成り代わりの高杉妻は来世で好き勝手する事にした
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「恵美さんって社長の事が嫌いなんですか?」
カウンセリングを終えて、そのまま雑談をしていた藤丸と恵美。
藤丸の問いに瞳を数回瞬かせた恵美はにっこりと笑みを浮かべて手元の端末に視線を落とした。
「藤丸君も大変ですね。自分じゃ聞けないからとあの人から頼まれたんでしょう?」
「は、ははははっ」
図星である。
先日、恵美に対して行われた尋問にて恵美は高杉に対し、貴方の妻に戻る気はないときっぱり告げた。
それからというもの、高杉は落ち込み、殆ど部屋に篭りっぱなしでいた。
何とか元気づけようと坂本龍馬や岡田以蔵など生前から付き合いのある者達や、今現在親しくしている者が高杉の私室を訪ねたが一体何があったのか、たまに激しい戦闘が起こるだけで彼等が訪ねた後も高杉が部屋から出て来る事はなかった。
そんな高杉を心配して藤丸も様子を伺いに行ったのだが、その時に頼まれてしまう。
「雅子のあの言葉は本気なのかマスターからも尋ねてくれないか」
澱んだ目で縋る様に頼まれては流石の藤丸も断る事は出来なかった。
「そうですね。あの人の事が嫌い、嫌い?」
自身の気持ちを確認するべく呟かれた言葉。
嫌いが疑問系となっている事に藤丸は内心、ワンチャンあるのではと期待に胸を弾ませる。
「嫌いではないですね」
「じゃあ!」
先日、高杉が自身を嫌いかと問うた時も恵美は明確な返答を発しなかった。
前世の事とはいえ、一度は結婚し、子供を作った仲なのだ。
なんだかんだ恵美は今も高杉の事を憎からず思っているのではというのは、藤丸の希望だった。
それが叶った。
「だからといって好きという訳でもないですけど」
「あれー?」
かと思われたがやはりその希望は叶わなかった。
恵美の言葉に藤丸は姿勢を崩してしまい椅子から崩れ落ちてしまう。
「大丈夫、藤丸君」
「大丈夫です。それよりどうしてですか」
藤丸は椅子に座り直すと恵美に理由を尋ねた。
「私、前世の記憶があるでしょ?」
「はい」
それが発覚したので先日は恵美に対して尋問が行われた。
尋問といっても事情聴取の様なもので、高杉が私欲混じりの質問を混ぜた事で始終締まりのない物であった。
「実は前世の時にもその前の記憶があったの」
つまり前前世の記憶である。
「私の前世の前世は今の様な現代的な世界でね。こういうのって転生と言ったら良いのかしら?」
恵美は頬に手をあてて頭を傾げた。
藤丸もいくら魔術師の端くれとはいえ前世だとか転生だとかはよく分からない。
なので口を挟まず恵美の話を大人しく聞いている。
「つまり、何というか、前世の私は幕末の人間だったけど常識や感覚は現代人寄りだったのよね」
「それって凄く大変だったんじゃ」
日夜、過去の時代にレイシフトする身である藤丸には身に覚えがある。
過去の時代というものには現代人の常識や感覚では理解しきれないものが沢山ある。
「そう、凄く大変なの。幼い頃は馴染めなさ過ぎて狐付きかと疑われてお祓いを受けたのよ」
「えっ?!」
恵美の言葉に藤丸は驚きの声を上げた。
狐付きと疑われ、お祓いまで受けた恵美はそれからは生きるために沢山の事を我慢した。
現代人の感覚では到底我慢出来ない事も多々あったが生きるためにも飲み込んだ。
そうして良い娘、良き嫁、良き妻として生きていた恵美。
しかし高杉に愛妾がいると分かって思った。
「無理だなぁって」
当時の感覚では妾を持つ者など高杉に限らずごまんといた。
遊郭だって現役であった。
けれどそんな時代であっても妻だけを一心に思う夫達もいた。
「あの人とは子供も作ったし、新婚生活なんて殆どなかったけど代わりに手紙はくれてたから少しは思いが通じあっていると思っていたの。けれど妾がいた」
あの時の自分はどう思ったのだろうか。
恵美は当時を振り返る。
幼い息子を抱き抱え、義母と共に夫の元に向かった。
義母の提案だったけれど少しでもあの人の役に立てればという思いも多少あった。
あの当時は気付かなかったがはしゃいでいたのかもしれない。
