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【チェ槙+狡噛フィギュアスケートパロ】

「ステイホームかぁ……」
 新種のウイルスが蔓延している今日この頃。ついに拠点のアイスリンクが閉鎖されることになり、だからといって周辺の商業施設のアイスリンクやスポーツジムに出没するのは避けたほうがいいんだろうなあ……槙島さん有名人だし……噂が噂を呼んで過密になると申し訳ないし……それもそのうち閉まっちゃうんだろうし……――フィギュアスケート世界ランク一位の教え子を持つコーチのチェ・グソンは、携帯に届いたメールを見ながら深々とため息をついていた。
 しかしうちの教え子は、味気ないことが何よりも嫌いな問題児。果たしておとなしくステイホームなんかしてくれるものだろうか。暗澹たる気持ちで槙島の部屋のドアをノックすると、返事はなく、大音量の音楽だけが壁越しに聞こえてきていた。
「居るんでしょ。開けますよ」
 構わずに中に入ると、槙島は大量に積んだ本をスタンド代わりにして携帯端末を立てかけ、頭の痛いワーグナーに合わせてポーズを取っているところだった。本の横にはおとりよせマドレーヌが山と積まれている。

「めちゃくちゃステイホーム満喫してたーーーーー!!」
 グソンの声に槙島は目を輝かせて振り向いた。
「ああ、ちょうどいいところに来たね、グソン。今ステイホーム中のスケーター仲間でそれぞれの『憧れ◯◯選手のプログラム、陸上で踊ってみた動画』をアップしようって話になってるんだ。狡噛の歴代フリープログラムの物真似を撮って五分以内の動画に編集――何日でできる? あと Tiktok用の30秒バージョンも欲しい」
 もとのプログラムではジャンプが入るタイミングで見事なピルエットでターンして、光が舞い散るように髪が揺れる姿はまさにワルキューレの奇行。だがそういう問題ではなく。こいつがワルキューレだとしたらブラック労働のヴァルハラ直送だろう。とにかく雑用すべて当たり前に投げるんじゃない。
「なぜ俺が快く引き受けてさっくりとできること前提の話なんですかね!?」
 グソンのツッコミに、槙島はきょとんとした顔をする。何が面白い冗談なのか解らないと言わんばかりに。
 グソンがため息をついていると、槙島は「あ、そうだ。これも聞かなければいけないと思っていたんだが」と音楽を頭出しし、踊り始める。
「ここの振付コレオ振り付けなんだが、狡噛は中国杯とグランプリファイナルで変えてきただろう? どちらのほうがいいと思う?」
 グソンはいよいよ遠い目になりながら答えた。
「いやあ、俺は狡噛さんの演技、試合でしか見たことないので知らないですね。
(訳:いちいちテレビ中継録画してまで微妙な違いを把握してるのあんたくらいだ、この狡噛オタクが!)」
 あ、イライラしてきた。ていうか狡噛さんもこの動画見たらキレるだろうし一回ちょっと訴えてやってほしい。
 槙島のほうはと言えばグソンが乗り気でないのを企画から仲間はずれにされたせいだと思い込み、何かと「グソンもステイホーム動画アップしようよ」
 という提案をしてくる。
「あのね槙島さん。俺は目ェやっちまってまともに滑れないから引退したんですけども」
「いや、スケートだけとは限らないよ。見なよ、これ。一番にアップした縢は料理のタイマー代わりにゲームを使う動画だ。鍋を火にかけてからFGOを取り出してくるとは思わなかった。クリアした頃にちょうど煮上がっているんだというからたいしたもんだ。魂の輝きを感じる発想だね。最近はキーボードを打つ音をひたすら聞く動画も流行っているらしい。どうだい、グソンも」
「……結構です……」


 後日、陸ダンスによる槙島聖護の狡噛慎也完コピ動画はダイジェスト版が無事公開され、さらに翌日には熱いリクエストによりフルバージョンとメイキングが公開されたが、槙島の狡噛オタクぶりに振り回されて拗ねているグソンは気づく由もなかった。

「えっ槙島くんとグソンさん住み込みで練習してるのは知ってたけど」
「練習自粛中でも槙島の動画をグソンが撮ってるなんてもしかして」
「ということはーー!?
「チェ槙同棲してるーーーーー!?」

 まったく別の理由で、二人のファン達が死屍累々になっていることを。
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