしてるんですからね!」
そうですね、あなたにはよく笑われていますね。私はいたってまじめにしているつもりなのですが、どうやらそれが、彼女には笑いのツボとやらに入るようです。
「あなたほどではないと思いますが」
「ぼっちゃんいわく、どっちも同レベルらしいですけどね」
失礼な話です。私を、このようなバ……バカと、いっしょにしないでいただきたい。
「私は、あなたのようにバカではありませんよ」
「バカって言った!」
「ええ、ここの人間はぼっちゃんをふくめ、私以外全員バカです」
「なんですかその、根拠のない自信と小バカにした顔は!」
自分にあたえられた仕事がふつうにこなせない使用人や、すぐにつかまるぼっちゃんの、どこがバカではないのです?
「ていうか、セバスチャンさんまじドエス。鬼ー、悪魔ー」
「鬼ではなく、私は悪魔で執事ですから」
「…勝てる気がしない」
「今ごろ気づいたのですか? やはり、本物のバカ、ですね」
これがバカでないというのならは、だれがバカなのですか。
「バカって言うほうがバカなんですー」
「…バカはだまって仕事をしなさい。トリプルアイスクリームにしますよ」
「うっ、それはいや…!」
まったくもって、このお屋敷はバカばかりですね。屋敷のなかも、たずねてくるのも、バカなのですから……こまったものです。おかげでこちらは、バカバカ言いすぎて、つかれてしまいました。
「バカな子ほどかわいいなど、どこのざれごとでしたか。かわいいどころか、にくしみすらおぼえます」
それでも今日をぶじに乗り切るため、結局は私が走るしかないのですから、まったくいやになります。
Ende. 150313
文句を言いながらも、うんざりしながらも完璧なお屋敷にするため、奔走せざるをえないセバスチャン…
ある意味健気だけど、それもこれも獲物を狩るための行動なのかと思うと、アーッ♂
お題配布元:
いろは唄でお題