前世の前世はそれなりに結婚に憧れていたけれどそれは叶う事なく生まれ変わっていた。
生まれ変わって憧れの結婚をしたけれど新婚生活などないに等しく、だからせめて今から少しでも夫婦らしい事が出来ればと期待していた。
けれどあの人には何処へでも連れて歩く愛妾がいて
「無理だと思ったら後はどうでも良くなってしまったの」
これまで現代人であった自分を押し殺し、周りに馴染もうと耐えてきた恵美であったがそれだけは我慢出来なかった。
我慢出来なくなって、すぐにどうでも良くなった。
だって義母が怒って子供が泣いている。
愛妾がいる家に義母達と泊まる訳にもいかない。
日が暮れる迄に今夜の宿を探さなくてはいけない。
良い妻ではいれなかったがせめて良い嫁、良き母でいなければと恵美は思い、恵美はその後の人生を懸命に生きた。
「どうでもよくなって、何なら今の今まで忘れていたのに今更妻として求められても迷惑なのよね」
だからね、と恵美は微笑む。
「私は今世で好き勝手に生きますから貴方も私に構わず好きに生きてください
と恵美さんからの伝言です」
藤丸が言い終えると一瞬だけ部屋が静かになった。
誰かが溜息を吐く。
「なんというか」
「是非もないよねって感じじゃの」
「自業自得じゃ」
そう言ったのはちょうど高杉の様子を見に来て、そのまま話を聞いていた沖田総司、織田信長に茶々である。
藤丸から恵美の伝言を聞いた高杉は今日も自身の吐いた血に沈んでいた。
「もう、いい加減諦めたらどうですかー?」
「これは夫婦の問題なんだ。部外者の君は黙っていてくれないか」
自身の血に濡れながらも何とか立ち上がろうとする高杉であるが
「夫婦と言っても元じゃろ?元」
「うっ」
「社長ー!!!!」
茶々の容赦のない追撃に高杉は胸を押さえ、再び倒れる。
「わしはそう悲壮に暮れるもんではないと思うがのう」
「そうですか?でもこの人、元奥さんに迷惑とまで言われているんですよ」
「それにもう構うなとも言われておる」
「も、もう止めてあげてよー!」
信長の言葉に反論する沖田と茶々の言葉は既に死に体の高杉にオーバーキルが過ぎた。
もはや死体撃ちに近い状況に三人の会話を止めたい藤丸であるがそんな術は持ち合わせておらず静止の言葉を言うぐらいしか出来ない。
「じゃが、付き纏いを止めろと言うどころか好き勝手しろと言っておる」
信長はニヤリと笑うと、高杉に言葉を投げかける。
「良かったのう高杉、元妻からこれからも好きにしろと許可が出たんじゃからな」
「絶対にそういう意味ではないと思うんですけど」
ポジティブが過ぎる信長の解釈に沖田に茶々、藤丸の三人は困惑していた。
対して高杉はというと、
「確かに信長公の言う通りだ。こうしちゃいられない!」
信長の言葉が効いたのか突然の復活を遂げた高杉は立ち上がるとすぐさま部屋を飛び出した。
そしてそれから暫くして恵美の悲鳴が聞こえた。
復活して早速、恵美に何かしだしたらしい高杉を止めねばと藤丸は腰を上げる。
「ありがとうノッブ」
「ん?」
「高杉さんに元気付けてくれたんだよね」
てっきりそうだと思っていた藤丸。
実際、信長の言葉が効いて高杉は復活したのだ。
その為、先程の言葉は高杉を思ってかけてくれたのだと思ってお礼を言ったのだが、
「あー違いますよマスター。今のは高杉さんがこのまま諦めてはノッブが大負けしてしまうので元気付けたんです。決して高杉さんを思ってかけた言葉ではありません」
と言う沖田。
どういう事かと藤丸は頭を傾げる。
「ノッブは高杉さんと恵美さんが元鞘に戻るに賭けていますからね。ここで諦めてもらっちゃ困るとかそんなところでしょう」
「当たり前じゃ!わしがあいつに幾ら賭けておると思っておる!」
「んん?」
状況がいまいち分からない藤丸に茶々が耳打ちをした。
どうやら今、カルデアでは高杉と恵美が元鞘に戻るか戻らないかで賭け事が行われているらしい。
そして殆どの者が戻らないと賭けてる中で信長は元鞘に戻るに大量のQPを賭けているのだという。
「そういう事か」
事の真相を聞いた藤丸はがっくりと言わんばかりに肩を落とした。