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【チェ槙+狡噛フィギュアスケートパロ】

「仕方のないこととはいえ、少し、退屈だな」
 ふっかりとしたベッドに後ろから倒れ込みながら槙島がぼやく。気分だけでも明るい色をとの気遣いなのか、久しぶりに試合で泊まるホテルの掛け布団は若草色にリニューアルされている。
 世界が感染症の脅威に飲まれて国際試合の開催がストップしてから一年と少し、最近はこの「バブル形式」と呼ばれる方法で、ローカルなものから徐々にスポーツの試合が復活してきている。
 チャーター機で到着した選手をただちに貸切バスでホテルに移送する、厳重な体調チェックでゲートをくぐった後はGPSを持たされ、ホテルと、隣接する会場以外には出ることはできない。見えない泡で隔離するがごとく外界との接触を断つやり方。
 槙島さんは嫌いそうですねぇと苦笑いすると、試合に行くんだから当然だ何も問題じゃないと言っていたが、やってみると練習時間は限られているし、いつもならその隙に別の練習場所を借りたり観光したりしていたのが禁止になっているので時間が余りすぎ、一日で持ってきた本が尽き、電子書籍は味気ないと嫌味を言われ、暇なので狡噛慎也の部屋に読み終わった本を抱えて茶化しに行ってはスタッフに厳重注意され、当の本人が一番の問題だった。コーチのチェ・グソンの実感である。
 ふてくされた顔を見つめると、槙島がグソンを見つめ返して悪戯を企んだこどものようににっこりと笑ってくる。
「暇だからさ」
 グリーンの布団に散ったプラチナブロンドに彩られたその顔は絵に描いたように魅惑的で、グソンは半歩後退ってしまう。
「セックスしようか」
 やはり予測通りのろくでもないお誘いが飛んできたのに、グソンはぶんぶん首を振りながら本気で逃げてしまった。
「やりませんよ! 試合前に何やってんですか。何かあったらどうするんですか!」
 少し上体を起こし、試合では天から差し込む光の糸のようにその輪郭を彩る(今はちょっとだけボサボサの)髪の間からグソンを見詰めた槙島は「ふぅん」と意味ありげに口許を綻ばせる。
「何かあるようなこと、する自信があるんだ?」
「〜〜〜〜〜」


「よう、随分疲れてるな。大丈夫か。まだ試合前だぜ」
 後日、リンクでたまたま一緒になった狡噛が心配して声をかけてくれる。
「大丈夫です……槙島さんとの会話に疲れているだけです。何もしてませんから」
「……? よくわからねぇが、槙島ならそうだろうな」
「ところで世界中どこでも届くAmazonって便利ですね」
「あ、ああ?」
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